第2話 充実していた甘い過去の日々

 風呂上がりの甘い香り、体にぴったりフィットした部屋着スウェットで、均整のとれた美しい体に頭がクラクラする。

 素っぴんではなくうっすらメイクの整った顔は、芸術品だと思う。


隆宮りゅーくんは、部活動のPRもっと考えたほうがいいよぅ」


 俺のベッドに乗って、ストレッチを始めた星羅せいらは。俺のバレー部について少し眉根を寄せ気味に伝えてきた。

 ずっと言われてることだが、楽しくやってる事をもっと外部にアピールする機会を増やせ、ということだった。


 基本的に都立校の運動部はエンジョイ勢であり、私立のスポーツ推薦とは比較にならない。

 だがウチのバレー部は、中学の大会でも活躍してきた面子メンツがちらほら集まってる、そこそこ強いチームであった。

 もっとも俺はレギュラー出場は難しい程度の実力でしかなく、1年生だから下積みの雑用くらいしか貢献できてない。


 それならば、部活動のPRで動画などを作成し、文化祭や高校の入学希望者にアピールできるような素材を作り、頑張れば良いと星羅なりのアドバイスがあった。


「体育会系は厳しい縦社会だから、先輩の指示も無いのに勝手はできないよ」


 そう言って、俺は星羅の背中を優しく押し込んでいく。

 星羅がベッドでストレッチを始めるのは、ここのところで慣例になってきた、そういうサインでもある。


「古すぎる 習慣 だよね。 後輩の 意見でも 正しく 見極められ ないなら、 結局全員 で損する ことになるの に さぁ」


 ストレッチのリズムに、途切れ途切れに答える星羅。


 部活動のPRは昨年の料理部の躍進が背景にあり、生徒会でも部活全体に広めていく方針なのだそうだ。

 生徒会でPCスキルを磨き、部活予算の折衝や、文化祭の計画など、星羅は自身の成功体験を重ねて、それを俺に還元したいのだそうだ。

 両親の離婚で塞ぎ込んだ星羅を支えた俺に、恩返しのチャンスが欲しいと言っている。


「まぁ、先輩方も生徒会の方針は伝わってるさ。3年の引退で新レギュラーが落ち着いた頃なら意見も通りやすくなるから、そのうちね」


 開脚して脇伸ばし。リモコンで電気を消す。

 ノーブラに片手を沿え補助しながら、空いた手で手首をさらに横へ引く。唇を首筋に落としそのままに喋ると、自然と星羅は温泉に浸かったようなイイ声を奏でていった。



 *


 多くを語っても仕方の無いことなのだろうが、生徒会で自分を引き上げ世話になった先輩の話題が多くなっていた。


 もちろん他にも高校で新たに出来た友達の話も有ったが、男で話題に出てきたのは彼だけだった。


 いい気分はしなかったが、お弁当も「通い妻」も、何より星羅の態度に全く変化がなかったので、流し気味に話を聞いていた。先輩の紹介は遠慮しておいた。


 自覚は星羅にも有ったみたいで「気にならない?」との質問に「結婚して共働きになれば、この程度は普通の事だと思うよ」と答えた。

 気休めではなく本気で「信じてる」とも伝えていた。


 夏休みを迎え、俺はバレー部の部活と合宿、初めてのアルバイトで朝昼勤のコンビニを選んだ。

 星羅はPC教室で動画作成を学び、生徒会では文化祭の準備を頑張っていた。


 夏休み明け、生徒会で新たに撮影機材のビデオカメラ、照明、マイクそれに三脚を購入していた。文化祭に向けて弱小部活の動画作りを応援するんだとか。


 コソ練に良い機会だと、たまに機材を拝借しては、星羅は俺たち二人の「恋人イチャイチャ動画」なんか作って遊んでいて、時々二人きり並んで鑑賞会を楽しんだ。

 もちろん流出なんて恐ろしいことになるので、ソッチの撮影はしなかった。「恥ずかしがり」の星羅が、許可する訳も無かったし。


 9月の下旬、無事に文化祭も終了し、バレー部の新体制も整い、話題の先輩は生徒会の副会長に任命されていた。

 所信表明演説で初めて拝んだツラは端正なイケメンで。身長も高く、声までも良く響いた。


 俺はなんだかとてもムカついていた。


 急に不安になったが、時すでに遅し。


 突然、俺は彼女と会話どころか、会うことも出来なくなった。




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