第3話:成人なんて絶対しないッ!!
「バスター! テスペックと決闘したって本当なのっ!? 今日は成人の儀がある日でしょ? どうして──」
「……俺は成人なんてしねぇ。儀式には参加しない」
決闘騒ぎの後、家に帰る気がなかったバスターは、オーグラム領内にある薬草畑で体を休めていた。そんな時、テスペックとの決闘騒ぎを聞いたのか、血相を変えたカトリアがバスターの元へとやってきた。
「ここに来るのは誰にもバレてなかったと思ったんだけどな……」
「バスターの行動パターンはお見通しなのよ! ずっと一緒にいたんだから、わかるに決まってる」
「──そうそう、バスターの兄貴、なにか悩んでることがあんなら相談ぐらいしろよな。水臭いぜ!」
バスターしかいなかった薬草畑にカトリアがやってきて、それから三人目がやってきた。三人目の少年はバスターの肩をぽんぽんと叩き、そのまま肩を組んだ。
「ミロッポ……お前まで来たのか……やれやれ……悪いけどよ、理由をお前らに、特にカトリアに話す気はねぇ」
「な、なんで! わたしは仲間はずれなの!? もう! バスター、良い子になるんじゃなかったの? それがどうして……急に」
「良い子になるのはやめた。いい大人になろうと思ったけど……オレは大人にはなれねぇ……悪いガキのままでいい……」
「えぇー? でもバスターの兄貴、兄貴の兄貴はオーグラムの領主を継ぐ気がないって聞いたよ? それだと兄貴が次のオーグラムの領主になるんだろ? それなのに成人しないって流石にダメでしょ」
ミロッポ、バスターを兄貴分として慕う平民の子。バスターが紫の髪色で、カトリアが赤、ミロッポは茶、この三人の髪色はオーグラム領では珍しく、三人で固まっているとよく目立った。
オーグラムの民、その髪色は基本的に青や黒で、だから赤系の混じるバスター達の髪色はどうしても余所者感が拭えない。
カトリアとミロッポは元は違う地域出身で、バスターも母親が他地域出身、実際領主の血を引くバスター以外は余所者だった。
カトリアもミロッポも、オーグラムにやってきて、余所者として孤立していたのをバスターによって救われた過去があり、それがきっかけで二人はバスターを慕っている。
あれはそう、まだバスターが5才の時だった。
◆◆◆
「おい! お前反逆者の子供だろ? じゃあお前も反逆者なんだろ! ウレイア帝国の敵だろ! みんな、おれたちでこいつをやっつけてやろうぜ!」
「そんな、ちが、父様は反逆者なんかじゃ……ちがうもん……だって父様、みんなを守るためだって……悲しくても耐えろって……う、うう、うわああああああ!」
「おまえら! おじょうさまをいじめるな! はったおすぞ!!」
反逆者の領主、その子、領民としてカトリアとミロッポはオーグラムへとやってきた。反逆者の生まれた領地が解体され、その領民を分け、複数の領地に分散、吸収させる。そんな流れで、一部の民がオーグラムへとやってきた。
それはオーグラムの属するウレイア帝国の皇帝が決めたことで、民達が望むことではなかった。領地を失った民も、それを受け入れる事となる領民達も。
軋轢が生まれることは当然予想されていたけれど、帝国は興味を示さなかった。雑な仕事と言える。
だからカトリアとその従者の一族としてやってきたミロッポは、オーグラムで人々の警戒心、悪意にさらされる事となるのは当然と言えた。オーグラムは脳筋領地として有名らしいが、ウレイア帝国への忠誠心が高い地域でも有名だった。その高い忠誠心故に、反逆者の属性を持った者達への当たりは強かった。
子供が子供を一方的にいじめても、オーグラムの大人達はそれを止めようとはしなかった。よくないことだと思っても、ウレイア帝国への高い忠誠心が、良心から手を伸ばすことを拒んだ。
「おいおいダっせーなぁ? オーグラムのおとこが、おんなこどもをよってたかっていじめてよぉ。オレはおまえらのいうこと、いいことかわるいことか、よくわからねーけどよ。とんでもなくダセーってことはわかるぜ!! たおされたほうがいいのは、おめーらじゃねーのか?」
オーグラムで孤立した反逆領地の民達に、最初に手を差し伸べた者、それがバスターだった。バスターの言葉に、単純なオーグラムの民達は納得してしまった。確かにダサい……良い悪いはおいといて、これは粋じゃない、ダサすぎると、そう思った。
けれども、オーグラムの民のすべてが納得するはずがないのも当然で、そういった輩はバスターに言葉を返す。
「はぁ? 体も鍛えられないような出来損ないに言われたって説得力がないだろ。お前みたいなのは存在自体がダサいんだろ! ダサい奴がダサいって言っても意味ね~から、無効だぞ無効!」
「こらテスペック! 若様になんてことを言うんだ!」
テスペックがバスターの境遇をなじる。流石に過ぎた物言いに、テスペックの父親は息子を叱りつけるが、その顔に誠実さはなかった。結局の所、テスペックはテスペックの親が言っていたことを、そのまま言っていただけ。この親子は同じことを思っていたから。
「ほーん? オレ、りょうしゅのむすこだぜ? よしきめた! これからは、そとからきたやつをいじめたらしょけいな! とうさまにいいつけておまえらしょけいしてやるからな!」
バスターもクソガキだった。親の権力を出し惜しみする気がない。しかもバスターはダサいは死んで良いと本気で思っていたから手に負えない。親の権力に頼り切りなのはダサいと思うのだが、バスターはそうは思わないらしかった。
「いやいや、若様、処刑だなんてそんな道理が通りませんよ。そんなこと領主様に言っても無駄ですよ? 相手にするはずがありません」
流石に処刑はないだろうとテスペックの父親は思っているようだが、その焦りは顔を伝って地面に雫を落とした。
「いってみなきゃわかんねーだろ! かってにきめんな! いいもーん、いっちゃうもーん! たしかテスペックだっけ? そいつのそのなかまとおやだろ? ダサいいじめやろうのなまえぜんぶおぼえて、しょけいリストをつくってやるぜ!!」
このガキ……ヤバすぎる……親がまともじゃなかったら終わっていた……結局バスターの作成した処刑リストによって処刑が実行されることはなかったが、後日領主スミスからの手紙が、リストの者達全員に届いた。
【反逆領地の領民を仲間として受け入れるのはウレイア帝国、皇帝の命令である。そのことを考えて行動するべし、二度目はない】
短くシンプルなその文は驚くほど効果的だった。単純なオーグラムの民はこのスミスの理屈に心底納得してしまった。確かにこれって元は帝国の命令じゃん……帝国のためを思うなら、仲良くやらなきゃいけねーのかと。そしてもう一つ、二度目はないということは次あったら容赦なく処刑するということで、ウレイア帝国に厚い忠誠を誓うスミスはそれを確実に遂行するだろうという確信が、民達にはあった。
スミスは跡目争いで7人いた上の兄弟全員を、誰が領主に相応しいか暴力で分からせた男で、仮に部下にやる気がなくとも、スミスは単独でリストの全員を処刑できる武人だった。オーグラムで一番強く、融通の効かない男だと思われていた。そして誰よりも男らしい男として、オーグラムの民達から慕われる男だった。
もっとも、そんな男でも余所者の、それも魔族の嫁をもらい、虚弱体質の子をもうけると、親バカとなり丸くなった、弱くなったというのが領民の評価だ。スミスの嫁と息子達は、オーグラムの民からすると完璧なオーグラム男、スミスの汚点にしか見えなかった。誰も口には出さないが、その汚点を嫌うものは多かった。
スミス様は最高なのにその息子は出来損ないだ。親子で最高と最悪の比較がされていた。
「やれやれ……やはりバスターは荒いな。ワシよりもずっとだ……このままではマズイな……戦いを禁じても、人死が出る……人を想う心があるのがまだ救いか。となれば、そうか……人を守らせることで、人との付き合い方を学ばせようか」
処刑の提案、プレゼンで疲れ眠ったバスターを、スミスは優しく撫で、憂いのある顔で呟いた。
「反逆者の子……ワシにも心のどこかで嫌う気持ちがあった。お前にダサいと言われてハッとしたよ。うむ、あの子を、カトリアをバスターに守らせよう。おい、ナイネムはいるか! 話がある!」
一週間後、カトリア達はオーグラム領主の従者達の住む屋敷に住むことになった。それはオーグラム領主の庇護下に置かれたということであり、バスターにとっては年の近い子供の遊び相手ができたということでもあった。
幸い、カトリアもミロッポもなんとなくバスターが助けてくれたのだと理解しており、バスターに対し好意的だった。
それからずっと、バスターとカトリアとミロッポは一緒だった。何をするにも一緒で、殆ど兄弟同然だった。
ただ……カトリアのバスターを見る目が、日に日に変わっていくのが俺には分かった。俺は神だが、恋愛経験はない……それでもわかるレベルの、熱い視線が、カトリアからバスターへと注がれていた。
けれど、バスターの方はそれに気づいていない様子だった。まぁバスターもバスターで勝手にカトリアのことを好きになっていたし、何も問題はないのだが……見守るしかできない俺からすると、なんともヤキモキする感じだった。
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