入学式の日

 桜の花びらが降り注ぐ中、校門をくぐり並木道を歩いてゆく。おろしたての制服は、まだ身体に馴染まない。人だかりの中に、見慣れた顔を見つける。


 「つっきー!」


 「ほたるー!」


 「「久しぶりー!」」


 親友のつっきー、こと霜鳥しもとり月希子つきこだった。彼女とは別々の中学に通っていたので、会うのは実に三年ぶりになる。


 私立・黄金坂こがねざか高校、県内では有名な中高一貫の進学校だ。三年前、その中等部の入試に落ちたあたしが、高等部の入試に合格できたのは奇跡と言っていい。血のにじむような受験勉強の日々を思い出す。それもこれも、二人の幼馴染と同じ高校に通うためだ。


 ふと、もう一人の幼馴染のことを思い出す。


 「いぺにいは?」


 あたしが尋ねると、月希子は体育館のほうを指さした。ひときわ大きな人だかりが見える。どうやらクラス発表の掲示がされているらしい。人だかりの中に一人、背の高い男子生徒が見える。この三年でずいぶんと背が伸びたけれど、あたしにはわかる。間違いなくあたしの知っているいぺ兄だ。あたしと月希子は彼に駆け寄る。

 いぺ兄、こと烏丸からすまる一平いっぺいがこちらを振り向く。


 「ああ、神崎かんざきさん、久しぶり。二人とも、皆同じクラスだってさ。一年二組だよ」


 一平の指さす先には、クラス発表の掲示版があった。一年二組の欄には、確かにあたしたち三人の名前が並んでいる。それを見た瞬間、胸がいっぱいになった。


 

 「皆さん、入学式の会場はこちらです」


 おそらく先生であろう中年の男性が声を張り上げるのが聞こえた。ぞろぞろと生徒たちが体育館に入ってゆく。


 「霜鳥さん、神崎さん、僕らもそろそろ行こうか」


 「ほーたーるー! いつまで見てんの、ほら行くよ」


 二人に声をかけられても、あたしは掲示板の前から動けずにいた。二人と一年間同じクラスでいられる幸せを、噛みしめていたかったから。

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