第59話 交わる人類③

 ロイに鎧を依頼した次の日。

 

 俺は鍛冶場でログインした。


 カン、カン、カン。


 鉄を打つ音が聞こえた。

 ロイは相当集中して、鎧作りに励んでいるようだった。

 ポポはそれをじっと見つめている。


 ロイは俺が来たことにも気づかない。

 邪魔をするのも悪いか。

 

 そっと物音を立てずに、俺は部屋を出た。


「うわっ!」


 静かに扉を閉じて顔を上げると、至近距離にバッタの顔が飛び込んできたので、思わず声を上げてしまった。


「ミナト! やっとログインしたのね」


 当然レナなのだが、何やら様子がおかしい。

 焦っているように見える。


「あ、あぁ」


「見た? 見たでしょ、あの記事!」


「記事?」


 正直見当もつかない。


「『羅刹天が魔物の国を攻める』って記事よ!」


「なに?」


「とにかく今すぐ見てきて! ログアウトして、『羅刹天 魔物の国』で検索して!」


 気迫すら感じるレナの表情に圧倒される。


「わかった」


 俺はすぐにログアウトを選択した。





 頭からヘッドギアを取り、代わりに最近出番が少なくなりつつある使わないスマートフォンを持つ。

 

 そして言われた通りに検索してみると、ひとつの記事がヒットした。


 主にゲームの攻略情報やアップデートなどについて取り上げている専門サイトだ。


 俺は、でかでかと掲げられた見出しを朗読する。


「羅刹天ら上位ギルドが魔物の国へ大攻勢……」



『羅刹天ら上位ギルドが魔物の国へ大攻勢! 目的はミスリル!』



 記事を辿ると、それは間違いなく俺たちが今いる魔物の国のことだった。


「総勢200名以上……まじかよ」


 その記事は『今後、ミスリルが街に流通する日も遠くないのかもしれない』と締め、さらに下に、参照したと思われる動画のURLが貼ってあった。


 俺はそれをクリックする。


 飛ばされたのは、世界で1番ユーザーの多い動画配信サイトだった。


「『ウイングのセカライチャンネル』……?」


 聞いたことがなかったが、登録者数を見れば、なんと100万人を超えていた。


 The Second Lifeは、プレイ中も、プレイヤーの視点で動画を配信することができるというのは俺も知っている。

 恐らくそうやって動画を撮ったり配信をしたりしているのだろう。


 そして、動画は再生される。



『どうもー、ウイングのセカライチャンネルです。

今緊急で動画を回してるんですけど、実は信頼できる筋から特大ニュースが入りました。

なんとですね、あの羅刹天が上位3ギルド……具体的には、スカイアイ、KK、ギャングエイジに協力を依頼して、総勢200人以上で魔物の国を攻略する計画を立てているみたいで、既に最終決定の段階まできてるみたいなんですね。

で、なんでそんなことをするのかってところなんですけど、その魔物の国がある山はミスリルが大量に取れるみたいなんですね。

だから多分羅刹天はミスリルをプレイヤーたちに流通させるために戦ってくれるんだと思います。

素晴らしいギルドですね。

相当大規模な戦争になることが予想されますんで、当日は僕がその様子を配信しようと思います!

なんてったって僕の種族は翼人ウイングマンですからね。空からの視点で、羅刹天さんたちを応援しましょう!

どうやら決戦の地は『アルクチュア』という街が最寄りの街なようで、本当のトッププレイヤーしか踏み入れることは出来ないと思いますので、ぜひ当日は僕の配信を見てください!

僕もようやくストゥートゥに着いたところなので、ある人から協力をしていただきつつ、アルクチュアへ急ぎたいと思います!

ですので、しばらく動画はお休みです。

あ、もしかしたらエリアボスの様子は動画に出来るかもです。

というところで、今日はこれくらいで!

ウイングでした!』



「…………」


 大変だ。


 大変なことになっている。





「いつか漏れるとは思っていたが……早かったな」


「えぇ。まあそれも仕方ないでしょう。幸い、ミスリルを独占しようとしていたことまでは漏れていないし、今のところ他のプレイヤーからの目は好意的よ。量を抑えながら街にも流通させれば良いでしょう」


「あぁ。独占しようとしていたことまでは漏らしていないということは、それによってデメリットが生じると考えたということだ。つまり、依頼したギルドの誰かということだ。外部にまで詳細が漏れたというわけではない」


「私もそう思う」


「ならばこれを利用してやろうじゃないか。今までは裏でちまちまと進めていたが、遂に表に出る時が来たということだ。プレイヤーのトップであることを示し、人類の英雄として、君臨するのだ」


 そう言うと、レオンは大きな椅子から立ち上がった。


「伝説を作ろう。羅刹天の、伝説を」

 


 拳を握って自信満々に言うレオン。



 

 十数人が集う部屋で、ただ1人、レオンに冷たい目を向けるメンバーがいることは、誰も気が付かなかった。



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