ー現実崩壊ー
森戸は女性社員達にとって憧れの存在だ。
モデルのように背が高く、スラリと伸びた長い足と話しかけるといつも静かに微笑みながら対応してくる澄んだ瞳に、女性社員達の心は射抜かれたまま矢が抜けない状態が続いていた。
私も最初の頃は彼に心を預けたこともあったが、叶わない夢だと悟り、気の合う同僚として接するという選択をした。
「森戸…何でその席にいるの?そこ私の席でしょ?」
森戸は私の言葉にいつもの静かな笑みは見せず、驚いたように目を丸くして私を見た。
「何言ってるんだよ。先週から
森戸が指を指した方向に目を向けると、ガラス張りで眺めの良い風景をバックに、大きなデスクが手前に一つ置かれていた。
机の上には『咲山部長』と書かれた卓上のネームプレートが置いてある。
「あっ、そうだった。うっかりしてた。」
と苦笑いしながら、大きなデスクへと足早に向かった。
一体私はいつから部長になったんだろう?
森戸はそんな私を見て、
「部長になっても、そういう所は相変わらずなんだな。」
と言いながら笑い、他の社員達もつられる様に笑っていた。
席に着くと頭の中で、昨日の自販機が置かれてあった出来事から順に整理していった。
突然現れた夜の自販機。
自販機から美の箱を選んで、夢現薬を飲んだ。朝には美が手に入った。
そして会社に来ると、何故か私は課長から部長に昇進していた。よく分からなくても、現状をインプットして行動しなければならない。
突然会社側からは、私を広告塔にして宣伝に使いたいと言われ、私の顔写真を使ったり、コマーシャルにまで起用されるという信じられない現実が起こり続けている。
両親や友人達は、この天地がひっくり返るような奇跡に対して、とても喜んでくれていた。
だが私の美は、あの自販機で受け取った夢現薬によるものだ。使ったけど美しくならないというクレームが入る可能性は十分にある。
その時は肌質や使用方法などを伝えて、上手く乗り切ろうと腹を括って日々を過ごしていたが、クレームが入ってくることは一切なかった。それどころか、本当に綺麗になったと喜びの声を多く聞いた。
不思議だ。何が起きているんだろう?
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