第29話:猫と一族
「ハァアアア!!」
──ビシュ、ビシュ、ズシャアアア!
「──おいおい、強すぎんだろ……!」
ペンドラースにボコボコにしてやると息巻いたバスターだったが、魂を粉砕することでパワーアップしたペンドラースは強く、バスターはペンドラースの攻撃を軽減するので手一杯だった。避けたり無効化したりというのはできないでいる……全身切り傷だらけだ。
「なるほど、これも予測……お前の体に刻まれた魔術刻印が予測魔法を自動発動させてんのか……今まではオレの攻撃に対してだけ予測魔法を発動させていたが、もうオレの回避の予測までやってくるか……」
予測魔法、これは昔、魔法適性のある者達が戦士に対抗するために編み出した魔法だ。予測と言っても未来が分かるわけではなく、戦闘中に相手の動きを分析することで大体こう動くだろうというのを思考する魔法だ。この思考を自動化、高速化するのが予測魔法の強みで、大量の魔力を消費するものの、これを使えるものは脳を一つ増やしているようなもので、強力な魔法だ。
しかし、この予測魔法はあまり流行らなかった。膨大な魔力を持つ魔族ですら扱うには魔力消費が重すぎたのだ。予測するには相手の行動を記録する必要があり、この記録情報を魔法で維持するのが大量の魔力を消費する原因となる。
「生きた生体魔術刻印……元々あるそれ自体に相手の情報を記憶してんのか? だとすりゃあ……情報記録を維持する魔力は必要ねぇ。書き込む分の魔力だけで済む……まさかお前ら真魔族は、戦闘経験を蓄積しまくって……予測の成長で最強を目指すってことかよ」
「おや? 粗暴そうな見た目の割に、お前は随分と察しがいいね。今のところ我の前で魔法を使っていないけれど、魔法を使えるんだね。魔族の母親を持つならば当然か」
「……どうしたもんかな。戦えば闘うほどオレの癖を学習されて不利になる。かといって加減できるほどにお前は弱くねぇ……全力で戦わねぇと勝てねぇな。よし! 逃げるか、お前は後回しだ」
え!? バスターが逃げるか、と言った瞬間に超スピードでペンドラースの前から走りさっていった。ペンドラースはバスターのこの突然の行動を予測できなかったらしく、固まっていた。予測できないことをされるとペンドラースは混乱するようだ。
ともあれ、バスターはそのまま教会を走り抜けていく。聖騎士達と戦闘を行う真魔族を走り抜けるついでに、一撃を与え殺害していく。真魔族がいる場所は実に分かりやすい痕跡があった。魔力の刃による焼けたような斬撃痕が大量に残っているのだ。だからバスターはその痕跡を辿ることで真魔族の追跡をすることができた。
無論、痕跡があったということは戦闘があったということで、痕跡の数だけ被害者がいたということになる。
「やっぱ教会の外にも痕跡……街の方でも……急がねぇと!」
街の破壊を見て、バスターは走る速度を上げる。走るのに慣れていないバスターは息切れを起こしている。走り方も変だ、永遠無動によるステップを長距離ジャンプにしたような感じで、走るというよりは飛んでいる。早いは早いが、バスターは自分でも気づいていない。自分が体力の消耗をしていることに。
そうしてバスターはたどり着く、ダンシャルルの街の中で、真魔族の兵隊の侵攻が止まった場所。真魔族に対抗しうる力を持つ存在がいる場所、バスターの仲間たちがいる場所に。
「バスター!! よかった無事で」
「カトリア! シャクリン、真魔王と戦ったがあいつはヤバイ。無策で戦える相手じゃねぇ、だからとりあえず先に他の真魔族達を倒す」
「だんにゃが来て助かったにゃ~、こいつらヒュージン程じゃないけど強いにゃ。みぃ達じゃ食い止めるので精一杯だったにゃ」
カトリアとシャクリン、そしてその他闇ギルドの同志達とバスターは合流する。戦況はあまり芳しくない、カトリアとシャクリン以外は負傷者ばかりだ。いやちょっと待て、カトリアがこの戦いについていけてるのか? カトリアはバスターの母に魔力は天才クラスと言われていたが……戦闘経験もダークウォッチャーとしての技量も浅いはず……
そう思って俺はカトリアの方を確認……あ!? なんだこりゃ……これ、実体化した落星精霊? 拷問部屋にいたバスターの元へやってきた人と猫が混じったような落星精霊、あれは……こいつの一部だったんだ。カトリアの傍にある落星精霊はあまりに巨大で、俺はこいつを光る壁として認識してしまっていた。その光る壁は、落星精霊の足で、まるで巨人のような大きさだった。光る猫巨人だ。
「でっか!? なんか光ってると思ったけど……これ、カトリアが仲良くなった落星精霊か……?」
「うん、ギルスっていうらしいよ。ずっと眠ってたらしいけど……この子、本当に落星精霊なのかな……? いくらなんでも力が強すぎると思うけど……」
「ぎ、ギルス……? カトリア、それは本当かにゃ!?」
「なんだ猫、なんか知ってんのか?」
「いや、みぃも詳しい話を聞く前にお父さんとお母さん死んじゃったからよく分からないけど。みぃ達の一族はギルスの一族だって聞いたにゃ……」
「シャクリンがギルスの一族……? え? もしかして、このでっけーヤツの子孫ってことか? まじかよ……」
確かに落星精霊? のギルスは猫と人が混ざったようなシルエットをしている。系統としてはシャクリンと同じだ。バスターはシャクリンの話に驚きつつも、片手間で真魔族を殺していく。真魔王でないのなら、奴らの学習力も魔力もバスターに届くことはない。
「子孫かどうかはわからんにゃ。もしかしたらギルスを信仰してた一族かもにゃ」
「ねぇギルス! あなたに子孫はいるの? この子が、シャクリンがあなたの子孫かもしれないんだけど、分かる?」
カトリアがシャクリンを指差しそう言うと、ギルスの巨体がシャクリンを覗き込み……尻餅をついた。これは、たまげたってこと? ギルスが尻餅をついたせいで、街が破壊されてしまったが、人的被害はない。危ない危ない……
「そうかもだって。似たものを感じるって……」
「……なぁカトリア、あの時カトリアの記憶を見たみたいに、今オレとお前の力を合わせれば、ギルスの過去が分かるんじゃねーのか? 対象をギルスにすれば、ダンシャルルで過去に何が起きたのか分かるかもしれねぇ」
「う……えぇ? またあれやるの? し、心配だなぁ。でもそうだよね、力を貸してくれたギルスに恩返しもしたいし、ギルスの過去を見れば、彼が何をして欲しいのか分かるかも」
カトリアも覚悟を決め、ギルスの過去を見られるか試すことにした。バスターとカトリアが念じるかのように集中する。するとあっさり光の渦が現れ、光の渦はバスターとカトリア、そしてシャクリンを飲み込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます