第3話 トリックの作り方 いきなり総集編②

重要度★★★★

④日常生活の中や旅行中に「あれ?」と思ったことを即座にメモする。寝床やお風呂の中でそれを思い返しながら、発想を膨らませる。


 推理というのは“間違い探し”だと思っています。状況とは矛盾する手がかりをさりげなく差し込み、隠し通す。


 その小さな矛盾には、作者だけが気づいていて読者は気づいていない。そういう構図を作らなければなりません。


 推理の手がかりを作るのに向いているのが、この④番、つまり周囲を観察して膨らませること。もちろん本格トリックの出発点にもなります。


 ミステリの大家・東野圭吾のデビュー作『放課後』のトリックも、日常の「あれ?」を元にしたものだそうです。


 僕でいうと『神嵐館の連続殺人』に登場する溝野望実の過去の殺人動機(ホワイダニット)が旅行中の車の中で思いついたものだったと思います。


 日常では、毎日同じようなものばかり見ています。それは学校の教室かもしれませんし、会社のオフィスかもしれませんし、家のキッチンかもしれません。


 でも、日常と言えど毎日全く同じことを繰り返しているわけではありません。生活の中で小さな気づきが必ずあるはずです。それをメモし、話を膨らませるわけです。


 例に再び拙作『幽霊の一行日記』を持ち出したいと思います。今回はもろにメイントリックのネタバレになるので、できれば先に本編を読んで!お願い!(笑)


 多分こう言ったところで、新たに読んでくれる方なんて1割いるかいないかだと思いますけど(泣) すでにお読みくださってる方には感謝!!


 というわけで、容赦なくネタバレ込みでお話ししていこうと思います。とはいってもそこまで大それたものじゃないですが。


 本作は、被害者が生前に縦書きの一行日記に記した「今日昼ごはんに食べたカレーがとても辛かった。翌日もずっと辛いのが続いている。」という言葉の違和感を探るというお話でした。以下はお読みいただいた体で話しますね。


 答えはご存じの通り、2文目の「翌日」が実は「羽音」で、2個目の「辛い」は「からい」ではなく「つらい」だったというものでした。


 このトリックが日常に端を発する一例です。小学校の頃の漢字テストで見直しをしているときに、自分の「翌日」が「羽音」にしか見えなかったのです。いや、字が汚かったわけじゃないよ!


 でもそれではおかしいですね。僕がミステリを読み始めたのは中2のコロナ禍。時系列が逆転してます。


 実は翌日と羽音は元々「漢字しりとり」という形でストックしていました。それをどうトリックに応用するか考えてみたときに浮かんできたのです。


 大した例でもないのに謎に話が長くなってきたので、この辺で止めておきます。


 道端でもキッチンでもオフィスでも学校でもいいです! 日常に溢れる違和感をメモ帳に言語化し、貴重なアイデアのストックを増やしちゃいましょう! 


重要度★★★★★

⑤常識を反転させる。


 こちらもめちゃくちゃ大事な考え方です。といっても①の創作論の「断定」を疑えというのに似てはいますが。


 この⑤はロジックと叙述トリックに特に有効な手法です。物理トリックにはあんま使えないかな。


 ものすごくありきたりな例えになりますが、性別誤認トリック。僕がメモ帳にメモしているアイデアで例えれば、「ホームレス」と言うと多くの人はまず男を思い浮かべますね。でも実際は女だった、と。これも「常識」を反転させた叙述トリックです。なんかホームレスだと男女差別気味で嫌なので実作に使うつもりはありませんが。


 「○○ならば、普通は△△」の「△△」の部分を反転させることで、ロジックでは違和感に、叙述トリックではミスリードに変換することが可能です。ミステリを書き慣れている方なら当たり前のようにやってる可能性高し。


重要度★★★

⑥「あるはずなんだけどない」を利用する。


 突然意味不明なのを挟んでごめんなさい。


 これはロジック限定の方法なので総集編に入れるのはどうかとも思ったのですが、忙しさ的に続きをたくさん書くのは厳しそうなので、ここに書き遺しておきます(遺言)


 人間、「ある」ことには敏感なのですが「ない」ことには鈍感になりがちです。マジックでもありますよね。右手で大きな演出をしながら、左手でこっそり何かを隠すみたいな。「何かがない」というのは見抜かれにくいロジックを考える上で有用な手段となります。


 例えば、地の文にさりげなく「その箸には汚れひとつなかった」と書いておいて、実際に犯行の様子を想像してみたら「普通なら箸は汚れているはずだ」となる。そこから違和感が発生して犯人特定に至る、みたいな感じです。雑に言うと。


 「汚れひとつなかった」「特に何も付着していなかった」は魔法の言葉です(笑)


 プロの例でも複数、というか山のように見受けられます。これが使いこなせるようになると一段アップできるかも? すでに使いこなせている方はもう僕から申し上げることはありません。



重要度★

⑦神から降ってくる天啓を受ける。どんな些細なことでも即座にメモする。


 こういう人知を超えた現象が起こることも稀にあります。全く別の作業をしていたのにふと小説のアイデアが落ちてくるみたいな。


 大事なのは、忘れる前に絶対メモすること。それ以上はどうしようもありません。果報は寝て待て。


重要度★★

⑧特殊な科学現象を調べる。なんとかして物理トリックに利用できないか考える。


 東野圭吾のガリレオシリーズや喜多喜久の化学探偵Mr.キュリーシリーズなど、いわゆる理系ミステリでは、特殊な科学現象がそのままトリックに使われていることがあります。


 面白い科学現象をトリックに直結させられるため便利ではあるのですが、その反面、読者にフェアにするのが難しいという難点もあります。


 伏線をあからさまにしすぎて読者にその現象がバレてしまったら、場合によっては台無しになるので注意が必要です。


 伏線を必要十分にするこだわりがない方は結構使えると思います。僕もそこまで気にせず、「へぇ~、そんな現象あるんだ。面白いな」となるタイプなので大丈夫です。……最後のはただの自分の感想だな。




 以上! 僕の知りうる限りのトリックの閃き方はだいたい書いた気がします。出し惜しみは全くしてないです。僕の創作論を読んだ方が何らかの形でインスパイアされて、この世に新たなトリックが生まれたらこれ以上の喜びはありません。


 「トリックは出尽くした」。この言葉は僕は好きではありません。小説のアイデアというのはこの世に無尽蔵にあります。その一部がトリックだというだけです。


 小説の全アイデアを実数の集合ℝとすれば、トリックは素数の集合ℙみたいな感じ(伝われ)。明らかにトリックのほうが少ない(というか部分集合)ですが、有限であるわけではありません。うん、そんな感じです。……最後のまとめ方、適当か?

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