第18話:表の闇ギルド
「はぁ? セステスの領地、ダンシャルルの制圧を闇ギルドに手伝えだと? バスター、正気か? 闇ギルドがこれ以上目立てば自由に動けなくなる。普通のギルドと同様の形で使えると思うな」
「っは、そいつはもう手遅れだなヒュージン。オラぁ、皇帝に謁見するために皇帝の界球に入った。そこでオレ達ドランボウ家の現実、扱いっていうのを知っちまった。どうやらオレの家は想像以上に有名で、尊敬と恐怖、好きと嫌いの心が全部集まっていた。オレが闇ギルドに入った時点で、闇ギルドは目立たないなんて選択肢は消えてたんだ。お前だって、想定してなかったわけじゃねーだろ?」
皇帝から処刑した貴族や大臣達の領地の制圧を命じられたバスターは、帝都の迎賓館に帰ってすぐ闇ギルドのアジトへと足を運んだ。今後の相談と、闇ギルドの協力を得るためだった。
「……もちろん想定はしている。というかお前の父親、英雄スミスの影響を考えてお前の闇ギルド入りを断ることができなかったというのが本音。敵対するぐらいならとお前を入れたが……もう少し融通が効くもんだとな……」
「八腕の首領であるお前でも父様が怖いのか? あんたは勇者なんだろう? だったら父様に勝てるんじゃないのか?」
「お前は意地の悪いヤツだなバスター。お前だって知ってるはずだ、お前の親父、英雄スミスがなぜ英雄と呼ばれるか。それはスミスが勇者でない、ただの人であるにも関わらず、他国の勇者を一人で殺したからだ。そんなことをしでかした人間は歴史上指で数えられる程度しかいない……つまりスミスは勇者でなくとも、勇者と同等以上の力を持っていると考えられる。そんな英雄スミスと真なる勇者、同時に敵に回すなど正気の沙汰ではない」
「いやいや、父様が殺した勇者って近くの小国の勇者だろ? 流石にバカでかいウレイア帝国の勇者であるお前よりは弱いだろ。まぁでもそうか、お前の立場からするとドランボウ家は敵に回せないか……いやこれって、お前に限らずウレイア帝国の奴らの殆どはドランボウ家を敵に回せない感じか……? ヤバくないか? オレの家……」
「はぁ……やっと理解してくれたか、お前の立場をさ」
ヒュージンはバカでかいため息で肺の空気を全て抜いた。とんでもなく長い溜息だった。呆れ具合がよく分かる。
「……時代が動く。これはもう仕方ないんだろう……なら覚悟を決めて、最善を尽くすのみだ。バスター、お前が真なる勇者となる前から、ドランボウ家の影響力は強かった。帝国中の尊敬と畏怖を集めていた。最近じゃお前の兄、クレイモアが皇帝を守護する近衛騎士団の団長になったものだから……他の貴族、大臣、文官、商人達はドランボウ家を警戒していた。これ以上影響力が強まってしまったら、王の血統がもう一つあるのと同じだとな。どうにかしてドランボウ家の影響力を削ぎたいと考えていたはず、そこにダメ押しでバスター、お前が真なる勇者に覚醒した」
「ああ、そういうこと? オレん家がデカくなり過ぎてヤバイから、これから本格的にドランボウ家潰し、組織的な敵対が始まるってことか? なんか嫌われてるなぁって本能的に察したけど……ヒュージンの説明でこれからの話がやっとわかったぜ。つまりは、結局闇ギルドはオレらに表立って協力するしかねぇってことだな!」
「はぁ……まぁそうなるな。で、いつセステスの領地、ダンシャルルに行く? わざわざ闇ギルドの力を借りに来たということは、少数精鋭で一気に終わらせるつもりなんだろうが……」
「よくわかってんじゃん! 結構な貴族連中が処刑されたから、ゆっくりやってたら後がつかえちまう。皇帝陛下の命は処刑した奴らの領地の処理を、ドランボウ家でやれっていうものだ。全部やるまでは領地に帰れねぇんだ。でもやっぱり早く領地に帰りたいだろ……? ちんたら軍隊編成して物資がどうだのこうだのってやってたら、もう頭おかしくなっちまうよ。幸いオレも親父も強いから、少数精鋭は元々向いてるやり方、でだ……そこでお前だよヒュージン。帝国の三勇者の一人の力を借りりゃ、すぐ終わるってもんよ!」
「おいおい、少しはこっちのことも考えてくれよな。それなりの誠実さはどこかで見せてもらうことになるぞ?」
「安心しろ! ドランボウ家は恩を二倍返しにするって家訓がある! お前らが困ったら命懸けで、全力で助けてやる! というわけで三日で準備してくれよな。連れてく闇ギルドの人材を見繕っておいてくれ」
「三日だけ……まぁいいか。ダンシャルルの制圧ぐらいなら僕一人でもできそうな仕事だしな。とりあえず詳細な話を詰めていくぞ──」
ヒュージンも大変だなぁ……ドランボウ家が恐れられる理由って、単に力が強いからってだけじゃなく、強引な上に関わると面倒だからなのかもなぁ。
結局、処刑貴族の領地制圧に闇ギルドがガッツリ関わることが決まって、スミスも闇ギルド入りし、バスター、スミス、ヒュージンの三人でああでもないこうでもないと会議をする運びとなった。
その間、スミスは闇ギルドのメンバー達からサインを求められたり、握手を求められたりと大人気だった。三腕のシャクリンもまたスミスにサインと握手を求めた一人で、彼女はサインを貰って喜び、「最強の不良のサインだにゃ!」と猫耳をぴょこぴょこさせていた。
……ドランボウ家の影響力が、存在が大き過ぎるか……確かにこれでは、公爵家、王族にも匹敵する、下手するとそれ以上の……
力の強い存在を弱き存在が倒す時、それはいつだって知恵を使って成し遂げられる。気をつけろバスター、きっとお前達を狙う者は、厄介だぞ。
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