第31話 首狩りの王②
「あと半分!」
レナの作戦は驚くほど上手くいった。
時折り来るロードの魔法も、回避に徹している俺ならば避けることは難しくなかった。
ロードの苛立ちはさらに増しているように見えた。
だが、このまま死んでくれるほど、ボスというのは甘くはなかった。
ロードが止まった。
そして——
〈
スキルを発動した。
地面にいくつもの魔法陣が浮かび上がる。
そしてその魔法陣から、這い上がってくる。
10や20ではない。100や200でも済まない。
推定で500。
そのうち半分くらいは兎だ。
「こいつは……やばいな」
「……あれ、やるしかないみたいね」
「あぁ……」
レナが言う『あれ』に、俺は心当たりがあった。
多分、あれのことだ。
「……相当の魔力を使うから、この後は期待しないでよね」
「わかってる。でもここは、やるしかない」
「えぇ。いくわよ……」
レナはひとつ深呼吸をした。
「〈
何千万という無数の
どこからともなく、『大量』という言葉すら相応しくない数のバッタが現れた。
ここにいる全ての者の視界は、バッタによって塞がれる。
この広大な部屋を埋めつくさんばかりのバッタ。
しかし俺は、これが幻影であることを知っている。確かに存在感があり、当たったときにはその感覚すらもある。だが、幻術。それを魔物に見破ることは出来ないだろう。
〈疾走〉
スキルを発動させる。
バッタなどお構いなしに最短距離でロードに向かう。
途中、すれ違うロードの眷属どもはすれ違いざまに斬りつける。大抵は、それで死ぬ。
圧倒的素早さの上にスキルまで発動しているのだ。それも当然かもしれない。
バッタの中からロードの足が見えた。
「ロイ! ポポ!」
2人はすぐに応える。
「〈
ロイは最近使えるようになった魔法を。
〈
ポポは筋力を上げる魔法を。
そして——
〈斬撃〉
剣はロードの足を斬りつける。
「ピギィ!」
突如攻撃を受けたロードは、斬りつけられた方の足を振り回して俺を探す。
が、俺は既に距離をとっている。
無造作に足を振り回すロードの行動は、結果として近くにいた眷属たちを殺すこととなっていた。
ロードに視界は戻らない。
それは俺も同じではあるが、さすがに10メートルという巨体を見失うことはなかった。
そして俺は今、ロードの背後を完全にとっていた。
すぐに攻撃はしない。
ここまで完璧に攻撃できる体制であるなら、やはり弱点を攻撃すべきだ。
弱点である首の部分は、赤色で示されている。
つまり、ダメージ倍率は2倍以上。
〈疾走〉
リキャストタイムが済んだばかりのスキルを発動させると、俺はロードの尻尾を登り、背中に乗る。
そしてそして首元に向かって走る。
ロードは俺の存在に気がつく。
〈
そして、咄嗟に魔法を発動させる。
〈回避〉
それを避けることは、それほど難しいことではなかった。
そして、背中の上にいる俺に向かって放たれた魔法を俺が回避したとなれば、自ずとその魔法は背中に降り注ぐ。
「ピィーッ!」
悲鳴が上がる。
しかし、まだ終わりじゃない。
〈斬撃〉
ロードの首を後ろから斬る。
ロードは痛みのあまり、その場に倒れ込む。
「よっ、と」
俺は難なく地面に着地。
バッタの隙間から俺を発見した眷属たちの相手をしつつ、ロードの様子を伺う。
倒れて動かない。が、死んではいない。
どちらにせよ、勝負は決したか?
「あと1/4よ! ミナト!」
レナの声が聞こえる。姿は見えない。
この状況で大きな声を出すということがどういうことか、レナにわからないはずはない。
視界はバッタでいっぱい。耳もバッタ同士がぶつかる音にほとんどがかき消されるが、大きな声が聞こえればさすがにわかる。
周辺にいた眷属たちはレナに気づいて攻撃をしに向かっているだろう。
それでも、俺にその情報をくれた。
「なんとか耐えててくれよ……!」
再びロードに向かう。途中で何匹もの眷属を倒しながら。
ロードは倒れ込んでいる。ならば、チャンスは今。
先ほど斬りつけた足を執拗に狙って攻撃する。
「ピィ」
もはやロードにも威勢は無くなっていた。
しかし——
〈
「うわっ!」
突如、衝撃で吹き飛ばされる。
「まだ魔法、使えたのか……」
ロードはゆっくりと立ち上がった。
俺が執拗に攻撃を続けた右前足はもうボロボロだ。
立っているのもやっと、という様子だった。
〈
そんな中、再び魔法か、或いはスキルを発動させた。
1本の刃が現れる。ブーメランのような形の刃。
その刃は、俺の首に向かって飛んでくる。
〈回避〉
当然回避する。それができないほどのスピードで飛んできたわけではなかった。だが——
「なにっ!?」
刃も俺と同じように方向を転換させる。
そしてそのまま、俺に向かってくる。
——キン!
なんとか剣で受け止める。
「おらぁっ!」
そして弾き返す。
それでも刃は消えない。まだ俺に向かってくる。
「まじかよ!」
俺はその刃から逃げるように遠ざかる。
当然、刃は追ってくる。
命懸けの鬼ごっこの開始だ。
どれだけ逃げても、この刃は追ってくる。
そして最短距離で俺に向かってくる。その進路内にいる者は、例え眷属たちでも容赦なく貫く。
「ってなると、これしかねぇよな!」
俺はロードの方に向かう。
何があっても最短距離で来るって言うんなら、その進路上にロードを置けばいい話だ。
自分の魔法で散ってもらおう。
ロードは動かない。否、動けない。
俺はロードの後ろに回り込み、ロードを盾にするように隠れた。
刃はそれでも、俺に向かってくる。
そして刃は——
——ロードを貫いた。
断末魔はなかった。ロードは静かに倒れる。
ロードの死は、眷属たちが消えたことで証明された。
勝った。
そう思った瞬間——
刃が、俺を貫いた。
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