第23話 もう一人の転生者
「大聖女様! いくら未成年とは言え、男性と二人きりと言うのは!」
「大丈夫、大丈夫。いくら私でも子供に手は出さないって」
「そう言う問題ではありません!」
───俺はいったい何を見せられているのだろう?
退院したので、俺を蘇生させてくれた聖女様、今は大聖女様にお礼を言おうとアポを入れていたのだが、なかなか予定が合わず、ようやく面会できたと思ったら、この騒ぎである。
大聖女様が人払いをすると言って、侍女や侍祭を部屋から追い出そうとして、未婚の男女が二人だけで密室にいることに抵抗した彼らと押し問答になったのだ。
結局、みんな追い出してしまった大聖女と相対する。とりあえずは挨拶、挨拶。
「大聖女エヴァンゼリン様───」
「長いからエヴァでいいよー」
「……」
大聖女エヴァンゼリン・ルイス・アーセナル。
元は子爵家の出身で、わずか8歳の時に、大怪我をした子供を救い、聖女と認められた天才。確か今の年齢は17で、俺より2歳上のはずだ。金髪のロングヘアーをツインテールにまとめ、少し小柄で可愛らしい少女。だけど振る舞いは全然貴族らしく無い。
「では、エヴァ様。この度は私を死の縁から救い出していただき、感謝の言葉もございません。このお礼は───」
「ああー、お礼は一緒にいた女の子の実家からいっぱいもらってるからいいや。神殿に寄進までしてもらったしね」
「……」
「それより、あの子、セーシェリアちゃんだっけ? やばくない? マジ可愛いよね。あんた助けた時とか、涙目で『このご恩は一生忘れません』って縋りついてくるからさ、ちょっと危ない趣味に目覚めそうになっちゃった」
───ダメだ、こいつ、早く何とかしないと。
そう思っていたが、続く言葉に仰天することになる。
「で、こっからが本題なんだけどさ。───あんた、転生者でしょ?」
「なっ、何でそれを⁉」
貴族らしく無い言動に、どこか侮っていたのかもしれない。いきなりの不意打ちに対応できず、思わずバカな答えを返す。先方の問いを肯定してるも同じじゃないか。
だが、彼女は元の軽い調子に戻ると、あっけらかんと告白してきた。
「やっぱねー。実は私も転生者なんだ」
驚いて口をパクパクさせている俺にさらに畳みかける。
「あんた、どっから来たの? 私、日本て国から来たんだけどさ」
「お、俺も日本から」
いつもこちらの肉体年齢に合わせて「僕」と言ってるのに、思わず「俺」に戻ってしまった。
「マジ? すごいね、偶然だね。それとも転生者、日本から来るって決まってんのかな?」
いや、それを俺に聞かれてもわかるはずないだろ。それよりも今聞くべきは、だ。
「何故俺が転生者だってわかったんですか?」
「ああ、私ね。鑑定眼っての? それ持ってるんだ」
「鑑定眼⁉」
それは凄い。「ステータスオープン!」と叫んで残念な目で見られた日が思い起こされるが、まさか実際に能力値とかわかったりするのだろうか。
「鑑定眼って、レベルとかステータスとか数字で見えたりするんですか?」
「そんな便利なものあるわけないじゃん」
一蹴された。
何でも、魔力の大きさや属性が、その人のまとっているオーラの大きさや色で見えるらしい。この世界の人は大抵1色か2色で、多くても3色止まり、4色いわゆる全属性と言う人は本当に極限られた人たちだけのようだ。それに加えて、4属性の有無にかかわらず、極々まれに、白の魔力をまとっている人がいるそうで、こうした人たちが、聖者・聖女の特性ありとなるらしかった。で、エヴァはと言うと、6色の魔力をまとっているそうだ。この世界の人達がまとう4色に白と黒の魔力を合わせた6色。そして、それは俺も同じらしい。
「あの時、あんた死んだばかりで、まだ魔力の残り火みたいなのが、まとわりついて見えてたんだよね。で、私と同じ6色でしょ。こりゃ生き返らせて話聞いて見なきゃってなったわけ」
そういう真相だったのか、と思っていると、彼女は更に俺をじっと見つめる。その瞳に魔法陣が浮かんだ。
「───そう思ってたんだけどね。あん時は死んでたから良くわからなかったけど、あんた6色じゃなくて7色まとってるわ」
「へ?」
「白と黒だけじゃなくて金色の魔力。何属性なんだろう? 良くわからない」
金色の魔力? 授業でも全く聞いたことないぞ。でもエヴァも知らないんじゃ、ここで考えてても答えが出るはずが無い。俺はもう一つ別の疑問を聞いてみる。
「俺も白の魔力があるってことは光属性魔法が使えるはずですよね。でも、俺は光属性魔法なんか使えません。理由ってわかりますか?」
「さあー? 良くわからないけど、あんたの場合、黒の魔力の方が圧倒的に大きいから、バランス的に使えないんじゃない? 私の場合も逆に、白の魔力の方が大きいからか、闇属性魔法使えないしね」
確かにそう言うことはあるかもしれない。ちなみに、光属性魔法が使えるようになったきっかけを聞いたら、前世で死んだ時のことを話し始めた。
「私さあ、死んだ時JKだったんだよね」
「JK?」
「そうそう、ピッチピチの17歳。それがストーカーっての? 変な奴にナイフで刺されて。すごく痛くて、苦しくて、『神様、次に生まれ変わったら、こんな痛い思いをしなくていいように、怪我とかしてもすぐ治せる力下さい』ってお願いしながら死んだの。そしたら、回復魔法使えるようになっててさ、マジ神様ありがとうって感じだよね」
───全然参考にならない。
「で、あんたは前世でどういう風に死んだの?」
「いや、どういう風って言われても、仕事で過労死したんだよね」
「うわ、社畜。おっさんじゃん」
「おっさん言うな。死んだ時25歳だ」
「でも今と合わせると40じゃん、おっさんだよ。私なんか前世と合わせてもまだアラサーだから」
「うるせー、来年になりゃお前もアラフォーだろうが」
いつの間にか、すごい低レベルな言い合いになっていた。それにお互い気付いて大笑いする。
俺たちは転生者同士、今後も情報交換していくことを約束して別れた。
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