第22話 大切な友達

 目が覚めると病室だった。

 毒を食らったはずなのに助かったのか? そう思ったが、まずは命が助かったことを素直に喜ぼう。

 しばらくすると、俺が目を覚ましたことを知った女性の医師がセーシェリアを連れてやって来た。


 セーシェリアはベッドの脇に座り込んで、俺の手を握り、体を震わせている。


「良かった。……本当に良かった」


 俺を心配してくれる彼女が嬉しくて、声を掛けようとするが、突然身を乗り出してきた彼女に怒られた。


「でも、もう二度とあんな無茶はしないで!! すごく心配したんだから! またあなたが、あんな……!」


 そこで絶句して何も言えなくなる。

 彼女は何かをこらえるようにしばらく上を向いていたが、俺をにらみつけると宣言した。


「とにかく、またあんな無茶するようだったら友達になってあげないんだからね!」

「ええええええっ!」


 だが、あまりにも情けない反応を返す俺を見て、プッっと吹き出す。

 目尻の涙を拭いながら笑う彼女の笑顔はとても優しかった。


「ウソ。あなたは大切なお友達よ」





 その後、女性医師が、絶対安静だからと言ってセーシェリアを病室から追い出し、俺は医師と二人きりになった。


「あの子はあなたの何なの?」

「友達ですよ。……とても大切な」


 その答えに彼女はふーんと頷きを返す。


「あなた、あの子がいなければ死んでたわよ。と言うより、実際あなた死んでたの」

「はい?」

「もう死んでたのに、あの子が治療しろっていつまでも食い下がるから、聖女様が見かねて死者蘇生リザレクションかけてくれたのよ」

死者蘇生リザレクション⁉」


 400年前の大聖女アデリア様以降、誰も使えていなかったあの大魔法を?


「そっちはそっちで大騒ぎよ。伝説の大聖女様の生まれ変わりじゃないかとか言われて。あの聖女様、近く大聖女認定されるらしいわよ」


 あの聖女様と言われても、死んでたらしいから、どの聖女様かわからないが、しかし、そんなことがあったのか。セーシェリアを助けるために戦ったつもりだったけど、俺も彼女に助けられていたんだ。


「だから、あの子と聖女様に後でちゃんとお礼を言いなさいね」

「わかりました。ちなみに後って言っても、いつくらいに退院できるんですか?」

死者蘇生リザレクションかけられた人間なんてここ400年で初めてなんだから。経過観察でしばらくいてもらうわよ」


 うん、患者を心配していると言うより、実験動物を見る目だね、これは。


 彼女は、伝えることは伝え終わったという感じで出て行こうとするが、ふと思い出したように立ち止まる。


「さっきのあの子、あなたが生き返った時、あなたに縋りついて泣いてたのよ。『良かった、良かった』って。いい子じゃない。大事にして上げなさいよ。、なんでしょ」

「ええ、ありがとうございます」


 彼女の心遣いが嬉しかった。





 病院に入院してしばらく経った。学院は冬休みに入っている。

 俺は実技演習以降、授業に出られていないが、事情が考慮されて、単位は大丈夫になった。


 あの事件については、襲撃犯は、国際的に暴れまわっていた傭兵団の一つだったことが判明したと聞かされた。全員が貴族崩れの強力な魔力持ちで構成されていた部隊で、各国の騎士団も手を焼いていたらしい。ただ、ミノス神聖帝国との関係を示す証拠は一切出てこなかったそうだ。結局、真相は藪の中のままで、今後も同じような事件が起きないか心配になる。


 ただ、朗報もあった。その傭兵団を壊滅させ、セーシェリアを救ったことが評価され、俺は騎士に叙されることになった。しかも成人後に男爵への叙爵が内定していると言う。騎士爵や準男爵のような一代限りの準貴族ではない。正式な貴族である。フェルナース辺境伯家の強い推薦に加え、カーライル公爵家やアナベラル侯爵家からも推薦があったことで、とんとん拍子に話が決まったらしい。さすがに王国宰相を含む大貴族三家に言われれば、王宮も否やは無かったということだろう。


 しかし、男爵か。騎士爵か準男爵になって騎士団に入るのが目標とか言ってたのに、いきなり超えてしまった。では、それで十分なのか、と言うとそうでは無いだろう。ソフィアから問われた言葉を思い出す。貴族になって何を目指すのか?と。今はまだ答えが見つからないけど、探していこう。





 それからしばらくして、ようやく退院して寮に戻ったら、セーシェリアから手紙と荷物が届いていた。

 手紙には、俺の体調を気遣う言葉と、騎士叙任、男爵叙爵内定へのお祝い、そして礼装を贈ったので、騎士叙任式で着て欲しいということが丁寧にしたためてあった。そして次のような言葉で締めくくられていた。


「あなたを大切に思う友人より」


 じんわりと幸せな気分になってくる。

 では、と荷物を開けてみたが、

 ───これ、無茶苦茶高価なんじゃないか?

 俺みたいな服に疎い人間にもわかる最上級の生地に、金糸やプラチナの糸までふんだんに使って仕立てられた豪華な礼装。

 嬉しいけど、服に負けそう。いつか、こんな上等な服でも着こなせるようになるのだろうか。


 飾って眺めていたら、パルマーが実家の商会で売りたいから安く売ってくれと言ってきた。売るわけないだろ、バカ野郎!

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