第4話

「なんなんでしょうか……」


 私は蒼平さんに尋ねます。


 衝撃的すぎて、『悲鳴を上げるべきかどうかをまず確かめよう』などと訳の分からないことを考えてしまい、叫ぶこともできませんでした。少女はともかく、首無しの女性は間違いなく幽霊だというのに。


「乃々さん。おかえり」


「はい。それであの、この方々は」


「花子さんと首無しさんだよ」


「いやあの、そういうことじゃなくてですね……。幽霊です……よね?」


「幽霊がこんなにはっきり見えるわけないよ」


「ではなんなんでしょうか?」


「花子さんと首無しさんだよ」


「…………」


 話がループして進みません。もしかしてご本人様たちに訊いた方が早いのでしょうか。


 私は少女を見ました。包丁を持っていて、目つきが悪くて、前髪ぱっつんで、白のブラウスに赤のスカート。


「おばさん、こんにちは。あたしはごく普通の『トイレの花子さん』だよ」


 察したように自己紹介を始める彼女。ごく普通って、トイレの花子さんは包丁なんて持っていましたっけ……。あと個人宅のトイレにもむのですか?


「初めまして! わたしはごく普通の首無し幽霊の『首無しさん』です! 夜の学校で窓際に立って、人を驚かせたりします! 声は生首からでも横隔膜からでも出せるので、一人でコーラスができたりもします!」


 首無し幽霊の時点でごく普通ではありませんし、一人コーラスの特技とか変な情報をインプットしてくるのはめて欲しいのですが……。


「で、あの、蒼平さん。この方々はなんなんでしょう」


「花子さんと首無しさんだよ」


「…………」


 それはご本人様たちからも聞いたので、他の情報を知りたいのですが……。


「蒼平に訊いても無駄だよ、おばさん。えっと、あたしと首無しさんは廃墟の学校にいたんだけどね、人探しをしていた蒼平とっちゃって、子供がこんな場所にいたら危ないって、連れ出されたんだ」


「…………」


 こんな怖いモノ、ちゃんと廃墟に閉じ込めておいてくださいよ……。


「ところでおばさん」


「乃々です……おばさんって言わないでください、確かに蒼平さんより年上だとは思いますけど」


「乃々おばさん。なんか生きている人間みたいに見えるけど気のせいだよね。蒼平がこの家に連れ込んでくるのは、幽霊の女の子って決まっているから」


「決めないでください。気のせいじゃありません。この通り生きてますし……」


「包丁刺して確かめても良い?」


「ダメです!」


 そのとき、私の手元になにかが飛んできて、反射的にキャッチしてしまいました。


 これ……生首!


「乃々さん! 親睦を深めるため、まずはキャッチボールをしましょう!」


「首無しさん! 生首は球技での利用に適しません! ちょっと蒼平さん、煎餅食べてないで助けてください! この人たち怖いです!」


「乃々さん、みんなと仲良くね」


「無理ですよ!」


 お化け屋敷どころの騒ぎではありません。ここはたぶん、日本有数の心霊スポットと化している場所なのではないでしょうか。

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