第17話:処刑人一族、動く
「サニア卿、あなたには色々と噂がある。女好きで、それが災いした結果、他国のスパイに情報を渡しただとか、奴隷を違法な形で集めているとか。これについて真実を述べて頂きたい。真実を話せば、絶世の美女をこちらで用意し、あなたの相手をさせよう」
「え、えええええええ!? それは本当かっ!? じゃあ話しちゃうんじゃよーん! 確かに他国のスパイ、それもかなりの美人が私にハニートラップを仕掛けてきたのは事実。けれど、私も若い頃、程度は違えど似たような形で痛い目をみておったから、それを見抜くことができたんじゃ。けどこう、楽しんだ後に気づいたもので……これを報告すると疑われたり、評判が落ちると思って黙っておったんじゃ……奴隷の方は全くの事実無根じゃのう。私はちょっと生意気な女が好みでのう、心の死んだ者は好みから外れる」
サニア卿、みるからにエロジジイといった見た目の男。クレイモアの尋問はシンプルで、バスターの真なる勇者の力、意思を強化する力の影響下にある相手の強い欲求を刺激するような交換条件を提示し、強制的に真実を話させる。これが面白いほどに効果的だった。
特に文官や大臣、中央で戦闘の危険の少ない領地を持つ貴族に有効だった。彼らには死が身近ではなかったからか、死の恐怖というものにリアリティを感じることができないようだった。バスターが目の前で、死を実感させたはずだが……それでも自分には関係ないという意識は変わらなかった。
そして逆に武人タイプの者達、これの反応は別れた。一つは死に恐怖を抱く武人のグループ。死を身近に感じるあまり、バスターに意思を強化されても自分のエゴよりも死への恐怖の方が上回る者が多かった。そういった者はある程度バスターの力に耐性があったと言える、少なくとも尋問に関しては。
そんな死の恐怖を強く感じる武人とは別パターン。死に慣れてしまい、死の恐怖を感じなくなってしまった武人、あるいは元から恐怖を感じないサイコパス的な武人。こいつらは他の文官や大臣達と同じく、欲求を刺激してやると、すぐに真実を話した。ただ……
「欲求ですかい!? そりゃあもう、真なる勇者、バスター殿と戦わせてくれぇ! 伝説の武人と戦う、こりゃあ夢だ! 伝説を感じさせてくれぇ!!」
こんな感じでバスター、あるいは英雄スミスとの戦いを真実を話す交換条件として求めるものが大半だった。戦いを求められたバスターとスミスはそれに応じ、罪を犯していた者は処刑もついでに行った。どの戦いも、あっさりと終わり、いい勝負とはならなかったが……こういったイカレタイプの武人は戦闘にしか興味のない者の方が善良で、権力や女を求める者は普通にカスが多く、処刑されるレベルのことをしていた。
死に恐怖を感じる武人、このグループに関してはもっとも真面目で、忠誠心に厚く、本心を隠すことが可能でも正直に話そうとする者ばかりだった。そして同時に現在のウレイア帝国での主流宗教、国教であるアレンコード教ではなく、今では古代宗教と呼ばれる神器教への強い信仰を持つ者達だった。
神器教……これは俺も知っている。アレンコード教とかいう、俺の名前がついているのに知らないモノとは訳が違う。神器教は、俺が封印される前、地上で活動していた時にはすでにあったものだからだ。
神器教は俺が生み出したアーティファクト、神の力を宿した武具を信仰する宗教だ。バスターの地元のオーグラム、これはアーティファクトの一つ、魔剣グラムから来ている。そしてこの魔剣グラムを扱った者こそが初代ドランボウ家当主のジーク。
かつて人々が魔族と敵対していた頃、強大な魔力に対抗するために力が必要だった。俺が神器を人間達に与えなければ、人間は確実に絶滅していたことだろう。それだけの戦力差があった。そしてこの神器にはある特性があった。神器には意思があり、神器が使い手を決めるのだ。
これは俺が悪しき存在がアーティファクトを使えないようにしようと思ってやったことで、悪しき行い、アーティファクトが嫌うことをすれば、例えかつてアーティファクトを扱うことができた者でも、使えなくなってしまう。
だから人々は神器と向き合い、己の心とも向き合った。生き残るために、神器に嫌われないよう、高潔な精神を育もうとした。神器に対する信仰とは、同時に人々の善性への信仰でもあったのだ。故に、神器教を崇拝する武人達は、忠誠心が厚く、曲がった事を嫌う。
ただ……まぁ俺のせいではあるんだが……結局、この高潔な精神だとか善性がどうこうの基準は古代に決めたものだから、現代の基準とはズレている。そもそも魔族に人間が滅ぼされないようにするにはある程度の異常性は許容する必要があった。基準を厳しくし過ぎると扱える者が限定されすぎて、人間が魔族に滅ぼされてしまうからな。
俺が善良なイカれ野郎はセーフという基準にしたから、そのイカれ部分によって起こる不利益は故意でないならセーフ、ということにもなってしまった。故意でないことを証明する為には嘘は障害で、なによりも嫌われた。だからバスターの地元であるオーグラムではかつて死は切腹モノだったんだろう。
そう、バスターとスミスを生み出したドランボウ家、これは善良なイカれ側の英雄の子孫なのだ。イカれだが、馬鹿みたいに強く、そのくせ忠誠心は厚い。ウレイア帝国はきっと、そういった奴らをうまく使って勢力を拡大し、帝国にまでなったんだろう。そうか、だからか……だからマグニアスもバスターのやらかしに寛容だったのか。帝国を支える兵器、その兵器のデメリットを受け入れた上で使う。その前提で帝国は成り立っている……
「うん、陛下。これであぶり出しは終わりですかね。悪行を働いていたのは予想通り先帝と関わりの強い者達ばかり……」
「15人死んだか。死んだ貴族達の領地の分配は、文官達に決めさせよう。さて、バスターにスミス、お前達は抵抗してくるだろう貴族達の領地を制圧してもらおうか」
「えぇ!? い、いつからですか?」
「なんだバスター、不服なのか? お前のやらかしを寛大な心を持って赦してやったというのに」
「い、いえ! 不服だなんてとんでもない!! 納得も納得、大納得ですはい!」
バスターが素直になる対象リストに皇帝も追加だな。流石に皇帝の言うことには逆らわないらしい。これもドランボウ家の本能のようなものなんだろうか?
「いつからと聞かれれば、それは勿論今からだという答えになるな。この仕事を終えるまでは領地に戻れると思うなよ? 制圧に必要な人材は帝都から必要なだけ持っていけ」
「はい! 承りました! 行こう父様! さっさと終わらせないと領地に帰れねぇ!」
「すみません陛下、慌ただしく……このスミス、命を懸け、全力で取り組む次第であります!」
処刑した者達の領地を処理しなければ地元に帰れなくなったバスター。幸いなことに、処刑されたものの殆どは中央に近い領地を持つ文官貴族や大臣で、帝都を拠点として活動すれば、バスターがカトリアに会うことは可能だった。
それにしても……これではまるで、ドランボウ家は帝国の処刑人だ。
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