第32話 首狩りの王③
レナはそのHPが0であることを確認したし、ミナトも他の眷属たちが一斉に死んだことを確認した。
だが、唯一、その刃だけは死んでいなかったのだ。
相手に一撃を与えるまで、どこに逃げようが、どれだけの時間が掛かろうが、攻撃することをやめない刃を召喚するスキル。
そこに使用者の生死など、関係なかった。
*
「ミナト!」
勝利の美酒も束の間、敵のいなくなったこの部屋で、絶望感が瞬く間に広がった。
〈レベルが29に上がりました〉
遠くで声が聞こえる。
やっぱりロードは死んでたんだな。
ただ、俺も死んだんじゃ意味ないか。
致命傷だ。
『失血』によるスリップダメージで、俺は死ぬ。
治癒の魔法では治すことができないバッドステータス。
〈
「……へ?」
気力と体力がみなぎってくる。
「ミナト、大丈夫?」
目を開ければ、バッタの顔が視界を埋め尽くしていた。
「大丈夫……みたい」
「今の魔法……
「なにか、知ってるのか?」
ポポが今まで使っていた回復魔法は、
「えぇ。確か高位の神官が使う回復魔法にあったはずよ。
「それをポポが使えた……と」
末恐ろしい子だ。ポポ。だがおかげで命拾い。
「ふぅ。とりあえず今日はここら辺でログアウトしない? 奥に
「だな。……今日はさすがに疲れた」
5時間歩いた後の死闘。
精神的にも肉体的にも疲労困憊、満身創痍。
奥に進むと、確かに安全地帯があったので、そこで俺とレナはログアウトした。
*
俺がログインしたとき、既にレナはいた。
ただ、レナはなぜか戸惑ったような表情だった。慌てているようにすら見える
「もういたのか、レナ」
「ミナト……この迷宮、おかしいわ」
「何を今さら。第1階層だけで5時間以上も歩かせる迷宮がまともなはずないだろ」
軽い口調で言ってみるが、レナの様子は変わらない。
やはり何かあるんだろう。
「そうね……あぁいや、そうじゃなくて、ないのよ。階段が」
「階段?」
「えぇ。階段。第2階層に続く階段が、ないのよ。上にも下にも、繋がってないのよ」
「……つまり?」
大体は察しがついたが、一応聞く。
「この迷宮、1層しか、ない」
「
「そう、だと思う。聞いたこともない話だけど……今思えば、たしかにあの
「で、クリアしたら何かあるのか?」
正直ここが1番気になる俺。
「うーん、報酬が豪華になるわね。他の階層をクリアしたときとは比べ物にならないレベルよ。でもまあ、それくらい。名誉は手に入るけど、私たち魔物だしねぇ」
「たしかに。……お宝はまだ見てないんだろ? 早く見よう」
「そうね。そうしましょ」
俺たちが今いる安全地帯のさらに奥の部屋に宝箱はあるはずだ。
俺たちはその部屋に、初めて足を踏み入れる。
「随分生活感のある部屋だな」
てっきり奥に宝箱が鎮座しているだけかと思ったが、そうではないようだった。
机に椅子、ベッドまである。こんなところに誰か住んでる——いや、住んでいたのか?
「こういうもんなのか? 迷宮の最奥ってのは」
「そ、そんなわけないわ……それに、あれ……」
レナが震える指で指したのはベッドだった。
そこには、ボロボロの布団を被って横たわっている骸骨があった。
一見しただけでは気が付かなかった。
「この部屋の主……ってことか」
「そうね。まあ、とりあえずは宝箱を開けましょうか」
「賛成」
俺たちは宝箱を開ける。
「巻物?」
中には、巻物があった。
「スキルスクロールね。これは」
レナが言う。
「スキルスクロール……聞いたことあるような、ないような」
「これを開いて翳すだけでスキルが手に入るという超優れものね。使ったら消えちゃうんだけど、人間の街でも超高価で取引されてるわ」
「へぇ、そりゃすごい」
2人で説明を読んでみる。
レナが驚いて目を丸くした。
書かれた文字は〈
あれ、スキルだったのか。
「いいい、EXスキルのスクロールなんて、超超超レアものよ! すごいわ!」
あのとんでもなく厄介なスキルが使えるようになるとは夢のよう。
ただ、問題がひとつ。
「1つしかない……」
レナの説明にもあった通り、スキルスクロールは使用したら消える。
2人のプレイヤー、1つのスクロール。
俺もレナも、難しい顔をする。
「……譲るわ。譲る。ミナトが倒したんだもの」
レナは意外と優しい。しかし、
「そういうわけにはいかない。レナが立案した作戦と、レナの
「そ。私にはもう
「それを言うなら俺にも〈急所鑑定〉がある」
『でも』、『いや』、『だから』、
譲り合いの応酬はしばらく続いた。
それを終わらせたのは、意外にもロイだった。
「で、でしたら、ジャンケンなんて、その、どうでしょうか」
ジャンケン……ムカデの手じゃ無理だと思うんだけど。
いや、出来るのか?
丸めたらグー、そのままならパー、チョキは……両手で表現だ!
その旨をレナにも伝える。
「……良いわね。そうしましょう」
さっきまでは譲り合ってたはずが、途端に勝ちたくなってくる。
「なんだか燃えてきたわね」
「あぁ、〈
どんな小さな勝負でも、やはり負けたくはない。
「じゃ、いくぞ!」
「「じゃーんけーん」」
「「ぽん!」」
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