第6話 叙述トリックの作り方
※以下では複数の有名な叙述トリック作品が登場します。叙述トリックが使われていると知った時点で面白味が半減する可能性があるのでご注意ください。直接的なネタバレをする際は直前に改めて警告します。
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初めてミステリ小説に触れたときはどんなときでしたか?
図書館を漁ったかもしれませんし、誰かに薦めてもらったかもしれません。僕は母から東野圭吾のガリレオを薦めてもらったのが最初です(その前から杉山亮のミルキー杉山シリーズや柳原慧のレイトン教授ノベライズ版は好きでしたが)。
で、僕はミステリの世界に足を踏み入れた直後、オススメ小説をネットで検索してみたわけです。
すると「どんでん返し小説」の文字が至るところで踊っているではありませんか。中でも目立つのが「叙述トリック」の文字。
どうやら文章を使って作者が読者を直接騙すトリックらしい。
叙述トリックの作り方を見いだしたのはそのときでした。初手から「あーね」となってしまいました。(当時は自分で執筆しようなどとは露ほども思っていませんでしたが、こういうこと考えるの好きなんです)
もちろんそれから色々と改良してはいますが、アイデアの創出法はほとんど変わっていません。
それはズバリ――キャラや作品世界に関する認知(特に視認)可能な属性を反転させることです。より単純化するならば、あなたがまず想像する情景をガンガン否定しに行くことです。
よくあるのは男女誤認トリック。「性別」という認知可能なキャラ属性を反転させることにより成立します。あなたが最初に想像した人間が男だったとして、「この人は本当に男なのか?」と考えれば思いつくはずです。
これで全てカバーできるとまでは言いませんが、大部分は攻略できてしまいます。
-----以下、歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』のネタバレ(ここから)-----
一番分かりやすいのは歌野晶午の『葉桜』です。「叙述トリックとは何たるか」を知った時点で創出法を編み出し、性別誤認の次に思いついたのが『葉桜』のトリックです。
その属性はもちろん「キャラの年齢」。若者と見せかけて高齢者。単純明快ですね。
どこでも「驚愕必至」と紹介されているのでハードルが上がっていたのもあると思いますが、トリックを見たときは「まぁそりゃ年齢誤認もあるわな」となってしまい素直に驚けず……。
-----以上、歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』のネタバレ(ここまで)-----
-----以下、綾辻行人『どんどん橋、落ちた』のネタバレ(ここから)-----
正直「属性を反転させる」という手法は多くの作家が使っていると思っていて、特に綾辻行人と早坂吝に顕著だと個人的には考えています。
『どんどん橋、落ちた』はその最たる例でしょう。第1編『どんどん橋、落ちた』と第2編『ぼうぼう森、燃えた』は「キャラの生物種」を反転させるもの。人間や犬を想像して「本当に人間なのか?」「本当に犬なのか?」と問えばいいだけですね。
第3編『フェラーリは見ていた』は「キャラが生物か否か」という属性を反転させるものです。当然ながら属性には「~か否か」というものも含みます。車を想像してみて「これは本当に車なのか?」と考えれば思いつくでしょう。本編ではたしか馬になっていますが、別に車のように描写しながらヘリコプターにしてもいいし、石ころにしてもいいですよ。
第4編『伊園家の崩壊』は内容を度忘れしたので置いときます。
第5編『意外な犯人』は「視点人物が存在するか否か」です。少し外しているように思われるかもしれませんが、主人公に関して「この人は本当に存在するのか?」というところまで遡れば良しです。
-----以上、綾辻行人『どんどん橋、落ちた』のネタバレ(ここまで)-----
-----以下、相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のネタバレ(ここから)-----
相沢沙呼『medium』は個人的には叙述トリックとは言わないような気がしますが、特殊設定ものを読みながら「コイツは本当に超能力者なのか?」という発想に至ったのかもしれませんね。想像でしかないですけど。
-----以上、相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のネタバレ(ここまで)-----
害悪なネタバレ祭りはこれぐらいにして、肩慣らしにいろいろトリックを考えてみましょう。どうせ前例があると思うので、その叙述作品にぶつかっても恨まないでください。
例えば、「外の世界」を想像してみてください。
何が浮かんだでしょうか?
青空が浮かんだ人は「本当に晴れているのか?」とか。晴れ陽気と見せかけて実はゲリラ豪雨、みたいな。雨水を使えば解決するトリックが使用されていたとか。(アイデア帳のアイデアを一個こんなところで使ってしまった!)
「そもそもそれは外の世界なのか?」という問いもあるかもしれません。実は超リアルな絵なんじゃないか。あるいは派生して、小さな子供が「外の世界」と思っていたものは実は箱庭でしかなかった、とか。(思いつきで書きながらそれに近い前例作品が浮かんでしまっている)
では次に一人の人間を想像してみてください。
-----以下、自作『密室大戦』第1編のネタバレ(ここから)-----
その人に四肢が生えているのであれば、「本当に五体満足なのか?」とか。本当に手はあるのか? 足は? 実は車イス生活?
------以上、自作『密室大戦』第1編のネタバレ(ここまで)-----
あるいは「本当に目が見えるのか?」「本当に耳が聞こえるのか?」で実は視覚障害者/聴覚障害者だった、とか。
「本当に生きているのか?」でもいいです。死体と見せかけて生きていたとか。その逆もアリですね。
あるいは適当に「尺度」を考えつけばそれを反転させることも可能です。背の高さ、頭の良さ、優しさ。基本何でも「優しいと見せかけて鬼だった」みたいな反転を書くことは可能ですから。カタルシスの度合いは保証できませんが。
以上、叙述トリックの作り方でした~。カタルシスの度合いを無視すれば実質無数にトリックを量産できてしまいますね。商業小説でもほとんどの叙述作品はこれで片が付きます。
たぶんこの手法を知ってしまうと、叙述作品を読んだときにちょっと冷めるかもですw 「こうやって思いついたんだろうな~」とか透けてきてしまうので……。でも作家の世界に飛び込めた気分にはなれます。
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