第15話:タマに突入




「新魔族とそれを操る神……ダークウォッチャーが戦うべき存在が、本格的に動き出した。時代が動く、バスター、お前はそう言いたいんだな? しかし5000の強敵を殆ど三人だけで倒した……にわかには信じがたい話だが……本当なんだろうな。僕はひと目見た時から、バスターから強い力を感じていた。クージンならもっと詳しくわかるだろう、ノーブラッド家の人間は、人の能力を感じ取る力がある」


「人の能力を感じ取る? もしかして、その力で特殊なジョブ適性を持つ奴らを見つけて保護してるのか?」



 ノーブラッド兄妹にはそんな力が……闇ギルドからすればありがたい能力だろうな。どんな力を持っているか、なんとなくでも分かるなら、闇の仕事でのリスクを大幅に下げられる。例えば暗殺や盗みで戦闘の可能性がある時、その警備を行う者の能力が分かれば、それに対応する形で作戦を立てたり、あるいは中断する判断材料にできる。



「そういうことだ。といっても、保護対象を見つけるのは殆どがクージンだ。僕はあまり感度が高くない。けれどダークウォッチャーの力がこれから先必要になるかもしれないのなら、君の彼女、カトリアのダークウォッチャーとしての力を覚醒させる必要があるかもな。カトリア、クージン、それで構わないか?」


「えっと、構わないかっていうのは、クージンさんがわたしにダークウォッチャーとしての修行をつけてくれるってことですか? でしたら、その、お願いします」


「もちろんワタシは構わないわ。同性で同年代のダークウォッチャーはいなかったし、こちらとしても地下で退屈に過ごすよりは有意義だから」



 カトリアもクージンも了承。ダークウォッチャーとしての修行を闇ギルドで……しかしこれは、どうなんだ? カトリアは修行する間、闇ギルドのアジトのある帝都から動けなくなる。だがカトリアが帝都に留まるのなら、バスターも帝都に残ろうとするんじゃないのか? ……邪神かあるいは異界の神か、敵が動き出す中で、この帝都に留まるのは正解なのか?



「よかったぜ、とりあえずの安全な場所と信用できるダークウォッチャーを見つけられて。そういや聞いてなかったが、ダークウォッチャーってのは具体的にはどんなことができるんだ?」


「ああ、ダークウォッチャーとしての力ならすでに活用していますよ。バスターさんもカトリアさんも、ここに来るまでの道中、それからこの部屋、何体のぬいぐるみを見ましたか?」


「え?」



 バスターとカトリアがキョロキョロと部屋を見渡し、クージンの部屋にあるぬいぐるみ達を見る。あ!? ぬいぐるみが、動いた!?



「お、踊ってやがる……もしかしてこれが? ぬいぐるみを操るのがダークウォッチャーの力なのか?」


「いいえ、操ってもいませんし、ぬいぐるみである必要もありません。ぬいぐるみは単にワタシの趣味です。ダークウォッチャーの力とは、精霊と対話し仲良くなること、仲良くなった精霊にお願いをして、その願いを叶えてもらうこと。そしてもう一つ、仲良くなった精霊との感覚共有。ワタシはこの感覚共有でぬいぐるみに宿る精霊の視界と聴覚を得ています。だから話さずともバスターさんやカトリアさんの事情を把握していたんです」


「じゃあ精霊術士みたいなもんか……ダークウォッチャーなんてイカツイ名前だから勘違いされたところもありそうだな」


「いえ、ダークウォッチャーという名称で正しいんです。我々ダークウォッチャーの精霊は、通常の精霊とは異なるので。我々ダークウォッチャーと繋がる精霊は、落星精霊らくせいせいれいと呼ばれるタイプで、空間、境界への干渉、操作に長けた存在です。邪神や異界の神もこれらの力を使ってこちらの世界で動いていますから、同系の力で対抗することで追い返したり、弱体化することが可能なのです」


「なるほどな、空間操作ができるから、距離を無視した感覚共有ができんのか。その落星精霊自体が力を持ってるから、でけぇ効果範囲でもあんた自体は疲れねぇ……精霊側の力で情報が送られてくるから。情報収集能力としてヤバすぎだな、聖騎士っつーか、アレンコード教の奴らもダークウォッチャーを抱えてるかもな」



 まぁそうか、アレンコード教の者達がダークウォッチャーを潰しているからと言って、奴らがダークウォッチャーの力を使っていないとは限らない。



「それはどうでしょうね? 結局ダークウォッチャーというのは、落星精霊と対話して力を貸してもらうだけの存在ですから。もしアレンコード教が落星精霊に嫌われるようなことをしているのなら、ダークウォッチャーがあちら側に付いたとしても力を貸さないと思います。そうなったらダークウォッチャーはちょっと魔力の多いただの魔法使いです」


「魔力の多い魔法使いはそれはそれで中々いねぇけどな。まぁいいや、オレは帝城に用があるからそろそろ行くぜ。カトリアのことを頼む、どうなるかわからねぇが、オレもしばらく帝都に残るつもりだ。じゃあな」



 カトリアを置いて、地上へと、帝城へ移動を始めるバスターを、カトリアは少し寂しそうに見ていた。バスターは地上に出る前に女装をやめ、元の服装に戻った。と言っても、またすぐに着替えることになった。



「よしよしちゃんと来たなバスター。お前も正装に着替えろ、帝城に行く」



 スミスとの待ち合わせ場所、帝都の迎賓館にバスターがたどり着くなり、バスターはスミスに着替えを促される。バスターが正装に着替え終わってしばらくすると、迎賓館に帝城から迎えの者がやってきた。彼らの引いてきた馬車にバスター達が乗り込み、10分程度で馬車は帝城へとたどり着く。



「帝城もこんだけでけぇと形がよく分からねぇな。近いと全体が見えねぇ」


「まぁ帝都内からでは監視塔に登らないと帝城はよく見えんからな。帝都の外、周辺の高地が一番見やすい。そうだな、帝城は例えるならひっくり返した机の真ん中に玉があるような感じだ。ほら上見ろ、玉の部分は見えるだろ?」



 スミスに言われるままバスターが上を見る。玉、本当に玉がある。巨大な球状の建物に細い塔が突き刺さっている。見ていて心配になるバランス……玉に繋がる塔がポキリと折れてしまわないかと、思わず想像してしまう。


バスターとスミスはそのまま迎えの者に誘導され、帝城のひっくり返した机の部分に入り、しばらくバカでかい迷路のような構造の通路を歩き、風と水の魔力で動く昇降機のある場所へたどり着く。


バスター達が昇降機に乗り、すいすいと上へと昇っていく。ここが、玉に繋がる細い塔か……としてついに、バスターとスミスは玉へと突入する。


 玉の中の扉が開かれた。




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