第58話 交わる人類②

 8番目の街『エイティア』の貴族街レ・マレ。

 貴族やそれに類する者、或いは資産家などが暮らす、貴族街レ・マレ。

 中でも存在感を放つ家屋がある。


 『豪邸』という単語を説明したければ、この家を見せるのが手っ取り早そうな、そんな家。

 

 そんな、レ・マレで1番の豪邸に居を構えるのは、『スカイアイ』というギルドだった。


 大きな机を囲んで、スカイアイのメンバー総勢46名が集っていた。

 その内45名の視線は一点に集中していた。


 頭上に表示された『ハルカゼ』の文字。


 The Second Lifeにおけるギルドランキングの2位に位置する『スカイアイ』のリーダーである。


「で、一体なんなの、リーダー」


 ハルカゼの1番近くに座る女が沈黙を破った。

 

 活動的で、かつ活発なギルドとして知られるスカイアイには珍しく、妙な緊張感が漂っていた。


「みんなに、見てもらいたいものがあってな」


 そう言って、ハルカゼは懐から何かを取り出し、机の上に乗せた。


「封筒? いや、手紙……?」


「その通りだ」


「手紙1枚のために全員集めるなんて……一体誰から?」


 頭上に『めろる』と表示された女が問う。

 それはハルカゼ以外の45人の共通の疑問だった。


「……羅刹天からだ」


 全員が驚愕したのを、ハルカゼは察した。


 それも無理はないだろう。


 どのギルドとも関わりがない一匹狼。

 誰もが羅刹天に抱くイメージだった。


「あの羅刹天から……?」


「あぁ」


 いつもおちゃらけているハルカゼは、今日だけはどこか神妙な雰囲気を醸し出していた。


「どんな内容なのですか?」


 ハルカゼとめろる以外から、初めて発言があった。


「いろいろと面倒な世辞や挨拶はあったが、要約すると……そうだな」


 ハルカゼは1度間を開けた。


「戦闘……いや、戦争に協力してくれ、ということだ」


「戦争?」


「そうだ。戦争、だそうだ」


「一体誰と? どんな勢力と? あの羅刹天が依頼してくるなんて……」


 スカイアイの面々は、やはり驚愕の表情を浮かべたままだった。


「魔物の国との戦争だそうだ」


「魔物の国?」


「200年前の戦争のことは、みんな知っていると思う。その時の魔物軍の拠点だった国だそうだ」


「なるほどね……でもなんでわざわざそんな勢力とことを構えるの? 踏まなくて良い虎の尾だと思うのだけれど」


 めろるがそういうと、ハルカゼは薄く笑った。


「ここからが面白いところなんだ」


 ハルカゼは手紙を広げ、それを朗読する。


「魔物の国があるヌーメノール連峰は、多くの魔銀ミスリルが採掘される地であり、この戦争に勝利した暁には、その魔銀ミスリルは我々のものになる……とのことだ」


「へぇ、ミスリル」


「あぁ。面白そうだろう?」


 プレイヤーにとって魔銀ミスリルとは垂涎に値するのものだ。

 それが獲得できるとなれば、飛びつかない手はなかった。


「この依頼は俺たち以外にもしているようだ。余程戦力が欲しいのだろうな」


 メンバーにほんの僅かの落胆が走る。


「具体的には、『小山人の集い』以外の上位3ギルドに戦争への参加を依頼している。『小山人の集い』は生産に特化したギルドだから、それも当然だろう。で、その『小山人の集い』には、将来乱獲できるであろう魔銀ミスリルの加工を依頼しているようだ」


「もしかして……上位ギルドで魔銀ミスリルを独占しようって算段かしら?」


「鋭いな。その通りだ。婉曲的な表現を用いてはいるが、意訳すれば『魔銀ミスリルは上位ギルドで流通から加工まで独占したい。だから出来るだけ秘密裏にやろう』と、羅刹天は言っている」


 何人かが納得したような表情を見せた。


「で、これに乗るのべきか、みんなの意見を聞きたい」


「良いんじゃない? 聞いている限り、私たちにはメリットしかないわ」


 めろるの一言が皮切りだった。


「わ、私もそう思います」

「俺もだ」

「賛成ね」


 声は次々と上がったが、否定的なものは1つとしてなかった。


「私もそう思う。魔物たちがどれほど強いのかは分からないが、それを除けばメリットだらけだ」


 そしてハルカゼもそれに同意する。


「では改めて決を採る——羅刹天に協力することに反対の者は挙手を」


 手は、上がらなかった。





「にしても、随分派手にやったのね。レオン」


「あぁ。あのムカデは徹底的に叩き潰すべきだ。奇襲で俺たちをキルしただけでなく、NPCを殺すような輩だ。この際、手段は選ばない」


「でも、依頼したギルドにはムカデの存在を明かしてないのでしょう?」


「そうだな……明かしても良かったが、それを理由に断られる可能性があったからな。それに、決着は俺たちでつければいい」


「……それもそうね」


「あとはこのことをどこまで秘密裏にやれるか、だな。できれば魔銀ミスリルは独占しておきたい」


「私もそう思うけど……現実的に考えて、厳しいでしょうね」


「まあな。依頼したギルドは『スカイアイ』、『KK』、『ギャングエイジ』の3ギルド。そして魔銀ミスリルの生産に『小山人の集い』」


「私たちから情報が出回ることはないとしても……計4ギルド、総勢200名近くとなると、完全に統制するのは難しいわ」


「まあ、できればラッキーくらいに思っておくべきか」


「そうね……というか、そこまで情報が漏れるのを嫌うなら、羅刹天だけで協力しても良かったんじゃない?」


 真っ当に思えるミリナの言葉を聞いて、レオンはため息を溢した。


「それに関してはさっきも言っただろう。完全に、完璧に、なす術もなく、奴らを叩き潰す。それには俺たちだけでは足りない。勝率は100パーセントでなくてはならない。そして今回に限り、逃走も許されない」


「……そう、ね」


「屈辱に塗れた死を与える。そうして初めて、復讐は終わる」




 

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