第22話 集結

 アデリアーナでの第二騎士団との合流に向け、ラーケイオスの背に乗り、急ぐ。───だが。


「やだやだやだやだ、怖い怖い怖い、やだー!!!」

「エヴァ、ちょっとは静かにしろよ、ってか、抱きついてくんな!」

「ダメダメダメー、離しちゃダメええ!!」


 飛んでる空の高さに腰を抜かしたエヴァが大騒ぎしてカオスになっていた。最初は心配していたセリアもだんだん不機嫌になって来てる。


「エヴァ様、ラキウスに抱きついちゃダメです! ラキウスも離れなさいよ!!」

「そんなこと言ったって」

「じゃあ、セリアちゃん、お願い!」


 そう言うと、エヴァは今度はセリアに抱きついた。


「セリアちゃん、怖い怖い怖いー」

「あ、エヴァ様、ダメです! こら、どさくさに紛れて変なとこ触らないでください!」


 ───何この百合百合しいシーン。ほわーっと眺めていたら、セリアに思いっきり恨めしそうな目で睨まれてしまった。


「眺めてないで、助けなさいよ。バカぁ!」


 ───ごめん、セリア。今、助ける!


「こらあ、ラキウス、私は荷物じゃ無ーい!」

「頼むから大人しくしててくれ」


 エヴァを小脇に抱えてアデリアーナに急ぐのだった。






 さて、アデリアーナに着いた。目の前にクリストフがいる。だけど何故か頭を抱えているぞ。


「ラキウス君、ラーケイオス様を連れてきたのはいいけど、飛竜たちが皆怯えて使い物にならなくなったんですが」


 飛竜と言うのは、飛竜騎士団の抱える騎乗用の竜、いわゆるワイバーンである。今回スピードが求められるという事で、歩兵などは連れず、騎士団だけで展開しているのだが、アデリアーナは城塞都市であるため、攻略用に飛竜騎士団も同行していたのだった。


 その飛竜騎士団は今、ラーケイオスにびびって飛竜たちが盛大に漏らした排泄物の後始末に追われているらしい。


「君はしばらく飛竜騎士団には出入り禁止ですね」

「すみません、あ、でも、あんな飛竜2、30頭よりラーケイオス様の方がよっぽど役に立ちますよ。それこそ飛竜100頭よりラーケイオス様の方が強いですって」

『馬鹿にするな、あんな奴ら1000匹来ようと負けはせんわ』

『マジ?』


 今、俺の頭の中に話しかけたのはラーケイオスだが、今は何故か猫位のサイズでセリアに抱えられている。ラーケイオスがいると飛竜だけでなく、馬も怯えるので、仕方なく、近くの森に潜んでもらった。それで、ラーケイオスが俺の周りを見て、聞くために魔法で生み出したのが、このミニサイズの分体である。セリアが「かわいい!」と気に入って抱いている。羨ましいぞ、俺と代われ!


 まあ、そんな俺の頭の中の会話など、他の人には伝わらない。クリストフは呆れ顔だ。


「例えラーケイオス様がどれほど強くても、複数の騎士が並行して同時に当たらなければならないことがあるでしょう。戦争は個人プレーの場じゃありませんよ」

「そうですね。すみません、失言でした」

「まあ、いいですけどね。それにしても……」


 クリストフは俺の一行を見回して頭をボリボリ掻く。


「君はハーレムパーティーでも築くつもりなのかな?」

「違いますって! エヴァはラーケイオス様が連れて行くように言ったんです。今回は魔族が関わっているからって。セリアは、その、俺を心配してくれて……」

「ちょっと待って下さい。魔族ですか?」

「え、ええ、リアーナ様が反撃できずに倒されたのは魔族がいたからだろうって」

「そういう大事なことは先に教えてください。今回、対魔族用の装備なんか持ってきてませんし。団の常備品の中にあったかな?」

「すみません」


 だが、エヴァが前に出る。


「問題無いわ。大人数ならともかく、そうで無ければ私が魔法で強化できるし、大人数で囲まないといけないような事態になれば、ラーケイオス様に頼めばいいのよ」

「わかりました。大聖女様、ご協力をお願いします」

「ええ、任せて」


 ───こいつ、さっきまでピーピー泣き喚いていた奴と同一人物とは思えねえ。


「何その目?」

「いや、頼もしい大聖女様ですねー」

「そうよ、もっと崇め奉りなさい」

「へいへい、すごーい」

「エヴァ様もラキウスもふざけてないで。大変な時なのよ」


 言い合ってたらセリアに注意された。


「ごめん、セリア」

「悪かったわ、主にこいつが」


 この野郎───。


 俺たちのやり取りを生暖かい目で見ていたクリストフが頃合いかと口を挟む。


「さて、とりあえず本陣に行きましょう。作戦を説明します」

「待って下さい。反乱はアデリアーナだけなんですか?他の所では起こってないんですか?」


 本当はカテリナの領地や隣接するセリアの領地ががどうなってるか心配なのだが、そこはおくびにも出さず、王国内の現状を聞く。


「ああ、君たちからの連絡が早く来たおかげで、王都にいた反乱の主要メンバーは拘束できました。テシウス派の領地にも近くに展開している騎士団が向かっています。抵抗はあるでしょうが、大掛かりにはならないでしょう。そのためにも、早期にテシウス殿下を拘束することが重要です。急ぎますよ」

「……わかりました」


 クリストフについて、本陣に向かう。展開している陣地の中に、ひときわ大きな天幕がある。あれが本陣なのだろう。入ると、大勢の人達でごった返している。テーブルの上に広げた地図を前に数人の人達が議論し、その周りで書類を抱えた人たちが走り回っている。


「団長、お連れしました」


 クリストフの言葉に二人の男が振り向く。どちらも歴戦の勇者と言った感じの渋い男である。


「ああ、君がクリストフの言っていた男か。第二騎士団長のセドリックだ」

「飛竜騎士団長のカイエスだ。君には飛竜たちが世話になったようだな」

「す、すみません」

「まあいい、ラーケイオス様に文句は言えんからな。今後は気をつけてくれ」

「わかりました」


 クリストフは二人に魔族の事を伝えるが、計画に変更は無いようだ。セドリックから計画の説明がある。


「まず、優先順位の第一はアルシス殿下の救出。第二にテシウス殿下の拘束、この二つがすべてに優先する」

「待って下さい。リアーナ様の救出は?」

「もちろん救出するが、この二つの優先順位が高いということだ」


 リアーナ様の方が序列は上だけど、国政への影響を考えると、王族の救出や反乱の首謀者拘束の方が優先する。その考えは分からなくも無い。しかし、割り切れなさは残る。そこにラーケイオスの念話が入った。魔族への対抗上、龍神剣確保の優先順位を上げろと言う。それを団長たちに伝えるが、クリストフから反論があった。


「おそらく、龍神剣はテシウス殿下の元にあるでしょう。龍神剣は国の象徴です。反逆してまで王位に就こうとする殿下が手元から離すとは思えません。つまり、テシウス殿下の拘束と、龍神剣の確保は同義ということです。テシウス殿下の拘束となると、どうやっても隠密裏に済ませられません。まず、隠密裏にアルシス殿下を救出し、その後にテシウス殿下の拘束に向かうという順番は変えられません」


 クリストフの反論にラーケイオスが引き下がり、まずは少人数でアルシス殿下の救出に向かうことになった。メンバーはクリストフをリーダーにその部下3人、それに俺とエヴァ、セリアの計7人である。メンバーに向け、セドリックから更に説明があった。


「いいか、アルシス殿下を救助したら、何はともあれ、いったん戻って来い。殿下の安全確保が第一だ。もしも、アルシス殿下が既に亡くなられているようなら……」


 セドリックはいったん言葉を切った。それは彼らとしては最も想定したくない事態なのだろう。


「もはや隠密にすます必要は無い。騎士団はアデリアーナに突入する。ラーケイオス様にはその際の城門の破壊をお願いしたい」

『いいだろう』


 セドリックの要請にラーケイオスが同意し、俺はそれを伝えた。


 アルシス殿下の救出、それに向けた長い夜が始まる───。

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