第3話 俺は恋人からストーカーへと落とされた

 スマホに既読が付くこともなく。インターフォンを鳴らしても反応はなかった。彼女の母親が在宅している時間でも同じだった。


 翌朝、家の玄関で待ち伏せて、遅刻の時間をオーバーしてなお、家を出てくることはなかった。


 ほとんど昼前になるような遅刻をして、昼休みの教室で彼女の姿を見つけ話しかける前に、俺は副会長に手を取られた。


「離してください!星羅と話をしなくちゃならないんです!」


 副会長は無表情で、騒然とする周囲にも伝わるような声量で言った。


「もう別れてる。これ以上はダメだ。

 嶋野さんからはストーカーになりかかってると聞いた。


 話なら先生も交えて僕が聞く。これ以上は彼女を困らせるな。

 納得するまでちゃんと聞くから、落ち着け」


 乱暴に腕を振り払い、今の言葉を完全に無視して彼女を見ると、姿が消えていた。

 壁まで飛ばされた副会長に、気づいた教室内の数人が寄ってきて、俺はその中の体格の良い柔道部に押さえ込まれる。


 騒動に気づいた教師もやって来た。


「宇崎、お前ちょっと指導室へ来い。太興、お前も関係者だな?ケガが大丈夫なら協力してくれ」


 ―――人物紹介が遅れに遅れたが、俺が宇崎隆宮うざきりゅうぐう、彼女が嶋野星羅しまのせいら、副会長が2年の太興たいこう先輩である。


 *

 **

 ***


 生徒指導室で、俺と副会長と教師の3人で、話し合いが始まった。


 まず騒動の発端として、俺が星羅と話をつけるため。それは急に態度が変わって、無視されるようになったことを問い質しに来たことを説明した。


 教師が次に副会長へ話を向けると、


 星羅が夏休み前から別れ話に難航して、

 俺がストーカーになりつつあると恐怖していること。

 ずっと幼馴染みだったから無下むげにも出来ずに悩んでいたこと。

 副会長との真剣交際を知られると「暴力事件を起こすかも」と心配していることを伝えてきた。


 まるで話の内容が理解できなかったが、俺は反論のためスマホを取り出し、最近までのチャット履歴やツーショットなどを見せて、副会長のデマを否定しようとした。


 しかしそれは残酷な事実を裏付けることになった。


 チャットのメッセージは、良く見ると、そう取れるような、徐々に二人がずれていくような、互いの言葉を素直に受け取らない内容で、副会長がそれを指摘する。


 副会長の解説では、春は完全に「お互いの肯定」で盛り上がっていたが、秋に近づくにつれてお互いの「提案への軽い拒否」だったり、「露骨な話題転換」だったり、「会う予定の順延」が目立っていた。


 やり取りの頻度だけは変わらず、相互の発信回数もバランスが取れていた。


 ……俺は知らないだけだったのだ。

 星羅はもうずっと俺との別れを意識していたのだ。


 実際のところ教師も、夏前から始まった星羅と副会長の親しげな様子に気づいており、「まるで恋人のようだ」と揶揄うと、二人とも笑顔で肯定したとか。


 一瞬「もしかして」とよぎった、レイプ動画で脅されていることも考えたが、夏前からの交際であれば撮影機材の購入前かと、スマホの可能性もあったのに、内心で疑惑を却下した。


 俺と星羅は、今さらであるが、学校内での交際を秘密にしたことが裏目に出ていた。

 毎月一週間の弁当サイクルも、朝の玄関で受け取るだけで、二人きりの昼食は取らなかったのだ。

 一緒の通学だけは認知されていると思うが、誰か見つけてすぐ合流するように、恋人の距離には見えないようにしていた。

 それら三つすべての理由が、星羅の「恥ずかしい」というものだった。


 反論の気力を失った俺に、話のまとめとして、

 今回は暴力事件として取り扱わないこと。話を騒ぎ立てないこと。

 次に何かあればストーカー事案として警察に通報する。学校からも停学以上の厳しい処分があること。

 家族ぐるみの交流があるなら、当事者(ストーカーと被害者)を外し、親同士だけでしっかり話し合うことを告げられた。


 簡単に言うと、話し合いは俺の「完全敗北」であった。




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