第47話 戦利品

〈レベルが40に上がりました。職業の追加と進化が可能です〉


 心地よい声が聞こえた。


 ダロット・アウダイールはポリゴンとなって消えた。


 闘いは、終わった。



「あっぶねぇええええ!」



 第一声はこれだった。心からの叫び。


 危なかった。いや、本当に危なかった。


「バカねほんと。最初から2人で戦えば良かったのに」


「いやいや、〈一閃〉ってなに? あんなすごいスキルがあるとか聞いてねぇよ!」


 さも『計画通り』という風を装ったが、最後の一撃、あれは紙一重だった。

 〈斬撃〉ならばなにも問題なかったが、あの〈一閃〉の威力は、体感では〈斬撃〉の2倍はあった。


 俺の蠢蟲剣がへし折られていてもおかしくなかった。

 俺の想定以上に、蠢蟲が頑張ってくれた、というところだろう。


 「お、お疲れ様です! ミナト様、レナ様」


 下から声が聞こえた。

 ロイだ。HPもほとんど回復していそうだった。


「ホー!」


 今度は上から声が聞こえた。

 ポポが頭の上に乗ってくる。


 俺はようやく、戦いが終わったことを心から実感した。


 戦いは終わったが、やることはまだある。


「あとは、装備の回収だな」


 もしかしたら、強い武器や魔導具マジックアイテムがあるかもしれない。

 それを回収せずしてここを発てるはずはない。


 蠢蟲たちには悪いが、『死体たちは食糧である』という認識を改める。

 そして死体を食べることをやめさせた。

 蠢蟲は1匹いっぴきが武器である、という判定なので、俺の意のままに操ることができる。


 死体は、その全てがポリゴンとなった後、消えた。


 身につけていた装備やマジックアイテムは消えない。地面に転がっただけだ。


「やりますか。死体漁り」


 俺たちは手分けしてテントの中と死体があった場所を探し回る。


 金目の物はもちろん、装備や武器もいただく。


 ……やってることが戝のそれだな。


 まあいい。俺は魔物なので。


 

 しばらく漁り回ったが、刮目に値する物は無いようだった。


 とはいえ、予備の武器が大量に手に入ったと思えば良い。

 人間の街に入ることができた暁には、これを売り飛ばすのも悪く無い。


「そろそろ終わりに——」


 『するか』と続けようとしたが、声は出なかった。

 足元に光り輝く物を認めたからだ。


「これは……?」


 それは、ペンダントだった。


 雫を模したような、空色のペンダント。

 拾い上げて詳細を確認する。



飛行フライのペンダント

飛行フライ〉の魔法が付与されたペンダント。

所有者は魔力消費なしで〈飛行フライ〉を行使できる。

24時間に1回使用可能。



 ……多分凄いぞ。これ。


「レナ、多分凄いやつがあったぞ」


 レナの方に駆け寄って、手に持つペンダントを見せる。


飛行フライのペンダント……って、〈飛行フライ〉!?」


「凄いのか、やっぱり」


「凄いなんてもんじゃないわよ。〈飛行フライ〉なんて使えるプレイヤーはほとんどいないわ。私も1人しか心当たりはないもの。羅刹天にもいないんじゃないかしら」


 その1人の心当たりというのも気になるところだが、今はスルーしてレナの話を聞くことにした。


「使用に制限があるとはいえ、相当強力ね。しかも合計の使用回数に制限はない。24時間経てばリセットされるのもいいわ」


「……へぇ。合計何回まで、って定められてる場合もあるのか」


「えぇ。そういう場合は結局、使い捨てってことになっちゃうから」


 聞けば聞くほど凄いペンダントだ。

 危うく取り逃がすところだった。


「……ていうか、これがあればあの川、越えられるんじゃないか?」


「えぇ。私もそれを考えていたところ」


 レナはニヤリと笑って言う。

 

 つくづく都合が良い。

 準備が本格的に整った。


「よし、魔銀ミスリルの山に殴り込みだ!」


 俺は腕を突き上げて意気揚々と宣言する。 

 が……


「……さすがに今日は疲れたし、明日にしない?」


「大賛成!」


 レナから出た提案に即答した俺。


 野営地から少し離れたところに移動してから、俺とレナはログアウトした。



 こうして、長い1日は終わった。



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