第12話 光と闇の魔法
「魔法は大きく分けて地水火風の4属性に分類されることは先日話したが、今日はそれ以外の属性について話をしよう」
今日は魔法学の授業である。明日には実技演習として魔獣討伐なども予定されているそうだ。
演台では教師の説明が続いている。
「まず光属性魔法。体力や魔力を回復させたり、状態異常を直したりする魔法だ。この魔法の資質を持っている人間は極めて稀で、聖者・聖女と呼ばれる者は、この王国にも数十人しかいない」
そう、この世界に来て大きく感じた違和感の一つが回復魔法の貧弱さである。回復魔法の能力を持つ人は極端に少ない。この世界では、その資質を見出された少年少女は神殿に囲い込まれ、修行に励むことになる。そして、その中から選ばれた極々少数の者が回復魔法の使い手である聖者・聖女として扱われることとなるのだ。
このように聖者・聖女は極めて少数のため、国や大貴族に後押しされた大規模なミッションなどを除き、通常の冒険者パーティーに同行することはまず無い。回復は彼らがその魔力をもって製造した回復薬で行うことが通常。だが、この回復薬は、直接的な魔法と違って、傷への即効性は小さい。どちらかと言うと、体力や自然治癒力を高めて、回復速度を高める類の薬であり、普通なら全治一週間の傷が一晩寝れば治ると言う程度のものだ。それでも生傷の絶えない冒険者などには貴重な薬であり、回復薬の販売は神殿の大きな収入源となっていた。
教師の講義に注意を戻すと、伝説の大聖女について説明している。
「400年前にアレクシウス陛下と行動を共にされた大聖女アデリア様は
この世界の聖者・聖女たちの能力は決して高くない。傷や状態異常を治したり、体力を回復したりするくらいはもちろん可能だが、身体欠損の修復までできる
考え込んでいると、教師の説明は次の属性に移っていた。
「もう一つが闇属性魔法だ」
キターーーーーー! 俺が中二病全開で付けた名前そのままじゃん!
ワクワクしながら聞いていたが、説明は意外なものだった。
「この魔法は現在は、使える人間が見つかっていない」
「すみません、現在は、ということは過去にはいたということでしょうか?」
疑問に思ったことを聞いてみると、さらに意外な答えが返ってきた。
「ああ、そうだ。アレクシウス陛下は闇属性魔法の使い手だったと伝わっている」
ざわつく教室に教師の説明が重なる。
「なお、この闇属性魔法は人間ではアレクシウス陛下以外使える者が見つかっていないが、人間以外であれば使える存在がいる。……魔族だ」
発する言葉に教室のざわめきが一層大きくなる。
「この闇属性魔法は地水火風の4属性魔法では相殺できない。相殺できるのは同じ闇属性魔法か光属性魔法だけだ。従って魔族は人間にとって大いなる脅威になるが、アレクシウス陛下が自らも闇属性魔法を振るい、魔族を退けたと言われている」
説明に頭を抱える。初代国王か魔族しか使えない魔法を俺が使える?
それが衆目に触れた時、どういう反応が起こるだろう?
初代国王の再来だとあがめられる? まず絶対にそういう事にはならない。むしろ魔族が人間に化けてるって思われて討伐対象になるオチなんじゃないの、これ?
絶対隠し通さないと、と思ったところでもう一つ湧いた疑問を質問してみる。
「使える魔法の属性ってある程度、親から子に伝わると思うんですが、初代国王陛下が使えたのに、現在の王族の方は闇属性魔法使えないのですか?」
周りのみんなが何故かギョッとした顔で俺を見る。
教師も渋い顔だ。
「使える人間が見つかっていない、ということはそう言うことだ」
休み時間、ソフィアに思い切り別室まで引きずられていった。
「ラキウス君、さっきの質問は不敬と取られる恐れがあります」
「どういうことでしょうか?」
「さっきの質問は、今の王族の方々に初代国王陛下の血が流れていない、と言っていると取られる可能性があるということです!」
ソフィアの説明に血の気が引いた。
「すみません、そんなつもりはありませんでした」
シュンとする俺を眺めながらソフィアは、深くため息をついていたが、急に意を決したように身を乗り出すと聞いてきた。真剣そのものの雰囲気だ。
「ラキウス君、あなたはいったい何者ですか?」
「はい?」
「失礼ながら、あなたのことを少々調べさせてもらいました。6歳にして冒険者登録、12歳で紅玉級冒険者。これだけでも異常です。6歳と言えば、私でもお人形で遊んでいた頃ですよ」
「ハハハ、早熟だっただけですよ」
転生のことを言う訳にはいかないので、適当にごまかす。しかし、納得させられるはずも無い。
「今回のような、貴族であれば誰でも持っている常識的感覚を持たないのは平民であれば仕方ないでしょう。社交儀礼を知らないのも。でも、冒険者をしていて私塾などにも通っていないのに、一般教養の知識は並みの貴族より上。魔力に至っては上級貴族に匹敵する、いいえ、場合によっては凌駕するかもしれない。聞いていますよ。入学試験の時、巨大な炎の竜巻を起こしたということも。あなたの在り様は
真っすぐ俺を見つめる彼女に嘘はつけない。だが、転生のことは言えない。
「早熟だったのは事実です。僕は魔法が使えることが早くに判明して、母が魔法を教えてくれましたから。母も平民ながら魔力が強くて、結婚前は蒼玉級冒険者だったんですよ」
「お母様はどこか貴族のご出身だったのでしょうか?」
「いいえ、平民の出身です。僕は、王立学院に行けば貴族に取り立てられる可能性があるって知ったので、入学前にもっと魔力を高めたいと思って冒険者になったんです」
「貴族になることが目標だったのですか?」
「身分差のある社会で、上に行ける機会があるなら、それを目指そうと思うのは当然では無いでしょうか」
「それで、貴族になってあなたは何を目指そうというのですか?」
そう問われて、ハタと気付いた。貴族になった後、どうするかなど考えていなかった。
「すみません、そこまでは考えていませんでした。そもそも平民出身が貴族に取り立てられると言っても騎士爵や準男爵がせいぜいですから、騎士団の末席ででも働ければ、と、それ位しか」
ソフィアはジッとこちらを見ていたが、納得したのだろう。
「わかりました。最後にもう一つだけ。最近、アナベラル家から何か連絡があったりしましたか?」
「アナベラル家って?」
首をかしげる俺に呆れた顔をする。
「魔法士団長のことです」
「ああ、魔法士団長のことですか? いえ全然。あの人、僕を特待生クラスに入れたり、何のつもりなんでしょうね?」
「私が知るわけが無いでしょう。それではクリストフからは? 何か連絡あったりしますか?」
「第二騎士団副団長ですか? いえ、全く。だいたい何でクリストフさんのことが出てくるんです?」
「魔法士団長のサヴィナフ・カーライル・アナベラルとクリストフ・カーライル・アナベラルは兄弟ですよ」
ソフィアの説明に驚く。全く知らなかった。
「えっあれ、そうだったんですね。知りませんでした」
そう言ったところで別のことに気づく。
「あれ、ソフィア様の名字って確かアナベラル・カーライル」
「サヴィナフとクリストフは私の従兄弟です。アナベラル家には私の伯母が嫁いでいますし、私の母はアナベラル家出身なんですよ」
……貴族の血縁関係複雑すぎ。
その後、ようやくソフィアに解放され、教室に向かっていると、セーシェリアに捕まって別室に連れて行かれ、不敬な質問について全く同じお説教を食らうのだった。
大貴族のお嬢様二人に心配かけて誠に申し訳ありません。
❖ ❖ ❖
ラキウスが部屋から出て行ったあと、ソフィアは考え込んでいた。
「たいした裏は無い、と、そう言うことなのでしょうね」
一人呟く。
ソフィアが警戒していたのは、まずは、ラキウスが何者かの意図をもって送り込まれてきた存在ではないかと言うこと。これについては、サヴィナフの意図は不明のままだが、ラキウスが直接の面識が無さそうなうえに、動きが無いとなれば、警戒ばかりしても仕方が無い。
次に、平民にありがちな、貴族への害意を持った存在では無いかということ。これについても貴族になることが目標だという彼に、害意は認められなかった。
その上で、これらがクリアされた上で、有能であるならば、父の派閥に取り込むこと。これは保留中だ。確かに魔力は高いが、それだけだ。今のところ、高い志や見識までは伺えない。むしろ平民を取り込むことによる既存貴族の動揺というデメリットの方が大きい可能性がある。
それとは逆に、父に敵対する派閥に取り込まれないようにすること。これも今のところは大丈夫。フェルナース家は中立派だ。セーシェリアとの接近は許容範囲。
これらを踏まえたうえでソフィアは結論を出す。警戒を緩めても良さそうだと。父にもそう伝えよう。
「もう少し素直に、ただのクラスメートとして接してもいいのでしょうね」
そう呟くと、柔らかな笑顔を浮かべるのだった。
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