第33話 蠢蟲剣

 俺は両手をクロスさせた、珍妙なポーズを取る。

 これが俺なりのチョキ。


 レナは手を広げている。

 つまりはパー。


「いよっしゃぁああ!」


 雄叫びを上げる俺。やったぜ。


 両手を使う必要があるチョキを敢えて出してみる。

 ジャンケンにおいて、出さない理由はそっくりそのまま出す理由になる。

 両手を使う必要があるから出さない。それを相手が読む。だから出す。


 これが、ジャンケンの必勝法である(嘘)。


「いいもん。私にはこれがあるもん」


 レナは手に持っていた首狩りの杖ヴォーパルワンドを抱きかかえる。


「そんじゃ、ありがたくいただきます」


 俺はスクロールを広げ、そして翳す。


〈EXスキル:執念の首狩りヴォーパル・ソウルを獲得しました〉


 脳内に声が響く。


「で、気になるのはこっちにもあるわ」


 ケロッとした様子のレナ。


 レナが言いたいことは俺にもわかった。


「だな」


 俺たちは机の上に目をやる。


 そこにあるのは、2つの木箱と、その間に置かれた紙。

 木箱は、ひとつは漆黒、ひとつは純白であった。


 机もベッドも、大量のホコリが被っているのだが、紙と木箱の周りだけはなぜか一切ホコリも汚れも被ってはいなかった。


 俺はとりあえず紙を手にした。何かが書かれているようだった。俺はそれを読む。



『おめでとう、首狩りの迷宮を制覇した者よ。

この迷宮は正真正銘、これでクリアだ。

 さて、私は色々と事情があってこの迷宮で暮らしていてね。

この迷宮には結界を張って、人間が入ってこないようにしているが、150年も経てばその効果も切れていることだろう。

その時には既に私は死んでいるだろうから、この手紙を遺すよ。

この紙のそばに木箱が2つあるはずだ。

そこには、私の生涯で最後の、そして最高の逸品が入っている。

好きに使いたまえ。

それが完成した瞬間から、もう、私に悔いはない。


『災厄の呪術師』ヴィプネンより


P.S.黒がオスで白がメスです』



「だそうだ」


「ヴィプネン……聞いたことがあるわね」


「本当か? そんなに有名人なのか、この人は」


 俺はベッドに横たわる骸骨を見ながら言う。

 まず間違いなく、この人がヴィプネンだろう。


「たしか、都市を滅ぼしたとか……そんな感じだった気がするわ」


 まじかよ。めちゃくちゃ悪人じゃんこいつ。


「とにかく、開けてみよう」


 俺はまず、黒い木箱に手をかける。


「剣……だな」


「剣、ね」


 入っていたのは漆黒の剣だった。サイズ的には、俺が今持っているものと変わらない。


「こっちも開けてみましょう」


 レナが白い方を開ける。


 やはりと言うべきか、中には純白の剣があった。


 俺は黒い方の剣を手に取り、詳細を表示させる。



蠢蟲剣

古代の呪術師シャーマンによって作られた逸品。

刀身は魔銀ミスリルで出来ており、極限までスリムで細いが、大量の蠢蟲エアワームを誘う魔法(名称不明)を付与されており、蠢蟲にびっしりと覆われている。

一見すれば普通の剣だが、その体積の7割以上が蠢蟲からなっており、凝視すれば何かが絶え間なく蠢いている様子がわかる。



 恐ろしいものを見た気がする。


「蠢蟲剣、だそうだ」


 俺は剣をよーく見てみる。


 動いていた。いや、蠢いていた。


 つまり、超細い剣に無数の蟲が群がったことで、普通の大きさの剣に見えていた、というわけなのだ。


「……頭がおかしくなりそう。どうしてこうも虫ばっかり出るのかしら。私たち」


「そりゃ、俺たちが虫だからじゃないか?」


 ガッハッハ、と笑う俺。


 まあともかく、面白そうで気持ち悪すぎる剣であるということがわかった。


 白い方の剣も同じで、蠢蟲剣というらしかった。


「おいおい、黒はオス、白はメスってのはもしかして……」


 今度は蠢蟲エアワームの詳細を表示する。



蠢蟲エアワーム

ダニよりも小さい蟲の魔物。空を飛んでいても全く見えないことから、空気蟲エアワームとも呼ばれる。

攻撃手段は有しており、噛みつきとその際に分泌される酸によって標的を攻撃する。

1匹では全く傷をつけられないが、大量に群れられると無視できない傷を作ることもある。

また、オスは黒色であるのに対し、メスは白色である。その理由は未だにわかっていない。



 一応分類上は魔物らしい。


「なあ、相談があるんだけど……」


「その剣のこと? 私は要らないわよ。絶対」


 『この剣、俺にくれないか?』と言おうとした俺だったが、その前にレナに制された。


「悪いね。じゃあいただくね」


 スクロールも貰って剣も貰って……レナには随分大きな借りが出来たな。

 

「お宝はこれくらいか?」


「多分そうだと思うけど……一応探しておきましょう」


「そうだな」


 ということで俺たち4人はあるかもわからないお宝大捜索を始めたが、結局、目ぼしいものは何も見つからなかった。


「じゃ、出ましょうか」


 光り輝く魔法陣。どうやらこれを『転移門』というらしい。

 人間には馴染みが深いようで、街にひとつ転移門があり、転移によって街と街を移動しているらしい。

 ただ、転移門にも一応のリキャストタイムはあるようで、いつ行っても行列を作っているらしい。という話を、いつかのレナがしていた。


 俺たちは4人同時に魔法陣の上に乗る。

 転移門というより、転移陣の方が適切な気がしてくる。


「さらば、忌々しき迷宮よ」


 刹那、俺の視界は暗転し、次の瞬間には迷宮の入り口にいた。


 

 

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