第48話 死刑執行人

〈職業の追加と進化が可能です〉


 ログインしてまず耳に……というか脳に入ってきたのは綺麗なAIの声だった。


「あぁ、そういえばレベルが40になったんだったな」


 それに伴って、今回も職業の追加と進化が——


「って、進化!?」


 昨日も言ってた? 進化出来るって。

 今日初めて言ってない? 

 聞き逃してたの? 俺。


「進化しよう! すぐしよう!」


 そう言うと、俺の身体は光に包まれた。


〈進化が完了しました〉


「おぉ……?」


 少し大きくなった。前までが170センチだとすると、今は185センチくらい。

 長身ムカデになったわけだ。


 それから、なんだか身体がテカテカになった気がする。

 いや、テカテカと言うよりは、より綺麗な黒色になったってところか?

 それにより光が反射してる……みたいなこと?


「前までは上位百足人グレーター・センチピートマンだったが……一体何になったんだ?」


上位百足人グレーター・センチピートマンから百足公センチピートデュークに進化しました〉


 ステータスを見て確認しようとしたが、その前に答えを教えてくれた。


「へぇ。百足公センチピートデューク


 遂に『マン』がつかなくなったか。


〈職業の追加も行いますか?〉


「もちろん」


 俺は例の如く、職業の羅列を眺める。


「おぉっ!」


 その文字は、俺には光り輝いているようにすら思えた。

 今までで1番かっこよくて、強そうで、レアっぽい名前の職業。


死刑執行人エクスキューショナー……」


 恍惚として、俺はその文字を読み上げた。


 死刑執行人……良い。


死刑執行人エクスキューショナーで決定しますか? Yes/No〉


 迷いはなかった。Yesを選択する。

 選択してから、詳細を確認する。こんなことは初めてだ。



死刑執行人エクスキューショナー

取得条件→EXスキル〈急所鑑定〉を取得済みかつ素早さ数値2000以上かつ進化を2回以上完了済みかつ首狩りヴォーパル種を1000体以上討伐済み。

生物を殺すスペシャリスト。

装備中の武器に常に即死魔法〈デス〉が付与される。これを解くことは出来ない。

クリティカル率が大幅に上昇し、急所への攻撃のダメージが3倍になる。



「やべぇ……」


 何がやべぇってまず取得条件がやべぇ。

 取得させる気ある? 運営さんよ。


 〈急所鑑定〉は超レアスキルだし、進化2回以上って人間ヒューマンにはまず無理だし、素早さ数値2000は速すぎだし、何より首狩りヴォーパル種1000体とかやばすぎるし。


 こんなの取れっこないよ。俺以外に。


 俺と死刑執行人エクスキューショナーの奇跡的な噛み合い。素晴らしいよ。本当に。


「ステータス」


 俺は意気揚々とそう言う。

 


氏名:ミナト

種族:百足公センチピートデューク

職業:百刀流ハンドレッツ踊る戦士ソード・ダンサー急所鑑定士アプレイザー・ウィークネス

極軽戦士マスターフェンサー死刑執行人エクスキューショナー

レベル:40

HP:790/790

MP:420/420

筋力:1722

防御:669

魔力:510

魔防:360

素早:2430

器用:1020

幸運:1000

スキル:回避lv14、隠密lv8、斬撃lv16、疾走lv19

種族スキル:炎脆弱lv5、超マルチタスク、精密動作lv1

EXスキル:急所鑑定、執念の首狩りヴォーパル・ソウル

称号:ユニーク個体、プレイヤー最高レベル




「ぷれいやーさいこうれべる……?」


 目を擦って確かめる。当然文字は変わらない。


「プレイヤー最高レベルってことはつまり……プレイヤー最高レベルってこと!?」


「なに同じこと2回も言ってんのよ」


 ツッコミは背後からかかった。


 レナである。後ろにはポポとロイを引き連れている。


「レナ。ログインしてたのか」


「えぇ。それで、プレイヤー最高レベルの称号、付いたんでしょ?私にも見せてよ」


 俺とは違って、レナは至って冷静だった。


「驚かないんだな、意外と」


「ま、考えれば不思議じゃないでしょ。猛毒大蛇ジャイアント・ポイズン・スネークと戦った時点でのレオンは33レベル。当時はレオンがプレイヤー最高レベルの称号を持っていたでしょうね。憶測だけど、多分正解よ」


「なるほど」


「で、そこから死の代償デス・ペナルティで−5レベル。多分他の人にプレイヤー最高レベルの称号は渡ったでしょうね。そこから今までの短期間で40にまで上げるのは困難。型破りな経験値稼ぎをした私たちにはついてこられないってわけ」


 レナの言う通り、考えてみればたしかに仰天するほどのことではないかもしれない。にしてもレナは冷静すぎると思うけど。


「それで、レナは何レベルになったんだ?」


 そう聞けば、レナはひとつため息をついた。


「遂にミナトに抜かれたったわけよ。38ね」


 思えば、出会った頃は俺が12レベル、レナが18レベルだった。

 俺が表立って戦闘することが多かったが故の結果だろう。

 先の戦闘でもほとんど俺が仕留めた。


「とはいえ、レナもプレイヤーの中じゃトップトップだろう」


「そうね。下手をしたら……というか、高確率で2番手だと思うわ」


「だな。レオンと……あの女の子に代わって、俺たちが最強ペアってわけだな!」


 えーと、羅刹天のあの女の子の名前はたしか……


「レオンとミリナね。たしかにレベル的にはそうでしょうね。サシで戦っても十分勝機はあると思うわ。ただ……彼らは街に入れるから、装備や魔導具マジックアイテムが充実している。数で押し切ることだって、多分できるわ」


 なるほど……その手のこととなると、魔物系種族の不便さを痛感させられるな。


 とはいえ、プレイヤーで最強を語れるほどに強くなったものまた事実。


「それで、職業はなににしたのよ」


死刑執行人エクスキューショナー


 俺はドヤ顔でレナに伝える。


「えくすきゅ……とりあえず見せてよ」


 『エクスキューショナー』と言おうとして、その途中で噛んだレナは、若干恥ずかしそうにしながら言う。


 俺は死刑執行人エクスキューショナーの詳細をレナに見せる。


「…………」


 しばらく、レナは黙ったままだった。

 

 数十秒の後、ようやく口を開く。


「……奇跡、ね」


「奇跡?」


「奇跡としか言いようがないじゃない。まるでミナトのために作られた職業……」


 そんなことあるはずはないが、そう言いたくなる気持ちはわかる。


「それに、即死魔法なんて使えるプレイヤーはほとんどいないと思うわ。武器に付与なんてもってのほかよ」


 レナは『羨ましい……』と呟いてから続ける。


「マジックアイテムやポーションなんかのことを考慮すれば、まだレオンたちの方が強いかも、と思ったけど……ミナト、あなたは正真正銘、プレイヤー最強よ」


 まっすぐ目を見て、レナは言った。


「お、おぅ」


 俺は曖昧に返事をする。

 素直にそんなこと言われるとは思っていなかった。なんだかバツが悪くなったので、話題を変えることにする。いや、本題に戻す、と言った方がいいのか?


「行こうか、魔銀ミスリルの山」


 更なる高みを追い求めて、俺たちは大河川の方へ、歩き始めた。

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