第19話 襲撃
俺は一週間の謹慎となった。
もっともこれは必ずしも犯人扱いされたと言うことでは無い。もちろん、捜査中に裏工作されないように関係者から隔離するという狙いもあったが、クラスメートの非難の視線から守るという意図もあったように思う。
幸いにして、俺のアリバイを証明してくれる目撃情報が得られ、無事、俺の無実は証明された。実行犯はリカルドの陪臣の家の男女で、彼らは即座に退学となった。教唆したリカルドについては、さすがに侯爵家の息子を退学にするわけにはいかないため、半年間の停学処分となった。学院としては自主的に退学してくれることを期待しての処分であったろう。
いずれにしても無実が証明されたため、無事、学院に戻ってこられたのだが、俺はまだセーシェリアと話ができないでいた。彼女にどういう顔をして接すればいいのか分からない。向こうも同様のようで、何度か話しかけてきたそうな雰囲気はあったが、踏み出せていない。
そうこうしているうちに、明日は後期最大の実技演習イベントであるドミナ・トライセルが行われる日である。これは、特待生クラス、普通クラス、初級クラス全ての生徒が参加し、混在する3つのチームに分かれて、三つ巴で旗を取り合うという競技である。
指揮する立場の人間は、チームメンバーの特性を把握し、攻撃と守備に適切に配置、刻々と移り変わる戦況に応じて指示を出す能力が求められる。2年生になれば、特待生クラスの生徒が3クラスの生徒が混在するチームを指揮して戦うことになるが、1年の段階では、2年の特待生の指揮の下、戦い方を学ぶことが主目的だ。それ以外に各チームに引率の教師が付くが、彼らは評点付けと、生徒の怪我など不測の事態に備えるのが任務。
「さて、帰るか……?」
明日に備えて早く帰ろうと思って鞄に荷物を入れようとしたら、中にメモが入っていた。
❖ ❖ ❖
ドミナ・トライセル当日、セーシェリアは会場となる森の中に一人でいた。
まだ演習が始まるまでは時間がある。彼女はここでラキウスを待っていたのである。
彼女は後悔していた。自分は何故、彼を信じてあげられなかったのか。彼が、過去のことでセーシェリアが非難されるのは間違っている、と言ってくれた時、彼女は確かに救われた気持ちになったのだ。だからこそ、そう言ってくれた少年が、自分の下着を隠し持っていたと言われた時、なおさら裏切られた気分になって、ひどい言葉を叩きつけてしまった。だが、冷静に考えればわかったはずなのだ。あれ程、彼女の名誉のために戦ってくれた彼が、そんな卑劣なことなどするはずが無かったことを。
彼女はずっと謝りたかった。でも、叩きつけた言葉があまりにも強すぎて、今更どう切り出せばいいのかわからない。周囲の好奇の目も気になった。個室に誘うのすら周りの目が気になる。だけど、この森の中なら。彼はメモに気づいてくれただろうか。来てくれるだろうか。来てくれたなら、今回のことだけで無く、これまでのこともきちんと謝って、前に進もう。
その時、背後でガサガサと物音がして、人影が現れる。
期待に振り向いたセーシェリアの顔はすぐに落胆に変わることになった。
「……先生」
現れたのは引率の教師だった。どうやら、チームからいなくなった彼女を探してここまで来たらしい。
「セーシェリア君、ここで何をしているんだね。早くチームの元に戻りなさい」
「もう少し、もう少しだけ待ってください。演習が始まるまでには必ず戻りますから。大事なことなんです」
だが、それに対する教師の答えはもう一つの声にかき消されることとなった。
「ビンゴぉっ!」
現れたのは二人組の男たちだった。生徒ではない。
うち、一人がセーシェリアに目を向け、ヒュゥと口笛を吹くと下卑た声を上げる。
「上玉じゃねえか! 人相書きなんかよりよっぽどカワイ子ちゃんだぜぇ」
「誰だ、お前たち? 王立学院の関係者じゃないな?」
「あ? お前、邪魔なんだよ」
教師が警戒して前に立つが、男が手を向けると、ゴトリ、と教師の首が落ちた。
セーシェリアは戦慄した。仮にも王立学院の教師、それも不意を突いたのではない。警戒しているのを真正面から倒すなど、どれほどの魔力を持った男なのか。
男たちは怯えているセーシェリアを前に言い合いを始めた。
「なあ、この女、連れてく前に犯っちゃっていいだろ?」
「手を出すなと言われたはずだが」
「言われたのは『殺すな』だ。『犯るな』とは言われてねえよ」
「ガキじゃねえか!」
「だからいいんじゃねえか。BBA好きは黙ってろよ」
「……わかった、わかった、さっさと終わらせろよ」
聞くに堪えないやり取りの後、男の一人がセーシェリアに向き直る。
好色な目を向けてくる男に、セーシェリアは戦う覚悟を決めた。
「
複数の氷の槍を放つ。だが、男の障壁にかき消され、届かない。
「
風の刃を放つと同時に剣を持って突貫する。
だが、魔法は障壁で届かず、斬りこんだところを、腕をつかまれ、地面に引き倒された。
男はセーシェリアのジャケットを剥ぐと、地面に仰向けに転ばせ、ブラウスの襟元に手を入れると一気に引き下ろした。
ボタンがはじけ飛び、下着が露わになる。
「ケダモノ!」
抗議の声も男の嗜虐心を満たす効果しか無い。
「おーおー、いいねえ、お嬢様は叫び声まで古風でいいや! 安心しろよ、すぐに気持ち良くしてやるからよ」
セーシェリアは絶望していた。所詮男爵家の血を引く娘、そう言われないために努力してきた。魔力も高めてきた。なのに全く歯が立たない。フェルナース家の汚名をそそぐ、その望みもかなわぬままに、こんなところで、こんな下種な男に汚されて果てるのか。それならば、いっそ……、そう思った、その時。
「彼女に触るなあああああああ!!!」
黒い閃光が飛び込んできた。
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