第5話:ババアの武勇伝
「えっ!? 生まれたばっかのオレと会ってたって? バアさんと……?」
「15年前だからねぇ、あの頃はまだあたしも30代だった……」
思えばこの者、剣聖賢者グランドはバスターが生まれた時、15年前にはバスターの父であるスミスに一目置かれる存在だった。
30代で領主が一目置く、それも現代の英雄とも謳われるスミスが認めるとなると……この者は一体どれだけの功績をあげたんだ? どちらにせよ剣聖賢者、それに相応しいだけのことをしたんだろうが……
「剣聖賢者……あんたいつからそんな風に呼ばれてるんだ? オレが生まれる瞬間に立ち会うなんて、よっぽどだぜ……普通はそんなもん親戚だって無理だぜ……外部の奴を不用意に近づけたせいで、生まれてすぐ誘拐されたり、殺されたりは貴族じゃ珍しくないんだ。なんであんたは許された?」
おっ、いいぞバスター! 俺の方も丁度それを聞きたかったんだ。
「あたしが御大層な呼ばれ方をするようになったのは30年前、まだピチピチの20代だった頃さ。あたしは元から世界を流浪していてね……その道中、エンダス王国に立ち寄った。そこは魔族の国で結構都会でね、魔法の開発が娯楽となるような発展ぶりだった。それで一人のバカ、まぁ天才とも言うが、そいつが召喚魔法の失敗で死の世界からスカルキングドラゴンを召喚しちまった。そいつがまぁ国を滅ぼす勢いでヤバイ死龍でねぇ……」
「え!? まさか……そのスカルキングドラゴンを、バアさんが倒したのか!?」
「そゆこと! まぁあたしゃ運悪くそのイベントに立ちあっちまっただけでね、自衛のために仕方なく剣と魔法で倒したんだが。まぁそりゃあエンダスの連中から感謝されてね、国に引き止められそうになったけど……あたしは一つの場所に留まるのは柄じゃなかったから、しばらく滞在して旅立った。そんな話がね、いつの間にか吟遊詩人に受けたらしくて、あたしの知らぬ間に世界中に名が轟いちまったのさ。剣聖賢者グランド、国滅の龍を斃した者、勇者を超える者、美しすぎる英雄ってね。どの名も自分から名乗ったことはないんだけどねぇ……」
「す、すげぇ……いや、別に凄くはねぇ! 大体スカルキングドラゴンとか言われても見たことねぇから、よくわかんねぇよ。凄いかどうかは分からん! それに、最後の美しすぎる英雄ってのはなんとなく自称な気がするぜ」
「素直じゃないガキだねぇ? まぁ最後のが自称なのはそうだけどね! ハハハッ! けど実際美人だったんだからいいだろ? お前の親父に聞いてみな、答えはすぐわかる」
「別に父様に聞かなくてもあんたが美人だったってのは今のあんたをみりゃわかるぜ」
「なっ……あんた……おっそろしぃねぇ……急にこんなババアを褒めだして、あたしのカラダを狙っているのかい? スケベだねぇ、あんたがどうしてもって言うんなら、やってやらないこともないよ~」
「スケベはどっちだよクソババア。勘違いするな、オレはカトリア以外の女には興味ねぇ。オレの拒絶はあんたに魅力がないからじゃねぇ、勘違いするなよ?」
いや……そっち? そっち方面の勘違いするなよなの? 妙な気遣いをする男だ、バスターは。
「それでバスター、あんたの親父が大事な息子の誕生に立ち会うことを許可したのは。至極単純な話、スミスがまだガキだった頃にあいつを助けてやったことがあんのさ。と言っても大したことじゃないけどね、あたしが関わらなくともスミスが死ぬことはなかったろう、せいぜい片目を失う程度でね……けどあいつはあたしに凄く感謝してたみたいでね。武人が片目を失ったら大きなハンデを背負うことになる。だからあなたは単なる片目ではなく、自分の武人としての未来、生を守ったのだって。それで勝手に師匠だのなんだのと言って懐いてきてねぇ……実際剣や魔法を教えてみたけど、あいつは魔法の才能はからっきしだったね。剣は優等生だったが」
「あれ……? 待ってくれよ、じゃあ父様の顔、右目の横にでけぇ切り傷あるけど、もしかして……あの傷に関係する話なのか? バアさんが助けなかったら、父様のあの傷は、目に……そういうことなのか?」
「そゆこと! ま、何にせよ頑張んな。これから大変だろうけど……あんたは選ばれた道じゃなく、自分で選んだ道を進むって信じているよ。それじゃあ、いつかまた会う日まで、さよならだねぇ」
「は……? さ、さよなら……」
「さよならー! グランドさん!」
剣聖賢者グランドは意味深なことを言って、その場から立ち去っていった。グランドはバスターのことを真なる勇者とやらだと思っているみたいだから、そのことと関係あるのか……? となると……バスターはこれから何らかの事件に巻き込まれるってことなのか?
結局バスター達は要領を得ないまま領内の街に戻った。途中で意識を取り戻したカトリアがバスターの背で暴れたので、バスターはカトリアを背から下ろし、それから旅のための準備をすることにした。
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