第14話 封印調査
テオドラから依頼を受けて数日後。問題の場所にやって来た。
王都から少し離れた場所に建つ、打ち捨てられた古城。徒歩なら王都から2時間ほどかかる距離だ。
皆、騎馬で集まっているが、何故か、本来いるべきでない人がいる。
「テオドラ様、何で参加されてるんですか?」
「あら、だって、竜の騎士様の活躍を直接見てみたいんですもの!」
───
──────いや、ダメでしょ。王女様に何かあったら、ここにいる全員、物理的に首が飛びかねない。セリアの方を見たら、肩をすくめている。
「ごめんなさい。私もお止めしたのだけど」
そんな周りの困惑をよそに、本人はいたって上機嫌である。乗馬服着て、自ら馬を駆って来たらしい。
「大丈夫です。竜の騎士様に大聖女様がいらっしゃるんです。万が一にも間違いはありませんよ」
いやいやいや、信頼してもらって光栄だけど、俺、王女様とセリアが同時に危機に陥ったら、
まあ、今回は調査が目的だ。リュステールの封印が解かれていなければ、それで良し。解かれていたとしても、アスクレイディオスと同時期に解かれているならば、何年も前の話だ。未だに同じ場所にとどまっているとは考えにくい。リュステールとの直接戦闘になる可能性は極めて低いだろう。
事前の調査では、古城にいるのは、死体に魔素が取りついた
今回、集まったのは、俺とエヴァ、テオドラに、テオドラの護衛役としてセリアの他、近衛騎士が3名の計7名。前衛を俺とセリア、その後ろに近衛騎士1名がついてテオドラ、エヴァ、最後尾に近衛騎士2名という並びである。セリアは
───正直、足手まといの王女様がついてきても、まあ問題はあるまい。と言うことで、踏み出そうとしたら、突然パスが繋がった。
『ラキウス君、大丈夫ですか?』
『リアーナ様? 何かあったんですか?』
今回リアーナには王都で留守番をお願いしている。第5席次の魔族の封印調査と言ったら、心配してついて来たがったが、むしろ何かあった時のために王都に連絡役として居てもらった方がいいと説得して残ってもらったのである。
『いえ、ラキウス君が心配になって』
───全く、過保護なお姉ちゃんだよ。でも、心配してくれてるんだなと心が温かくなる。
『みんなに迷惑かけてませんか?』
そっちの心配かよ! お子ちゃまか、俺は!
『大丈夫ですって、そんな心配しなくても』
『ええー、弟を心配するのはお姉ちゃんの役目なのに』
───また、訳の分からないお姉ちゃん理論を振りかざしてる。
『とにかく心配しなくても大丈夫ですから。パス切りますよ』
ブチッ。
5分後。
『大丈夫ですか、ラキウス君?』
『お母んか? あんたは!』
───全く、フリーダムな王女様と過保護すぎる巫女様のおかげで、調査開始前からどっと疲れてしまった。
さて、調査のために古城に突入したが、はっきり言って楽勝である。
あっという間に1階を制圧し、2階に向かう。2階には少し大きめの広間があり、正面にかつて祭壇に使われていたのであろう台が見えた。その台をテオドラが興味深そうに見ている。
「テオドラ様、どうされたのですか?」
「いえ、記録では、ここにアスクレイディオスが封印されていたそうなので、何か残ってたりするかなと」
そうか、ここにアスクレイディオスは封印されていたのか。しかし、今はもう、何の痕跡も無い。テオドラも特に収穫は無さそうだと判断したらしい。
「ここにいても無駄ですね。リュステールの封印場所は5階の玉座の間のようです。そちらに向かいましょう」
そこから先はまた、簡単なお仕事を続けるだけである。あまりにも簡単なので、ラーケイオスにパスを繋いで、おしゃべりがてら、気になってたことを聞いてみた。
『ラーケイオス、リュステールは第5席次だったってことだけど、それでそれほど封印が大変だったってことは、第1席次から第4席次まではどうしたんだ?』
『第1席次から第4席次は味方同士で殺しあったからな』
『魔族同士で殺しあったってことか?』
『そうだ』
驚いてしまう。魔族と言うのは人間の敵で、人間を滅ぼすために共闘しているのでは無いのか?
『いったいなぜ、そんなことになったんだ?』
『第1席次と第2席次は、人間で言えば、恋人同士のような関係だったらしい。第3席次と第4席次が第2席次を謀殺した後、怒り狂った第1席次が第3席次と第4席次を八つ裂きにしたのだ。我々が第1席次の元にたどり着いた時、彼女も瀕死の状態でな。第2席次の元に送ってくれることを望んで、抵抗すること無く、自ら
ちょっと待て。恋人同士? そんな、恋愛感情なんてものを持つのか、魔族が? それを聞いてみたが、ラーケイオスも分からないと言うことだった。
『元々、そのように術式が編まれていたのか、この世界に来て、後天的にそういう感情を獲得したのか、それは我にも分からぬ。ただ、そういう魔族がいたと言う事実だけは確かだ』
───魔族とはいったい何なのだろうか? 仮に人間と同様の感情や倫理観を持ち合わせる魔族がいたとしたら、魔族と友人となれる可能性があったりするのだろうか。
だが、そんな感傷に浸っている暇は今は無い。玉座の間に到着し、外から中を伺う。
「いるわね。かなりの魔力が立ち昇ってるわ」
「リュステール?」
「違うと思うわ。そこまで桁外れってわけでも無いし」
鑑定眼で中を覗いたエヴァに状況を聞き、注意深く部屋の中に入る。その瞬間、不気味な骸骨にボロボロの服を着たアンデッドが現れた。俺達を見ると、その眼窩の奥に暗い光が宿り、恨めしそうに手を伸ばしてくる。
「気をつけてください。リッチです。……え?」
テオドラが叫んでいたが、それを聞くより前に、俺は飛び出していた。
一閃!
「流石ね、ラキウス」
セリアが褒めてくれる。もっと褒めて、もっと。感極まって抱き着いてくれてもいいんだよ。でも、当然、王女様の前でそんなことが起こるわけも無かった。残念。
その王女様はと言うと、何となく不満そうな表情を浮かべている。
「どうしたのですか、テオドラ様?」
「だって、全部一瞬で倒しちゃうから、つまんないです」
───いや、そんなこと言われても。剣闘士のような熱い戦いを期待されても困ってしまう。そんなアホな会話の緩い雰囲気は、だが、エヴァの一言で吹き飛ぶことになった。
「リュステール、どこにもいないわね。封印はとっくに解かれているわ」
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