第13話 氷結暴雨

 魔法学の講義の翌日、魔獣討伐の実技演習が行われた。

 近くの森の一角を魔獣が嫌がる魔道具で囲い、外に出られないようにした上で、それ程強くない魔獣を数十頭放し、チームを組んで討伐するのが課題。


 放たれているのはホーンドウルフ。魔核が角状になっている魔獣で、角から魔法を放って来る。単体ではそれほど強くは無い魔獣で、俺も冒険者の仕事で何度か狩ったことがある。ただ、群れで襲ってくることが多く、魔法属性の異なる個体が群れていると対応に手間取ることになる。


 そのホーンドウルフの群れを相手に、俺の右側ではソフィアが後衛を務め、セーシェリアとカテリナが前衛で戦っている。左側では後衛エルミーナ、前衛リカルド、マティスのパーティーが戦っていた。


 で、俺はと言うと、ボッチである。

 もう一度言おう、ボッチである。


「前衛と後衛で組んで戦ってください」


 その指示のもと、あっという間に3人、3人のパーティーが組まれ、一人残された。

 うーん、どうしよう。一人でもこの程度の魔獣、討伐できるけど、それじゃ課題クリアと見なされないんだろうなあと思っていると、セーシェリアがやってきた。


「あなた、何やってるのよ?」

「ははは、あぶれました」


 俺の答えにセーシェリアは呆れたように頭を振る。


「本当に何やってるのよ、ちょっと待ってなさい」


 そう言うと、いったんソフィアたちの元に戻り、俺のところに戻ってきた。


「ほら、私が組んであげるから、さっさとやるわよ」


 うう、セーシェリア様マジ天使。

 感動していると、前衛か後衛かを聞かれたので、後衛を選ぶ。このところ、ずっと前衛でばかり戦ってきたから、たまには後衛でじっくり魔法を組み立てる戦い方をしてみたい。


「了解、じゃあ適当に抑えておくから、魔法の準備が整ったら合図お願い」


 セーシェリアはホーンドウルフの群れに向かっていく。

 しかし、上手いな。魔法で距離を取りつつ、接近してきたホーンドウルフを華麗な剣捌きで確実に仕留めていく。一撃一撃に重さは無いが、それを補って余りあるスピードで相手を翻弄していく。軽装の戦闘衣とも相まって、戦乙女ヴァルキリーを彷彿とさせる美しさ。

 いかん、いかん、見惚れている場合じゃ無かった。


 俺は魔法術式を構築していく。

 以前使った業火暴風ゲヘナテンペストは大火力の集中が必要だったために範囲はさほど広くなかった。だが、ホーンドウルフ程度であれば、もっと威力を抑えて広範囲を攻撃すればいい。森を焼き尽くすわけにはいかないので、水属性魔法。


「まだなの?」


 セーシェリアの声が響く。


「もう少し」


 閉鎖された森の一角その殆どを魔法で覆いつくす。

 術式は完成した。


「セーシェリア様、みんな下がって!」


 その声に全員が一斉に後方に飛び退る。

 さすが、特待生クラス。

 俺は溜めに溜めた魔力を解放した。


氷結暴雨グレイシスインベリス!」


 その瞬間、空には森を覆いつくさんばかりの巨大な魔法陣。そこに、数百本に及ぶ巨大な氷柱が現出した。

 その氷柱が一斉に、轟音を上げて、雨のように降り注ぐ!

 木々をなぎ倒し、ホーンドウルフを肉片に変え、容赦なく地形を変えていく氷の暴雨。終わった後には、かつて森だった残骸が散らばるだけの原野が広がっていた。


 皆が唖然としてこちらを見る中、一番間近で氷結暴雨グレイシスインベリスの余波を食らうことになったセーシェリアがギギギギギと、ぎこちなく振り向く。目尻にはうっすらと涙が溜まっていた。


「……もうちょっと手加減しなさいよ……バカぁ」


 さて、自信満々で放った大魔法だったが、結果はと言うと、味方を危険にさらした連携不足と、他のメンバーの討伐対象まで殲滅したことによる演習妨害で、教官からコッテリ絞られることとなった。個人技じゃダメだとセーシェリアに言われていたのはこういう事だったか。

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