第26話:堕落の通路




「ゴムヒモのおっさんは無事釈放されたわけだし、そろそろ行くか」



 早朝、バスターは聖騎士団所有の牢から抜け出し、ダンシャルルでもっとも大きい教会へと向かった。



「ここがダンシャルルのアレンコード教西方本部。でけーな……それにこの建物だけはちゃんと見た目に気を使ってるんだな。結構立派じゃん」



 アレンコード教のお偉方、神従主は四人存在し、四人の神従主はウレイア帝国の四方、東西南北に一人ずつ、それぞれの方角ごとに統括しているらしい。そんな神従主が活動の拠点とする四つの教会本部の一つ、西方国教会本部がダンシャルルにある。


この教会はとにかくデカく、広めの領地を持つダンシャルルの三分の一を教会の敷地としている。さらに言えば無機質で簡素な作りの建物ばかりなダンシャルルで唯一芸術的な建築物なので異様に目立つ。まるで、自分たちが特権階級であると高らかに宣言しているかのようで……俺としては少し悪趣味に感じてしまう。


が……同時に俺はこの西方教会本部の外観を見て、希望を持つことができた。この教会本部には武人達の信仰する俺の生み出した神器や、古代の戦いの再現をした彫刻などが施されていたからだ。


神器ではなくアレンコードのみを信仰対象とするのがアレンコード教と聞く。そんな宗教の教会にまるで神器教的な彫刻が施されているということは。これはこの地方の神器教信者達の最後の足掻きがあったのだと推測できる。アレンコード教は地元の神器教の者達の意見を取り入れる、妥協をしなければこの西方本部を建てることができなかったんだ。



「警備の騎士も多いなぁ……探知魔法まである……これはオレでは解除できないタイプ……どうしたもんかなぁ……」


「にゃにゃにゃ! 声がしたと思って来たらやっぱりバスターのだんにゃだったにゃ。だんにゃはここになにしに来たんだにゃ?」


「お、シャクリンか。オレはここに忍び込もうと思ってるんだが、結構キツめの探知魔法が張り巡らされてるから、どうしようか迷ってる所だ」


「ほーん? だんにゃもここで情報収集するつもりだったんだにゃ。じゃあみぃについてくるにゃ!」


「え? うん」



 コソコソと移動を始めるシャクリン、そんな後をバスターが続く。シャクリンは猫耳を教会の外壁や地面に向けたりして、何かの音を聴いているようだ。



「ここだにゃ。間違いにゃい、ここの真下、地下は下水道に偽装した秘密通路だにゃ。だいたいこういう偉いヤツのいる建物は、そいつらだけが知ってる秘密の通路が付き物にゃ」



 シャクリンはそう言ってちょいちょいと地面を指さした。一見するとなんの変哲もないポイントに見える。それが逆に説得力を生むというか。


「マジ!? すっげー!? その猫耳でそこまで聞こえちまうのか? 耳いいんだなー」


「そうだにゃ! みぃ達の一族は耳が良すぎて、簡単にこういうのを見つけられるから権力者に嫌われて虐殺されまくったんだにゃ。他の猫系獣人とは格が違うんだにゃ、あいつらは見た目が可愛いだけにゃ」


「あーじゃあ、お前も闇ギルドで保護されてたってことか。うしシャクリンじゃあ、もっと手前のポイントを辿れるか? もっと人目につかない場所じゃないと地面を掘り起こせないからな」


「了解だにゃ! お……? あ! これ……街のデカい娼館と繋がってるにゃ。えぇ? なんで教会がこんな治安悪そうな区域と繋がってるだにゃ?」


「えぇ……? 娼館と? あそこらへんてダンシャルルの闇だってゴムヒモのおっさんから聞いたぞ。ヤバイクスリや奴隷の取引をしてるとか、犯罪者が多いとか」


「まぁとりあえず行って確認するにゃ」



◆◆◆




 シャクリンとバスターは歩いてダンシャルルの大きな娼館の周辺にたどり着く。そしてシャクリンは早速娼館の壁に猫耳をぴったりと付けて、聞き耳を立て始めた。


「おお、手慣れてんな! 見直したぜ!!」


「ふっふふにゃ。みぃはグレートスパイなんだにゃ!」


 シャクリンは聞き耳を立てながらメモを取っている。彼女のペン捌きには目を見張るものがある。とても素早く、美しく、文字がメモ用紙をすらすらと埋めていく。


「これからどんどん書いてくから、だんにゃはそれを読むにゃ、人が近づかないように見ててくれにゃ」


「あいよー。ほーん、こいつら露骨に聖騎士なんだな……聖騎士の裏の部分というか、諜報工作部隊か。聞かれてるともしらねーで警備がどうのだ、ドランボウ家が乗り込んできただの……ん? なんだこれ、教会上層部はシャアプを処分しようとしてるだって? オレに敗北して頭がおかしくなったと思われてるのか……?」



 バスターはシャクリンの聞き耳メモを読み込んでいく。内容は様々だが、雑談、噂話、報告が主で、バスター達にとってはそのどれもが有益だった。



「ともかく、ここが教会と繋がってた理由はよく分かった。ここはかなり聖騎士が多い……客を殆ど取らない高級娼婦やその付き人、警備、ゴロツキに偽装した聖騎士がうじゃうじゃいやがる。ここは神従主にとってかなり安全な場所で、違法なブツを誰にも知られず教会本部へと届ける輸送路だ。腐敗と堕落で伸びた一本の線だ。シャクリン、オレは少し手前に戻ってそこから地下通路に侵入する。お前はどうする?」


「じゃあみぃも一緒に行くにゃ! だんにゃが一回暴れた後だとまた入るのは厳しそうだしにゃ」



 バスターとシャクリンは娼館から離れ、少しした所にある街路樹付近に移動。バスターがシャクリンの指差すポイントを掘削する。バスターは手刀を計四回地面に打ち込み、地を一度蹴ると切り取った地面をスポっとくり抜いた。


くり抜いてできた穴にシャクリンが入り、次にバスターが入る。それと同時にバスターはくり抜いた地面をもとに戻した。



「ここが地下通路か。以外と明るいな」



 俺達の視界に広がるのは地下世界、教会の闇と繋がる場所だ。



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