第61話 交わる魔物②
俺たちがEXスキルに驚いている中、スケルトンはただ1人、物憂げに何かを見つめていた。
その視線を辿ると、そこにあったのは1冊の本だった。
ただ、分厚さが他の物とは比べ物にならなかった。
スケルトンは何も言わなかった。
俺たちが口を出せる雰囲気でもなかった。
しばらくその本を優しい手つきでひと撫でした後、スケルトンはその本に背を向けて、隠し部屋を去った。
当然、俺たちもそれに続いて部屋を出た。
「先のものは、私の期待であり、信頼である」
先のもの、つまりはスキルスクロールだ。
「それに応えよ」
スケルトンはそれだけ言うと、玉座へと去って行った。
随分なプレッシャーだが、そういう約束で、俺たちは城の中にいる。
応えなくてはならない。
信頼に、期待に、報いなければならない。
決意は固まった。
俺たちは逃げない。
「全員、殺そう」
「賛成」
いつかと全く同じ会話だった。
*
とは言ったものの、このままでは勝算は薄い。
多分個人の能力なら俺たちに軍配が上がるのだろうが、数の暴力で来られるとどうしようもない。
俺たちにも最低限の頭数は必要である。
アリスはまだログインしていないようだが、確保できている人員は俺、レナ、アリス、ポポ、そして場合によってはロイ、というくらいだ。
「なにかあてはないの、ミナト」
「それで言うと、やっぱりユーライだろうな」
「となると一度大岩に戻って依頼しないといけないわね……あまり時間もないでしょうから、もう行動に移るべきかもしれないわ」
「なら、俺が1人で行くべきだろうな。ポポとロイは鍛治に集中させてやろう」
「えぇ。私は……そうね。やっぱりあのカエルの村かしら」
「だな。できればそれ以外の魔物たちにも依頼したい。
「わかった。とりあえず私は片っ端から魔物の村をあたってみるわ。ミナトはユーライさんを連れてきて」
「了解。しっかりやれよ」
「こっちのセリフよ」
ムカデとバッタの顔をそれぞれ歪ませた後、俺たちはそれぞれのやるべきことに向かって駆け出した。
*
走って走って走って、特に何が起こるというわけでもなく、荒野を過ぎ、山を越え、ストゥートゥを横目に、俺はあのカルティエ大森林に再びやってきた。
ほとんど全ての魔物を無視して、ノンストップでここまできたが、ゲーム内時間で12時間ほどかかった。相変わらずのリアリティであるが、今はそれが憎い。
大森林に入って迷ってしまうのではないかという懸念があったが、幸いにもそんなことにはならなかった。
20分も探せば、大岩はすぐに見つかった。
だが、今回ばかりは潜ることはできない。なにせ1.8メートルの身体だ。
俺は扉をノックするのと同じ要領で岩を叩く。
出てきたのは1匹のムカデだった。
「せ、
驚いた様子のムカデ。
今は
「そうだ。すまないがユーライを呼んでくれるか?」
ムカデが『はひぃ!』と返事をするのと同時に、その背後から声が聞こえた。
「お呼びですかな。ミナト様」
「ユーライ! 久しいな」
「ご無沙汰でございました。それで、此度は如何様で?」
「あぁ。ユーライにひとつ、お願いがあってな」
ユーライの表情は柔らかいままだ。
「なんなりと」
「戦争に、協力してほしい」
『戦争』という強い言葉を、敢えて使った。
これから起こることが、並大抵のものではないというアピールだ。
「私などの力であれば、もちろんお貸しいたします」
だが、ユーライに澱みはなかった。
一切の躊躇なく、俺の願いを承諾した。
「ありがとう。申し訳ないが時間がない。すぐにでも来て欲しいのだが」
「もちろん問題ありませんが……一体どこへ?」
「魔物の国だ」
俺がそう言って初めて、ユーライの顔が若干曇った。
当然だろう。
200年前の大戦争の戦地であり、ユーライはそれを経験しているのだから。
「承知いたしました。すぐに行きましょう」
だが、ユーライの表情はすぐに切り替わった。
燃える目をしていた。力強い目だった。
*
「たしかこの辺りだったはず……」
「いた!」
少し見渡せば、大きなカエルが1匹見えた。
「
レナが大きな声でそう言うと、カエルはビクッと身体を震わせた後、高い声で『な、なんだ!』と気丈に言い返した。
そうしてからレナの方を振り返って、数日前に見たバッタだと悟ると、ようやく落ち着きを取り戻した。
「ゾクチョー! ゾクチョー!」
カエルはゴトビキを呼びにいった。
1分ほど待てば、そのカエルはゴトビキを連れて戻ってきた。
「今度は何か用があるのか、バッタの娘よ」
「えぇ。大事な用があるの」
レナがそう言うと、ゴトビキは目を細めてレナを見つめた後、数日前と同じところにレナを通した。
「で、何の用じゃ」
世間話をしている暇はない。レナはすぐに本題に入る。
「ここに……魔物の国に、人間が攻めてくるの!」
「……そうか。で、何が言いたい」
「その人間たちを撃退するのに、
レナの願いに、ゴトビキは数秒考える仕草をした後に答える。
「無理、だな」
「そんなっ……」
「その情報を伝えてくれたことは感謝する。それがなければ、我々が滅びていた可能性もある」
「それなら……」
なにかを言いかけたレナだったが、ゴトビキはカエルの足を上げてそれを制した。
「じゃが、それとこれとは別じゃ。族長として、部族の者たちを危険に晒すわけにはいかん」
ゴトビキの言っていることは、レナには痛いほど理解ができた。だから、何も言い返せなかった。
「ただでさえ
「……そうですか」
納得する他なかった。ゴトビキの言っていることは正しい。
「では、私はこれで」
これ以上無駄な懇願を続けて時間を浪費するものではない。それに、参戦を強要するのも本望ではない。
だからレナは、この場を去ろうとした。
「待て」
だが、ゴトビキに呼び止められた。
「まだ話は終わっておらん」
ゴトビキは強い目をしていた。
「座れ」
言う通りに、レナは黙って座る。
「部族の者たちを危険に晒すことはできない。これは絶対じゃ。だが、私ひとりであれば、この命など惜しくはない」
レナはゴトビキの言わんとしていることがようやく理解できた。
「私が参陣しよう。
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