第60話 交わる魔物①

「見てきたぞ! レナ!」


「どう思った?」


「どうって……やばいと思った」


「そうね。私もやばいと思う。で、どうすべきだと思った?」


 そう聞かれて、思わず一瞬言葉に詰まってしまう。考えていなかったからだ。

 だが、答えはすぐに思いついた。


「あのスケルトンに報告すべきだ!」


「私もそう思う。行くわよ!」


 俺とレナは再びあの玉座へ向かって走り出した。





 急がなくてはならない場面なのに、緊張してしまう。


「早くしなさいよ」


 小声で急かすレナ。


「わかってるよ」


 ひとつ深呼吸をする。


——コン、コン


 返事はない。

 多分、返事をするような性格でもない。


「失礼します」


 俺は扉を開き、部屋に入る。


「なにか、ようか」


 スケルトンはあの時と変わらないように見えた。


「報告があります」


 スケルトンは少しだけ姿勢を正した。


「いってみろ」


「ここに……この魔物の国に、人間たちが攻めてきます!」


 端的に言った俺の言葉に、スケルトンは少し訝しげな表情を浮かべた。

 そして——


「ずいぶん、つごうがいいのだな」


 そう言った。



 これが嫌だったのだ。


 この城をギルドホームとして利用させてもらう条件。 

 それは、この城を守る上で、それに相応しい活躍を見せること。

 そのチャンスがすぐにやってきたとなれば、俺たちを怪しむのも当然かもしれなかった。

 なにせ200年間は何もなかったのだから。


「言いたいことはわかります。ですが、これは真実で、相手が私たちと組んでいるなどということはあり得ません」


 だからこそ、真っ直ぐに伝える。


 スケルトンの、その眼窩に、視線を固定し続ける。


 

 長い間、それは続いた。


 スケルトンは何も言わず、ただ、俺を見つめた。

 俺も、真実以外は何も語らず、真っ直ぐスケルトンを見つめる。


 5分は経った。

 そしてようやく、スケルトンは口を開く。


「よくわかった。おまえたちはうそをついていない。そして——わたしにうそはつけない」


 そう言って、ようやくスケルトンは視線をずらした。


「それで、どのような勢力が攻めてくるのだ?」


「ギルドと呼ばれる人間たちの集いが4チーム、総勢200人以上で攻めてきます」


 俺が答えると、横槍は意外にもレナから入った。


「それに加えて、ストゥートゥの軍も参戦してくる可能性があります」


 なるほど。その可能性はある。

 ただ、そうなると、攻めてきたのが俺たちのせいということになってしまうような気もするが、それには触れない。

 嘘はつかない。だが、都合の悪い真実まで語るつもりはなかった。


「すとぅーとぅ……ききおぼえがある、この国のさるまねでこっかをいとなんでいるくにだ」


 『この国の猿真似』と聞いて、確かに思い当たる節があった。

 外見が酷似していたのだ。城壁も、中の様子も、似ていた。

 ストゥートゥは魔物の国を真似て作ったということか。

 よくもまあそんな連中がぬけぬけと攻め込んでこれるものだ。


「目的はミスリルだと思われます」


「そうか……200ねんまえのせんそうも、ミスリルがほったんであった」


「今度こそ完全に撃退しましょう……いや、して見せます」


 スケルトンは城から出られない。ならば必然的に、矢面に立つのは俺たちだ。


 俺の決意に、スケルトンはフッ、と笑うと、立ち上がり、言う。


「ついてこい」





 連れられたのは、2階の巨大図書室だった。


 スケルトンは澱みなく、一直線にどこかへ向かっていた。


 広すぎる図書室を少し歩いて、ようやく止まった場所は、部屋の隅の目立たない本棚の前だった。


 その本棚に、スケルトンは手を翳した。


 典型的な隠し扉という感じだった。

 本棚はひとりでに動き、奥の部屋へ通じる道を開けた。


 隠し部屋も、本でいっぱいだった。

 大きさはそれほどではない。

 現実の俺の部屋と同じくらいかもしれない。


「ここは一体?」


「ここにあるほんはすべて、スキルスクロールだ」


「スッ! スキルスクロール!?」


 それにしては膨大すぎる量だ。

 巻物形式ではなく、普通の本の形式のスキルスクロールもあるのか。

 やはりとんでもない城である。


「ほとんどは王の物だ」 


 スケルトンの話し方が徐々に流暢になってきている気がする。

 話すことに慣れてきたのだろうか。


「王の物を勝手に使う家臣はいない」


 それはそうだろう。

 このスケルトンの言葉の節々から、大悪魔への忠誠心を感じる。


「だが、私のものもある」


 そう言うと、スケルトンは再び歩き始め、そしてすぐに止まると、本を2つ手に取った。


「つかえ」


 俺とレナに1冊ずつ渡す。


「……どうやって使うんだ、これ」


 小声でレナに聞く。


「ペラペラとめくるだけで良い」


 その声は、どうやらスケルトンに聞こえていたようで、答えはスケルトンから返ってきた。


 ペラペラと本をめくる。


 すると——


〈EXスキル〈魔剣撃〉を獲得しました〉


「い、EXスキル……」


 3つ目のEXスキルだ。これは予想していなかったので、思わず声が出る。


「ミナトも、なのね」


「まさかレナも……」


「えぇ。EXスキル〈魔女の一撃ヘクセンシュス〉……だって」


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