第2話 トリックの作り方 いきなり総集編①
誰も思いつかなかったトリックを思いつきたい。ミステリを書く者が常に掲げている至上命題です。
ただ闇雲にやって至高のトリックを生み出せるのは一握りの天才、いや幸運の持ち主だけです。そう、闇雲にやるとトリック作りは運ゲーになります。
ですがいくつかのアプローチを持っておけば、運要素を――すべてとはなかなかいきませんが――削ぎ落とし、自力で生み出すことが可能です。
今回は初回ですので僕の考えがまとまっておらず、追記したくなることも出てくると思います。そうなったら追い追い書いていきますので、気長にお待ちくださいませ。
では、どうすればトリックを思いつけるのか。できるだけ具体的に書いていきたいと思います。
出し惜しみは嫌いなのでガンガン行きます。
重要度★★★★★
①創作論、トリック集、ミステリ概論などを読みながら断定しているところに目を向けて「例外はないか?」「本当にそうか?」と考える。
小説がごまんとあるように、それに付随して創作論もごまんとあります。ネットにもハイクオリティーなものがゴロゴロ転がっていますね。他にも、古典のネタバレオンパレードのトリック全集や、ミステリの構造に言及した概論など様々。
そこでは先代のミステリの一般論が語られています。これはむしろ前代未聞のアイデアを生み出せる絶好のチャンス!
例えば、今適当に思いついたやつですけど「クローズドサークルとは閉鎖空間内で人が次々と殺されていくものである」とどこかに書いてあったとしましょう。そこで疑り深いあなたはこう考えます。
「クローズドサークルでは必ず人が死ななければならないのか?」
そして「クローズドサークル内で皆の持ち物がだんだん盗まれて無くなっていく」というストーリーを思いつく、みたいな流れです。
はい、例えが悪かったせいで全く面白くなさそうな小説が生まれてしまいましたね(笑)
でも意図は汲み取っていただけたかと思います。
この手法では、読んでいる創作論が厳密であればあるほど洗練されたトリックを思いつけます。
例えばガバガバの創作論で「クローズドサークルでは必ず通報できなくなる」と書かれているとして、あなたが「クローズドサークルでは本当に必ず通報できなくなるのか?」と考えたとしましょう。
この発想は非常に素晴らしいです。ですが、通報できるクローズドサークルの先例などいくらでもあります。有名どころだと西尾維新『クビキリサイクル』とか夕木春央『十戒』とか。
厳密な創作論だとこのようなことはなかなか起こりません。質の高い読み物を選ぶことも重要なわけです。
既存のアイデアがまとめられた創作論は、裏を返せば新規アイデアの宝庫です。特にトリックに直結するのはトリック全集や、時々ミステリに組み込まれている密室講義・アリバイ講義など。常日頃からテンプレを疑っていきましょう。
重要度★★★★
②すでに出版されているミステリを読んでトリックを考える。見事当たっていたら素直に喜び、外れていたら我がものにする。
これも非常に有効な手段で、日常の謎で有名な似鳥鶏も実践しているとどこかで聞いたことがあります。多分。
なんといっても、小説を楽しみながらトリックも思いつけるという一石二鳥な点が強い。①は創作論を読むのが好きじゃなかったら苦行ですからね。そういう意味で②のハードルは低いんじゃないでしょうか。
重要度を1下げたのは、真新しいトリックを生み出せるかと言われると少し疑問である点。それと、この手法は無意識のうちにも実践してる方が多そうだという点。
僕は島田荘司『占星術殺人事件』の裏表紙からあのトリックを思いついて、外れていたら我がものにしてやろうと画策していたんですが、幸か不幸か的中してしまいました(笑)
ちなみに『神嵐館の連続殺人』のそし誰トリックも、敬愛する井上真偽のとある作品がアイデアの源です。
重要度★★★★★
③何らかの「テーマ」を持ってきて、要素をバラバラに分解する。それらを徹底的に分析する。
はい、超抽象的なやつ来ました。分解って何やねん。分析って何やねんという。
一般的に説明するのは難しいので、僭越ながら拙作を例に出して説明したいと思います。
僕が『推理のスタートは「スタート」』を書くときに使ったのがこの手法に当たります。以下の説明を読む前に本作を読んでいると、より分かりやすいかもしれません。でも強制したくはないので、読んでなくても伝わるように頑張ります。
今回でいう「テーマ」というのは、短編賞創作フェスのお題「スタート」です。お題が発表されてから3日以内に書いてみよう!というヤツ。
まず僕は「スタート」をバラバラに分けてみることにしました。競走のスタート、人生のスタート、仕事のスタートなどなど。
でも、そもそも「スタート」という言葉は形を持ったものではなく、概念的な日本語ですよね。
なので物理トリックには非常に使いにくい。かといって叙述トリックにするのも難しかった――と断定してから今思いつきましたけど、「何かのスタートに見せかけて実はスタートではなくゴールだった」とかいうトリック、何かで実現できますかね? うーん、驚き度でいうとショボいか。
話が逸れましたが、スタートを直接物理トリックに使うのはほぼ不可能でしょうし、叙述トリックにするのも当時の僕には思いつかなかった。
そこで「スタート」を概念ではなく物にするために“文字列”と捉えることにしました。これは飛躍しているようですけど、別に突飛な発想ではありません。
僕は「スタート」を分析することで、“意味”で捉えると概念的すぎてトリックには向かないと判断しただけです。だから“意味”を捨てて“文字列”にしたんです。すると必然的にダイイングメッセージにするという方向性になりました。
トリックを考えるうえで必ず行き詰まっているところがあるはずです。その原因を分析することで、だんだんと解決策が見えてくるのです。
さっきから「分析」なんてカッコつけた言葉を用いていますが、「様々な視点から眺める」と言い換えることもできます。“意味”という視点で上手くいかないなら、別の視点に変えてみようという。それだけです。
「その時たまたま上手くいっただけだろ」「次も同じようにしてできんのか」というお声が飛んできそうです。
ごもっともです。本作において2つ目の視点で事がうまく運んだのはたまたまです。本来ならもう少し多く。5つくらいの視点を持つことができれば上々かなと思います。感覚ですけど。
そもそも今回のお題形式というのは少し特殊なパターンです。
普段トリックを思いつきたいときは、「見立て殺人をする理由」とか「五十円玉を二十枚集める理由」とかそういった「テーマ」を分析することになります。
その謎を不可解にしている原因は何か、ダイナミックな真相にするには何を持ち出したら面白そうか、など頭を捻るわけです。
先人の推理作家たちが遺した「テーマ」や「謎」が主ですが、もちろんあなた自身の思いついた魅力的な謎でも構いません。
謎ですらなくても、「現場に残された空き缶1個から推理を膨らませるにはどうすればいいだろう?」とかでも。何でも同じことです。
物理トリック、叙述トリック、心理トリック、ロジック、新たな舞台装置などに使えないかを意識しつつ、「テーマ」をできるだけ細かく砕いて、多視点で眺めてみることをおすすめします。
以上、重要な3項目をご説明しました。他にもいくつかありますので、また次回。重要度は下がるかも。
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