第19話:初めての親子喧嘩




「お前も来るのか、カトリア……お前にはダークウォッチャーの修行があるだろ?」


「バスターが止めても、わたしはバスターと一緒に行くよ。そのために最低限の修行は滅茶苦茶頑張ったんだから! 三日で! 大変だったんだよ?」


「なぁ、ワシはよく知らないんだけど、ダークウォッチャーってヤバい系のジョブじゃなかったか? アレンコード教の聖騎士が探してるとか、そういう話を聞くが」



 バスターとスミスが闇ギルドの首領、八腕のヒュージンと処刑貴族の領地制圧の会議をして三日、予定通り、バスターとスミスは処刑貴族の領地制圧のため移動を始めた。悪路を走る馬車がガタガタと揺れる中で、飛び入り的にこの旅に同行したカトリアを、バスターは心配そうに見ていた。



「父様、詳しい話はヒュージンに聞いてくれ。オレはうろ覚えだからよ。おおざっぱに言うならダークウォッチャーはアレだ。強い精霊術士みたいなもんらしいぜ。それより父様、馬車は変えなくていいのか? オレ達とは別の領地を処理しに行くんだろ?」


「別に一緒の馬車に乗ってたっていいだろう? 道は途中まで一緒なんだし……それともなんだ? お前らワシがいたら都合が悪いのか? まぁ聞くまでもないか、どうせお前ら馬車の中でおっぱじめるつもりだったんだろ!? ワシの目が黒いうちはそうはさせんからなッ!! ワシはお前とカトリアの結婚は認めんからなッ!!」


「チッ……父様、何勘違いしてるか知らねーけど。オレとカトリアは今のところそういう感じにはなりそうにねーよ。というか、父様がカトリアとの結婚を反対したって、母様の方は賛成してるってこと、忘れないでくれよな? って、あっ!? やべー忘れてた。兄貴を領地に連れ戻すために説得しなきゃだったのに、領地攻めですっかり忘れてたぜ……」



 バスター、完全に反抗期だ。今までずっとバスターを見てきたが、バスターがこれほど露骨に父親に反抗的だったことはない。カトリアとの結婚を認める認めないで喧嘩をするまでは、バスターは父親であるスミスに従順だった。が、これは嬉しいことなのかもな。ある意味でバスターは父親よりも好きな女を選んだということで、それはバスターの自立、バスターが大人に近づきつつあることを示している。



「バカお前、クレイモアはマグニアス皇帝陛下の直属の家臣だぞ? お前の一存で動かせる立場ではない! 身の程をわきまえろ! それともお前、皇帝陛下より、お前の欲望が優先されるべきなどと、不遜な考えでもあるのか!? だとしたら、ワシはお前を殺さなければならんぞ」


「はぁッ!? オレが皇帝陛下に逆らう訳ねーだろ!! バカなこと言うんじゃねーよッ!! オレが兄貴の代わりに近衛騎士団の団長になって、兄貴を領地に戻せば済む話だろうが! それなら皇帝陛下だって文句は言わないはずだぜ!」


「カーッ!! 馬鹿野郎!! バスター、お前がクレイモアの代わりなんて務まるわきゃねーだろうがッ!! いいかバスター、クレイモアは特別なんだ。ドランボウ家の者ではありえない思慮深さと高い魔法力、ドランボウ家らしい高い武勇、それを持ち合わせるクレイモアの代わりなど、お前にはぜーーーーーったいに務まらん!! 確かにバスター、お前も高い魔法力と強い力を持っておる。だが、思慮深さがまるでない、終わっとる。お前はまるでご先祖のように、じゃじゃ馬だ!」


「ムカーーーーーーッ!! 言ったな!? じゃじゃ馬だって!? そんなの父様だってそうじゃないか! 母様が言ってた! 父様は若い頃調子に乗った嫌なヤツだったって……! 母様に何度も何度もフラれたんでしょ? 回りからも反対されてたんでしょ? 父様はそれでも諦めなかった。だったらオレだって、反対されたって! カトリアと結婚したっていいだろ!!」


「うっ……っくッ……確かにワシはかつて勘違い野郎だった。ワシが誘えば女はすぐにワシのモノになると思っておった。だが誇り高く美しいナイネムに釣り合う男になるために、ワシは変わったのだ!! ならばバスター! お前も変わって見せろ! 証明して見せろ!! ワシを納得させてみろ! ワシがカトリアとの結婚を否定する以上の根拠を、お前が示せい!!」


「やってやろうじゃねーか! ああ!? クソが! もう馬車出てけよ! 行き先はどうせ別れるんだ!」


「あぁ? 父親に向かってなんだその態度は! チッ、しょうがねぇなぁ……男の覚悟を無下にするわけにもいかん。バスター、言ったからにはやってみせろ。じゃあな」



 ──ガチャ、バタン、タタッ。怒ったスミスは走行中の馬車から飛び出し、一度地面を蹴ると、隣の、本来のスミスの馬車へと乗り移っていった。



「ば、バスター。そんな、スミス様と喧嘩することなんてないのに……」


 そういうカトリアの口元はニマニマとしていて、嬉しそうだった。まぁそうか、何がなんでも結婚してやるんだという覚悟の言葉、好きな男から言われれば嬉しくないはずがない。


正直な所……俺にはバスターがカトリアにここまで執着する理由が分からん。俺はバスターが生まれてからずっと見てきたが、バスターの心までは分からない。バスターの感情を察することはできても、それそのものが分かるわけじゃない。


だから分からない……バスターはカトリアのどこがいいのか、まるで分からない。俺は神の中でも人に近く、人間の恋愛感情も理解できるし、俺にも昔愛した人間がいた……恋人関係にはなれなかったけれども……バスターがなぜカトリアを好きになったのがよく分からない。単にカトリアが俺の好みじゃ無さすぎて、分からないのかもだが……それでも何かあるはずだ、バスターがカトリアに執着する、好きになる理由が……




◆◆◆




「ふぃ~着いたにゃ! ここがダンシャルル! 帝都程じゃないけど、立派な街だにゃ!」


「──ピキィッ!! っと、我慢だ、我慢だオレ……このふざけた語尾は、シャクリンにとっては大事なことなんだ……」


「バスター、そんなにシャクリンさんの語尾がダメなの? 可愛いと思うけどなぁ~」


「おぉ! バスターのバカとは違って、カトリアはよく分かってるにゃ! 良い子だにゃ~。けど本当にこっち側に来るのが首領じゃなくて、みぃでよかったのかにゃ?」



 バスター達は目的地であるダンシャルルにたどり着き、このダンシャルル攻めに参加する者達と合流する。このダンシャルル攻めで中核を担う闇ギルドのメンバー、それが闇ギルド三腕のシャクリン。シャクリンはあっさりとバスターに敗北した過去を持つが、それはバスターが強すぎるだけで、シャクリンも本当は実力者だと、ヒュージンは言っていた。



「ヒュージンが良いって判断したんならそれで良いだろ。あいつは父様よりもオレが強いと勘定して、人員を割り振った。だから戦力バランスは同じぐらいって言ってたぞ」


「ほーん? そうなのかにゃ? みぃは戦闘より他のことの方が得意だから、パワー特化のバスターの補佐に回るのは確かに、バランス感覚だにゃ!」


「あ、そうなのか? 戦闘特化じゃないのかお前。具体的にはどんなことできるんだよ」


「おいおいだにゃ……闇ギルドでは例え仲間であっても、能力は詳しく聴かないのがルールだにゃ。具体的な説明はできにゃいけど、方向性だけ言うなら、みぃは情報収集と盗みが得意だにゃ。盗みはともかく情報収集は首領の妹の方が得意だから普段は結構暇してるにゃ」


「分かった。じゃあシャクリンは情報収集とか、必要なら盗みとかも良い感じにやってくれ。オレとカトリア、他のメンバーも街に潜入して情報を集める。オレが暴れ出したら、状況を見て各自判断してくれ。そうだな、できるだけ領民に被害が及ばないように、それで不利を背負ったら、その不利はオレに押し付けろ。領主が死んで混乱してるだろうし、これ以上負担をかけたくねぇ」


「お、おほぉッ?! ま、まままま、まともなこと言ってるにゃ!? バスターはイカれ野郎じゃないのかにゃ!? なんでここでまともなこと言うんだにゃ! 身構えてたみぃが馬鹿みたいだにゃ! 損したにゃ! 謝罪と賠償を要求するにゃ!!」


「悪かったな。おらよ賠償だ」



 賠償、バスターはそう言うと魚の乾物を荷袋から取り出し、放り投げた。



「うおっ、上物!? ありがとうだにゃ~! バスターのだんにゃ、太っ腹だにゃ~」



 部下? の不満もシンプル解決した。猫は魚が好きというのは、獣人?でも同じらしい。



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