第16話:蛮族モード発動! ウオオオオオオオァッ!!!
「なっ、なんじゃこりゃあああ!?」
「ふっ、はははは。中を見たら誰だってそうなる。これが帝城、皇帝の界球だ。球の中に海と神話を捕まえた、一つの世界だ」
帝城、その球の中には一つの世界があった。城の外から見た球も大きかった、だが……球の内部は、どう見ても、球の見た目からはありえない広さをしていた。街一つは軽く超えるだろう奥行きがある。そんな空間の半分を海が満たし、その海の上に巨大な亀の神獣が浮かんでいる。
俺はこの亀を知っている。神獣アラゴナス、神に造られし、俺よりも古き存在。いつから存在したのかは把握していないが、かつて神々の命令で大地を引き裂く仕事をしていたらしい。大地を引き裂く大仕事を終えたアラゴナスは疲れ果て、やる気を失った。それからというもの、アラゴナスはぼーっとしていて、いつも半分寝ている。
性格は温和、というか、温和でなかったら、こんな扱いは許さないだろう……ウレイア帝国は、アラゴナスの上に街、玉座を作っていた。甲羅の上は多くの建物、多くの兵士、多くの文官で埋め尽くされていて、実に無駄な重さがあるだろうに、アラゴナスは眠そうだ。
アラゴナスは強い、おそらく人が何をしたところでアラゴナスが傷つくことはない。けれども、アラゴナスがこんな扱いを受けるのは、俺としては気分が悪い。例えアラゴナスが気にしていないとしても……
「あの亀の上の街に皇帝陛下がいるってことか……いいのかあれ? けど、キレイな海だなー……海の下から光がやってきてんのか……上からも下からも光が、なんだか不思議な気分だぜ」
バスターの言う通り海はキレイだ。海の下の方になんらかの光源があるらしく、とても幻想的な感じ。バスターとスミスは迎えの者達と共に皇帝の界球に入り口から船でアラゴナスの甲羅の上、皇帝の街に渡る。
甲羅の上にたどり着くと、そこは謁見の用意がされていた。とんでもない長さの赤い絨毯の道、そして絨毯を囲む大量の兵士の列……壮観だな。
バスターとスミスは絨毯の道を進む、しばらく歩みを進めて、玉座の間にたどり着く。そこには玉座に座する皇帝と、大臣、貴族達がいた。この男が皇帝マグニアス……まだ若いな、年は20ぐらいか? ギラついた目の、青い髪の男。目には隈があって、こうなんというか、雰囲気的には、人間達がテンション上げて徹夜を乗り切っているような感じ。
皇帝のかっぴらいた目がバスターとスミスを捉えると、皇帝はニッコリと笑った。えっ……!? なんか怖いんですけど……
「よく来た英雄スミス、そしてその息子、真なる勇者バスターよ。面を上げよ、余は形式ばったのは嫌いでな……さっさと本題に移るぞ」
「はっ! ではそのように……この度は我が息子、バスターが真なる勇者に覚醒した為、その報告と新たな脅威についての報告に参りました。まずは真なる勇者についてですが……真なる勇者とは通常の勇者とは異なり、国に三人までという勇者の法則からは逸脱した存在。ウレイア帝国に伝わる真なる勇者の伝承の存在です」
片膝を付き、低頭していたスミスが顔を上げ、説明を始める。しかし、スミスが真なる勇者と口にした瞬間、周囲の大臣、貴族達の一部がざわつき始めた。
「なんだお前達? スミスに何か言いたいことでもあるのか? ならば聞けばよいだろう。話してみろ」
皇帝マグニアスが促すと、一人の頬の弛んだ大臣が話し始めた。
「は、はい! それでは……スミス卿はご子息が真なる勇者と仰っしゃられた。しかし、その証拠となるものはあるのですか? 卿の領地、オーグラムは帝都から離れ、経済的にも帝都とは離れてしまっている。だから独立心から、新たな共同体の、新たな勇者が生まれてしまった。その可能性を、我々としては警戒せざるを得ない」
「つまりオーグラムが独立したと? それはありえない。オーグラムと我々、ドランボウ家はウレイア帝国に強い忠誠を誓っている。だからこそ、疑いの目をかけられるとしても、報告のために皇帝陛下の元へ参上した」
「いやいやスミス卿、そんな精神論ではなんの証拠にはならない。こちらが求めているのは、確固たる根拠、証拠ですよ」
「はぁ……?」
スミスが頬の弛んだ大臣をギロリと睨む。
「ひ、ひぃ! 説明ができないからといって脅しとは! まったくこれだから野蛮人は」
「それは侮辱か? しっかりと憶えておこう。確か、セステス大臣だったか。残念ながら、貴殿の求めるような確固たる根拠、証拠は提示できない。いや……できるのか? おいバスター、真なる勇者である証明は可能か?」
「えっ!? いやぁ……オレにもどうしたら証明できるのか……オーグラムで真なる勇者の力を使って守護神を作ったりはしましたけど……ここに連れてきていないし……オレ自身、力の使い方がまだよく分かっていないので」
「怪しい、実に怪しいですぞ。そんなことでどうして己が真なる勇者だと確信を得たのか。これは反逆隠しの方便である可能性が高いのではないですか? 皇帝陛下」
「まぁセステス大臣、そう怒ることもない。余は、例えオーグラムが本当に独立してしまったとしても、先帝と違い、滅ぼすことはないし、自分から敵対することもない」
「な、ななな!? 皇帝陛下!? それは、まさか……陛下直属の近衛隊長、クレイモア卿がドランボウの血族だから……」
「──嫌だなぁ、セステス大臣。陛下は身内贔屓で目を曇らせるようなお方じゃない。あまりにも無礼だ……」
「あ、あにき、兄様!!」
セステス大臣の話を遮るように兵隊の列から飛び出てきたのはバスター、そしてオレの知る男。名をクレイモア──バスターの兄だった。バスターと同じく紫の髪色で、髪は長い。顔はバスターと似ているが、背はバスターよりもかなり高い。甲冑を着込み、身の丈程の剣を背負っている。
そんなクレイモアだがバスターとはあまり似ているような印象を受けない。顔は似ているが、バスターとクレイモアでは表情が違い過ぎるからだ。バスターは不機嫌そうな顔をしているが、クレイモアは常にニヤついていて、かなり胡散臭いのだ。
「よぉ、バスター。お前もデカくなったな。いや背はボクよりかなりチビだけどね。大人になったって言いたいんだ、ははは! あー、あれかな? セステス大臣はあれでしょう……? 単にボクが嫌いなんでしょう? だからボクの血族であるドランボウ家に八つ当たりをしてるんだ、違うかな? まぁ、いいんじゃない? ちなみに父様に喧嘩を売ったら、絶対死ぬからやめた方がいいよ。いやぁ、やっぱり喧嘩売ってもいいよ!」
「っく、クレイモア貴様!! 陛下に気に入られているからと、調子に乗りおって! 貴様は帝国の秩序を乱している。そのニヤケ面でも、貴様の野蛮な血の悪臭は隠せんぞ!」
「──おい、訂正しろ。オレと兄貴は半分母様の血が入ってるんだ。ドランボウ家が野蛮扱いされるのはまぁ百歩譲って認めてやる。だが、母様の血が混じった兄貴の血に悪臭だと……? その物言い、認めるわけにはいかねぇ!!」
バスター、キレる。その瞬間バスターから魔力が滲み出た。怒りと共に、バスターの身体は戦闘準備段階へと移行する。
「はん! なら母親の血はキレイだと? 馬鹿な! 貴様らの母は穢れた魔族の血族だろうが……!! 野蛮な血よりなお悪いッ!!」
あ、これ……もう……
「──てめぇッ!! 死ぬ覚悟はできたみてぇだなぁッ!!」
──バキバキバキバキッ!! バスターがセステス大臣の体を掴み、背骨を捻り折ってしまった。当然、即死である。
他の大臣、貴族達の顔は青褪め、緊張から呼吸を止めた。クレイモアは相変わらずニヤケ面で、スミスは無反応。皇帝はあららといった表情だ。
「あっやべっ!? やっちまった……」
「あらら……しかし妙だな。セステス大臣は田舎者と魔族を酷く嫌っていたが、公的な場でこれほど露骨にやる男ではなかった。ドランボウの者にあのような言葉を吐けば、命の危機もありえると、分からぬ男ではなかったはず……そうか、余にはわかったぞ。これが証拠なのだな? バスターが真なる勇者であることの証明、その力の一端なのではないか?」
「陛下? それはどういう……」
「ほらスミス、お前が手紙に書いていただろう? 真なる勇者には、意思の力を強化する力があると。余が思うに、セステス大臣はバスターの真なる勇者の力により、その意思を強化され、本来は心の奥底にしまうことができたはずの本音を、表に出してしまったのではないか? バスターはイラついて、バスターの体は戦闘態勢になった。それで無意識に力が発動したのだと余は思う」
「ボクも陛下と同じ考えです。真なる勇者の意思を強化する力、それをボクも感じた。だって普段なら抑えられる殺意が、さっきは抑えられそうになかった。バスターが先にやっていなければボクが、いやそれよりも早く父様がやっていたか。それとマグニアス陛下もバスターの影響を受けていると思います。陛下は眼の前で人が死んでも、そこに恐怖や驚きが見えなかった。これは陛下が考えることがお好きなお方だからだと思う。眼の前で起こった不可思議なこと、これが何なのか考えたくなった。好奇心が強化されて、恐怖や驚きが塗りつぶされた」
「なるほど、そうか、余もバスターの影響を受けて……ってぎゃあああああ!? 血ぃいいいいいいいい!? おい、グロいよ!! もっとマイルドな殺し方はできないのか……!! バスターよ、今回のセステス殺しは余が赦そう。あの者は元から近々処刑するつもりだったからな」
ああ、謎が解けたから、好奇心が薄まって、冷静になっちゃったから……
「ほ、本当ですか!? ご容赦いただきありがとうございますッ! しかし、元から処刑するつもりだったっていうのは……」
頭をペコペコ下げるバスター。
「クレイモアがセステスのことを調べていた。その結果、奴の行っていた犯罪、不正が明らかになったのだ。奴は禁じられていた魔族殺しを行っていた。魔族を殺すための毒薬、それを開発するための実験で大勢の魔族を殺していた。組織的なモノで、関わっていたのはセステスだけではないはずだ。しかし、そうか、これは丁度いいかも知れぬな」
「ああ、陛下そういうことですか。我が弟、バスターのこの意思を強化する力を使い、セステスのような悪党を探す。陛下、ボクに任せてもらってもよろしいですか?」
「うむ! 任せたクレイモア」
これは、なんだか……人が減りそうだな。後ろめたさが態度に出て、青褪めた者が何人か見えた。
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