第28話:真先生




「真魔王、オレが真なる勇者だから、その対抗ってことか。どこらへんがまことの者なのか、今から教えて貰えるのか?」



 バスターが構えを取る。完全な戦闘態勢、バスターは真魔族達とその魔王を、侮れば死ぬ敵だと態度で示している。バスターは言葉が切れるその前に動き出す。バスターが編み出した闘法、永遠無動による瞬間移動と錯覚する程のステップは、真魔王ペンドラースの懐へと易易と忍び込んだ。


異常な緩急による錯覚を利用した永遠無動だが、バスターの永遠無動はいくらかの戦闘経験を経て進化していた。それは相対する者の意識の隙を突く技術、視覚的、意識的、全てにおいて瞬間的な移動を錯覚させる。



「──ほう、変わった戦闘術だ。どうやら我が神はお前のその戦闘術を分析できなかったようだ」



 だが、進化した永遠無動のステップを、真なる魔王、ペンドラースは見切り、バスターの正拳突きを回避する。ペンドラースの表情に焦りはなく、これが当然であると言っているかのようだった。



「なるほど予測か……やっぱりシャアプは強かったんだな。あいつは反応だけで避けて見せた。修行すればいつかはお前に届くな」



 バスターは攻撃を続ける。ペンドラースはそれを避ける。こんな攻防を、俺は少し前に見た。シャアプとバスターの戦いだ、これはアレと全く同じ構図だ。バスターはシャアプの使った突きから切り払いへのコンビネーションを拳闘で再現し、ペンドラースはその全てを避けている。



「お前達、ここは我に任せ、この土地の者達と真なる勇者の仲間を殺しておいで。お前達では真なる勇者の相手はできない、無駄死にだ。力を取ってこい」


「──させっかよ!!」



 ──ギギン! 部下を散開させようとペンドラース、そしてそれを止めようとするバスター。両者の思惑は、そのまま肉体での衝突を齎す。



「──っ……!? 魔力の、刃……? なんつー高密度だ……腕が千切れるところだったぜ……」


「……っ!? 魔法防御を、貫通した!? 振動か……っぐ、骨が、軋む……化け物か……? 人のやっていいことじゃない」



 バスターは腕から出血し、ペンドラースは腕の骨が爆ぜた。しかし、そのどちらもが異常な回復能力ですぐに回復してしまう。ペンドラースは自身に刻み込まれた魔法で、バスターは単純な生体機能で。は……? 単純な生体機能で……? なんていうか、この真魔王の方がよっぽど人間らしい気が……



「弱いな……戦闘のセンスはなかったが、新魔王の方が頑丈さも力の強さも上だった。まだ隠し玉があるってことか」


「まぁすぐにわかるよ。悲鳴と共に、ね──」



 ──キャアアアアアアアア! 女の悲鳴が木霊する。最初の悲鳴からすぐに次の悲鳴が教会を響かせた。男、女、老も若も、全ての苦痛の声が連続し、それはやがて死の合唱となる。



「ゆらめく人の魂が見えるだろう? 普通の状態では見えなくとも、こうして握り、軋み、粉々に壊れる前には、その光りを見せる」



 悲鳴がして、その次があった。ペンドラースが魔法陣を宙に展開し棘で満たされた檻を作ったのだ。そして、その内部には半透明の人のような何かが見えた。



「なっ……お前やめ──」



 ペンドラースの魔法の檻が、中のモノを潰した。その瞬間、檻は淡く光った。あっけなく、潰れたそれは、光でオレとバスターに潰された者の記憶を見せた。



『おいさっき謝ったろう? 今度はちゃんと夕飯には遅れない。父さんだってちゃんと約束したら守れるんだ』


『えーでもお母さんはお父さんは嘘つきだって』



「──っ!? 魂を潰したのか……!? なんてことを……しやがるッ!」


「これが真なる勇者の対策だよ。魂の自我が残ったまま、その魔力を利用しようとすれば、真なる勇者の力で暴走状態へと持ち込まれる。けれどこうやってすり潰して、自我を消し去って、ただの純粋な力にしてしまえば、お前は我の邪魔をできない。殺せば殺すほど、潰せば潰すほど、死の光を見る度に、我は強くなる!!」



 ペンドラースがバスターへと襲いかかる。先程の魔法の刃よりもさらに高密度なソレは、バスターの右腕を両断した。



 ──ボトッ……バスターの分かたれた右腕が地に落ちる。



「なるほどつえー……いやここまでしたんだ。弱くちゃ犠牲になったそいつらも浮かばれねぇか」


「はぁ? お前はどういう思考回路をしているんだ?」


「お前はわかっちゃいねーよ。自分が何をしでかしたのかをさ。新魔王と何も変わらねぇ、お前らはガキだ……知ってるだけで、理解わかってねぇ……お前は恐ろしいことをしてるぜ。お前が潰した魂は、もう二度と戻らねぇ……お前……っ、自分が同じことされたらどう思うんだよ!!」


「同じこと? 魂を潰されたらか? それで終わりだろう? 何者もそうだ、死んだら終わり、終わった者がモノとなって、他の者に利用される──そんなことは当然のことだよ。我はお前達、人と魔族の歴史を学んでいる。だから知っているよ、お前達はいつもそうやってきた。殺して奪い、勝者はそれを正当化するのだ。今度はお前達の番、殺され奪われ、終わって消える」


「それで? 勝者になってどうすんだ? 何のために生きてるかもわからねー癖に、偉そうなことばかり言いやがる。この世界にどんな喜びがあって、何が悲しいことなのか、何もわからねーまま、神とやらに放り出されて、可哀想な奴らだぜ。オレはハッキリと言えるぜ? オレには愛する女がいる。そいつと一生一緒にいるんだ。子供を10人ぐらい作って、家族で最強の騎士団を作る。誰もが笑って、寂しいなんて思わない、そんな幸福に至るため、オレは生きている! オレは幸せ者だ、愛するものに出会えて、オレを愛する人達がいる。だから余った幸せをよ、世界にお裾分けしてやんのさ!!」


「なんなんだお前は、意味がわからない……なぜ我にそんなことを言う必要が……」


「あったじゃねぇか、ここに──知らねぇことがよ。悔しいだろうなぁ? お前なんでもお見通しって顔してたもんなぁ? ははは! 理解してみろよ! 自分のやったことを後悔することになるぜ!!」



 バスター……お前……まさか、真魔王とも対話しようっていうのか? 和解の可能性を見出しているのか?



「理解できない……教えろ。お前のその行動は、どのような感情から生み出されたんだ」


「オレは寂しい悲しいが大嫌いだ。お前らの在り方を見て、寂しいと思った。悲しいと思った。だからそのままにしておきたくなかった。お前らみたいな、化け物に、その意味を教えられるヤツがいるとすりゃ、それは同じぐらい化け物なオレだけだ。ま、教える過程でオレかお前が死ぬかもしれねぇ。だがまぁ、そん時はそん時、オレは全力でやるだけ、今からオレはお前の先生だ!」



 えぇええええ!? せ、先生!? 真なる勇者が、真魔王の先生に……? どうしてこんなことに……ていうかバスター、さりげなく右腕拾ってくっつけてるし……もうなんなんだよも~~~~!! 見てるこっちが頭おかしくなる。


真魔王の方も俺と同じなのか、今からお前の先生だと言われてからポカーンとしている。口を開けたまま、止まっている。



「さーて、じゃあ授業を始めようか? かかってこいよガキんちょ。ボコボコにしてやる」



 ええええええええ!? さっき生きてる意味だとか感情とかどうとか、教えてるやるって言ってませんでした!? なんでボコボコにする必要が!? というか神従主殺しちゃったけど大丈夫なの!? 俺、俺……このままだと心配で病気になっちゃうよ!! 俺病気になったことないけど!!



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