第25話:いい方法、思いついちゃいました!
「つーかよ、カトリア。お前のその猫みたいな光る影はなんだよ? なんで声が聞こえるんだ?」
『あっこれ? これはダークウォッチャーの力で、落星精霊の力を借りたの。ほら、ダンシャルルに行くまでに頑張って最低限のダークウォッチャーとしての修行はしてきたって言ったでしょ? だからこの土地に眠っていた落星精霊と対話してお願いしたの』
相変わらず拷問部屋でお気楽に過ごすバスター。直接ではないものの、カトリアの声を聞けてご機嫌なようだ。
「じゃあこの光の影は落星精霊? 落星精霊ってこんな強い力を持ってるもんなのか? ヒュージンの妹、クージンが見せてくれた落星精霊は目には見えなかった。こんな殆ど実体化してるようなのが、同じ落星精霊なのか?」
『えっと、わたしの保有魔力量が異常だから、力の大きな落星精霊とも対話できるかもってクージンさんが言ってたの。でも逆に力の弱い落星精霊は、わたしとあんまし相性がよくないみたいで……だからクージンさんの時と同じ、落星精霊だよ。力が強すぎて隠密には向かないけど、パワーは凄いんだから! それよりバスター、手枷も外されてるし自由の身に見えるけど、そこから脱出しないの?』
「ああシャアプが外してくれた。多分遠回しに逃げろって言ってるんだろうが、オレは逃げねぇよ。逃げるにしてもゴムヒモ博士がちゃんと解放されてからだな。牢にしろ拷問部屋にしろ、こんなもんはオレの自由を奪うことにはならねぇよ。そうだな、カトリアは猫と、シャクリン達と合流したんだろ?」
『うん、合流したよ』
「じゃあ伝えてくれ。オレは無事だからそっちはそっちで動いてくれってな。あと処刑したセステスの息子セルテルが国教と繋がってる……って、シャクリンは情報収集が得意って言ってたからそれぐらいは分かるか……でもシャアプにオレが偽勇者だから捕まえろって言ったのはアレンコード教の神従主らしい。ってことは、このダンシャルルを制圧しようってなると、国教とバチバチにやりあうことになっちまう。けど多分、このタイミングで皇帝陛下に国教とやりあう許可を得ようと思っても得られねぇだろうな……」
『国教って言うだけアレンコード教はウレイア帝国で強い影響力を持っているものね。皇帝陛下は許可は出さないわよね』
「っふ……けどよ。皇帝陛下と兄貴はセステスを元々処刑する予定だったって言ってたんだぜ? 元から国教と敵対する腹積もりだったんだ。そんで……皇帝陛下はオレと父様に処刑した貴族達の領地制圧を任せた。これはつまり……やれってことなんだよ。皇帝陛下にお伺いを立てず、国教の影響力を削ぎ、国教の注意をドランボウ家に向けさせる。いわば囮役、帝の盾となる大役を任されたのさ」
『待って……じゃあ、ドランボウ家、オーグラムは帝国の殆どを敵に回すってこと?』
「そういうことになるな。けどそんな悲観的に考えることはねぇ。ドランボウ家は嫌われるだろうが、その理屈で言うのなら、国教のことを嫌いなヤツだって大量にいるはずだからな。領地経営から軍事、行事、人事、全てに口出ししてくる国教がウザくないはずがねぇ。みんな国教の力がつえーから逆らえねぇだけ。けどそこに、もしそこに、国教からの解放にオレらドランボウ家が力を貸すとしたら? このチャンスを使わねー手はねぇ。だから確実に隙はあんだよ。味方は増やせる」
おいおい、なんだか話がデカくなってきたな……帝国、内戦状態になっちゃうんじゃ?
「まぁ皇帝陛下はドランボウ家らしく暴れてこいってのが、真意だろう。けどオレはそれはやらねぇ、もっといい方法を思いついたからな。この方がもっと皇帝陛下のお役に立てるはずだ!!」
よかれと思って余計なこと、そんなことにならなければいいが……
◆◆◆
かれこれ三日が経過した。聖騎士達はバスターの拷問を諦め、バスターを拷問部屋から牢屋へと移した。しかしバスターが牢に来てからというもの、聖騎士達の顔は日に日に強張ったもの、恐怖に怯えるモノとなっていった。
──ガァン! ガァン! ガァン! ガァン!
牢の鉄格子が飴細工のようにネジ曲がる。バスターが修行と称して鉄格子を殴っているからだ。そしてバスターはネジ曲がった鉄格子をまた殴り、元の形に戻す。
「お、おおお! おい! お前なんなんだよぉ!! お前は捕らえられた身なんだぞ! おお、お前の命は、わ、我々聖騎士に握られているものと知れよ!?」
バスターの監視役を任せられた聖騎士は怯えに震えながらも、頑張って仕事をしようとしている。
「わーってるって。これはただの修行の一貫だろ? ちゃんと外で飯食って外で修行したらいつも戻って、鉄格子も戻してんだろ? 一体何が不満なんだか、わかんねーなぁ? オラぁ暇で暇で、このままだとおかしくなっちまいそうだ。オレの楽しみを用意してもらわねーと……あ、そういやお前クランジットって言うんだっけ?」
「ひ、ひぃ!? な、ななな何故それを知って……!?」
「えぇ? そりゃあお前、ここの庶務室に当番表があったからそれを見ただけだけど? お前を採用するに当たってのプロフィールとかもあったな。お前珍しよなー、いやオレも色々見て初めて知ったんだけどさ。聖騎士って殆どが親、親類がいない、孤児院出身者ばっかりなんだってな。でもお前には生きた家族がいるんだよな? しかもこのダンシャルルで暮らしてる。だから今日はお前の家族と話してきた」
「え……?」
青褪め、今にも吐きそうになる聖騎士クランジット。実際こんなこと言われたら怖すぎるよな、世間じゃドランボウ家はイカれた野蛮人一族扱いだし。
「なるほどねって思ったよ。家族っていう狙いやすい所があると、そこから国教への忠誠心が揺らぐ可能性がある。だから国教は孤児院出身者ばかり採用して、幼い頃から国教の教義を叩き込み、家族は国教だけの、国教に絶対服従の戦士を生み出すんだ。聖騎士の孤児院出身者とその他の割合比は七対三、しかもこの三は国教と関係の深い地域に限られる。その中でもダンシャルルは圧倒的に多い……最も国教と繋がりの深い地域であると同時に、もっとも弱点を抱えた地域なのさ」
「お、お前!! 家族を人質、脅しの材料にするなんて戦士のやることじゃないぞ!! 恥を知れ!!」
「そうだな、だからはオレはこれを使う気はねぇ。よかったなお前、オレが誇り高い戦士でよぉ? お前の母ちゃん、お前を誇りに思ってたぜ。立派で、自慢の息子だってな。嬉しそうに語るそんな姿を見て、そいつを壊すってのは無粋だと思った。だからお前にはチャンスをやろうと思ったんだ」
「ちゃ、チャンス……?」
「国教に存在する神従主は四人、その内の一人はこのダンシャルルに存在する。オレはこれからダンシャルルの神従主を殺す。だからこのダンシャルルは戦場となる……お前の家族、仲の良い奴らを他の場所へ逃がせ。適当な理由をつけて、何が何でも逃がせ」
「え……? そんな! そんなことを、どうして!?」
「おいおい、オレを偽勇者と断定して喧嘩をふっかけてきたのは神従主なんだろ? だったら落とし前をつけてもらうのが道理だろ? オレは神従主以外を殺す気はねぇが、殺したら国教も聖騎士達もただじゃあおかねぇ。オレを許すわけがねぇ……だからここでチャンス、選択肢なんだ。お前は選べる、国教への信仰と忠誠心を選ぶか、自分の家族の安全か。だけど戦場でオレと会ったなら死を覚悟することだ」
……こいつヤバすぎだろ……流石に皇帝だって神従主を殺すまでは望んでないはずだ。これがバスターの考えたもっといい方法なのか? もしこれを本当にやってしまったなら……ドランボウ家の領地、オーグラムは、国教勢力に攻め込まれ、地獄と化すぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます