第12話 新たなる竜王
誰もが───。
誰もが、呆然と空を見上げていた。
突然、海から現れた巨大なモンスター。その遥か上空までそそり立つ巨大な姿を仰ぎ見て。
形状的には、先ほど倒したシーサーペントに類似していると言えるだろう。
違うところと言えば頭部から生えた2本の角。どこか知性を感じさせる目。だが、何よりその巨大さだ。
見えている部分の胴体だけで直径20メートルを遥かに超えているだろう。頭の高さは100メートルほども上にある。これで、シーサーペントと同様の体型だとしたら、全長はいったい何百メートルになるのか。
誰も何も言えない。
皆が本能的に理解してしまったのだ。これは人が勝てる存在では無い、と。
誰もかれもが、息を呑んで見上げていた、その時、頭の中に割れ鐘のような声が響いてきた。
『竜の魔力をまとう者よ、そなたは何者だ?』
声の大きさに耐えきれず、耳を押さえ、思わず膝をつく。カテリナが心配して声をかけてきた。
「大丈夫? ラキウス君」
「カテリナ様、聞こえないのですか、あれが?」
「何のこと?」
カテリナには聞こえていないらしい。周りを見ても、声が聞こえているような人は見当たらない。そこに再び声が聞こえてきた。
『無駄だ。資格の無い者には聞こえん。再度問おう。そなたは何者だ?』
これは念話なのか。だが、俺は念話の使い方なんか知らない。周りからは奇異に見えるかもしれないが、声に出して答えるしか無い。
「アラバイン王国の騎士、ラキウス・リーファス・ジェレマイアです。あなたは?」
『我は水龍レイヴァーテイン』
周りの人間が何事かとこちらを見ている。カテリナが心配そうに覗きこんできた。
「どうしたの? ラキウス君、突然」
「あの竜が念話で話しかけてきているんです。自らを水龍レイヴァーテインと名乗っています」
「水龍……レイヴァーテイン……様?」
周りの人たちの間で、「水龍」とか「レイヴァーテイン」という言葉がざわざわと広がっていく。そうした中、カテリナが声を張り上げた。
「レイヴァーテイン様、彼に何をしようと言うのですか? 我々はあなた様に害意など持っておりません」
その言葉が通じたのか、俺に返事が返ってきた。
『そこな娘に伝えよ。我は他の人間に興味は無い。そなたにも他の人間にも危害を加えるつもりは無いとな』
俺はその言葉を伝えるとともに、レイヴァーテインにもう少し声を下げてもらうよう頼んだ。このままでは頭が痛くて話にならない。
『やれやれ、竜の眷属のくせにひ弱なことだ。これで良いか。後、言葉にする必要は無い。ただ念じれば良い』
『これでよろしいのでしょうか』
『うむ、いいだろう。さて、そなた、先ほど名乗ったが、聞きたいのはそのようなことでは無い。聞きたいのは、そなたとラーケイオスの関係だ』
ラーケイオスとの関係? そんなこと聞かれても、会ったことも無いのに、なんと答えればいいのか?
『ラーケイオス様とは会ったこともありませんが』
『ふむ、まだ会うておらぬか。ならば今はまだ何も言うことは無い。ラーケイオスに会うたならまた来るが良い』
『ラーケイオス様と会ったらですか?』
『そうだ。竜の魔力をまとう者がかの竜王に会うは必然ゆえな』
『竜の魔力?』
何のことだかさっぱりわからない。闇属性魔法のことだろうか。
『そなたがまとう金色の魔力の事だ』
思い出した。俺は金色の魔力を含めた7色の魔力をまとっているとエヴァが言っていた。
エヴァも何属性かわからないと言っていたが、竜の魔力だったのか。だけど、何で俺がそんな魔力を宿しているのか、さっぱりわからない。
『時が来れば分かるようになろう。そなたとかの竜王が出会う時、運命の歯車も動き出す。だが、心するが良い。そは、佳きことのみをもたらすに非ず。慟哭も悲哀も受け入れるが良い』
『待って下さい。慟哭とは、悲哀とは何でしょうか?』
しかし、その問いへの応えは無かった。レイヴァーテインは身をくねらせて海に没していく。その巨大な姿が見えなくなると、俺はため息を吐いた。気が付くとカテリナが心配そうに見ている。
「大丈夫? ラキウス君。途中からずっと黙ってるから、どうしたのか心配したのよ」
「え、ええ、大丈夫です。念話で話していただけです」
「何を話していたの?」
「……いや、ラーケイオス様の事を聞かれたけど、僕も良くわからなくて」
竜の魔力云々の話は、あまりに重大過ぎて軽々しく話していいこととは思えない。相談できるとしたらエヴァくらいか。あのギャル聖女に頼るのもどうかと思うが、他に相談できる人など思いつかない。周りが海洋航路の再開に浮かれる中、俺は一人、シーサーペントを倒した高揚感も無く、帰途に就いたのだった。
俺がシーサーペントを撃破したという話はたちまち国中の噂に───なることは無く、世間の話題は新たなる竜王、レイヴァーテインの出現で持ちきりだった。俺の活躍なんか、すっかり霞んでしまった。大金貨20枚と勲章はもらえることになったけど。
別に国の英雄になりたいとか、そこまで大それたことを望んでいるわけじゃない。ただ、セリアに追いつけるよう、爵位を上げるためにも、もう少しだけ名声が欲しい。ただ、それだけなのに。───レイヴァーテインの馬鹿野郎。
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