第5話 残悔のドライブ
その日の晩に、スマホの「通話」で彼女のお母さんと連絡を取った。
「個人的なそうd『ちょっと出よう、マンションのエントランスで21時に』」
上着を着て家の施錠を確認し、久々にエレベーターで降りた。
エントランスにお母さんの車が横付けされ、助手席に乗り込むと、すぐさま発車する。
車の音楽を止めて、お母さんから話し出す。
「最終的には娘だからね、あの子の味方だよ。元ダンナとは違ってね。
だけど、オマエの気持ちもわかる。バカな娘なんだ、バカなことした。
親子揃ってバカなんだよ。手の施しようが無いことを、アタシは経験で知ってる。
……でも、オマエには慰めにもならないけど、ずっと悩んではいたんだよ。
オマエには最初から期待してたし、今まで不満なんて何も感じなかった。
だけど世の中、思うがままなんて事もなかったし、残念だよ」
運転中に、互いに目が合うことはない。
一方的に横顔を見つめているが、言葉とは裏腹に表情には苦悩を見て取れず。淡々としたものだった。
「別れ話もなかったんです。ある日いきなり無視されてそれきり」
カチリと火を着けて、ウィーンと横窓を開けながら、
「それで?
浮気なんてそんなもんだよ。スジを通せるようなヤツなら、初めからやらない」
フーッと紫煙を窓へ吹き流していく。
「相手も、お母さんのこと『義母にする気がない』って」
アハハと乾いた笑いで、お母さんが答える。
「高校生が何言ってんだよ。当たり
『嘘』になる約束よりはマシ。ちゃんと世の中見えてるみたいで感心だ」
「誠実そうには見えなかったって話だよ!」
「詐欺師は『詐欺師』に見えないように振る舞うモンだ。
オマエの嫉妬で相手を貶めても、オマエの男が下がるだけだ。忘れな。
……それに、クズがクズに引っ掛かっただけ。気にすることないよ」
運転中の横顔は、口角が歪んだように上がって、細かく震えていた。
「お母さんは、それで、いいんですね?」
最後の質問になる。もしかしたら最後に交わした言葉になるかもしれない。
「もう、お母さん、なんて呼ぶんじゃないよ。
……バカなオマエに、最後の餞別をくれてやる。
オマエに恨まれて『誰が得をする』のか考えたら、
アタシの言ってる意味わかるだろうね」
車が赤信号で停止する。黙って降りた。
トボトボと歩き、最後の答えをナゾナゾのようにこねくり回して、帰路についた。
――――
(追記)
ネタバレ上等の方はコメントを参照すると面白いかも?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます