第28話 梟鸚鵡

「ミ、ミナト様! 良いところに!」


 ログインして0秒で、ロイの声が飛び込んできた。


「おはよう、ロイ。なにかあったのか?」


「ミナト様、卵が、卵が!」


 ロイが指す方を見ると、卵にヒビが入っていた。


 現実の時間で12時間程度だったので、この世界では丸一日。24時間で卵は孵化しようとしているということになる。これが長いのか短いのかは、俺にはわからなかった。


——ピキピキピキ


 卵に入った亀裂はさらに広がっていき、遂に開く。


「ホー」


 鳴き声と共に出てきたのは、鳥だった。

 フクロウ……なのか?


 ふさふさな毛の生えた小さな鳥だ。


 ……ゴキブリじゃなくてよかった。


 これはテイムしたという扱いになるのか?

 どうにかしてこの子のステータスを見ることはできないだろうか。


「す、ステータス、見ないんですか?」


 ロイも丁度同じことを考えていたようだ。


「ロイ、見方がわかるのか?」


「えっ、それは普通に、命じれば良いのでは?」


 当たり前でしょ? とでも言いたがな表情のロイ。

 確かに、テイムしたら主人と従魔という関係になり、命令はなんでも聞いてくれるらしいが……生まれたばかりでも大丈夫なのだろうか。


「ステータスを見せてくれるか?」


 なるべく優しく言う。


「ホッホー」


 鳥(仮)は身体を揺らしながら鳴くと、ステータスを見せてくれた。



氏名:未設定

種族:梟鸚鵡カカポ

職業:真なる祭司ハイ・ドルイド

レベル:1

HP:28/28

MP:2990/2990

筋力:11

防御:9

魔力:3210

魔防:310

素早:80

器用:190

幸運:7900

スキル:危険予知lv1、魔法付与エンチャントlv1、鑑定lv1

種族スキル:超援護lv1、物理脆弱lv10、完全無詠唱化、攻撃魔法習得不可

称号:幸運の鳥



「………」


「………」


 黙り込む俺とロイ。


「おはよー! ミナトにロイくん」


 ログインしてくるレナ。


「——って、何よこの子! かわいーっ」


 鳥に気づくレナ。


 俺は無言でこの子のステータスをレナにも見せる。


「………」


 黙り込むレナ。


 沈黙はしばらく続いた。


「「「強すぎないか!?」」」


 息をピッタリと合わせて、3人で沈黙を破った。


「ま、魔力3000越え……レベル1で……」


 ショックを受けるレナ。


 俺は一旦深呼吸をして落ち着きを取り戻す。


「……梟鸚鵡カカポっていうんだな。この子の種族は」


「ホーホー」


 可愛らしく笑いながら、カカポは答えてくれる。


「ゴホン。ひとまずこの子の詳細を一通り見ていきましょ」


 レナも落ち着いたようで、まともなことを言ってくれる。


「そうだな」


 俺は梟鸚鵡カカポと書かれたところを押す。



梟鸚鵡カカポ

幸せを運ぶ幸運の鳥。

一切の攻撃手段を持たず、耐久面でも脆弱だが、味方の援護においては超一流。

地獄のような洞窟を最初に切り拓いたものに贈られる。



「攻撃手段を持たないとはまた……超ピーキーね」


「だな。ひたすら援護をしてくれるってことか」


 次に職業だ。



真なる祭司ハイ・ドルイド

取得条件→祭司ドルイドを取得済みかつ魔力数値3000以上。or魔力3000以上かつ幸運6000以上。

祭司ドルイドの完全上位職。

自然の力を借りて魔法を繰り出す。



 この職業には見覚えがあった。たしかユーライが取得していたはずだ。

 にしても、祭司を取得せずにその完全上位職を取得するとは……しかもレベル1で。

 どうやらこれはやばそうだ。


 スキルも当然見る。



危険予知lv1

迫り来る危険を予知することができる。

殺意と悪意に対して敏感になる。


魔法付与エンチャントlv1

武器に魔法を付与することができる。


鑑定lv1

相手の情報を見ることができる。

相手と自分のレベル差によって見られる情報量が変わる。


超援護lv1

味方を援護する魔法に上昇補正。


物理脆弱lv10

物理攻撃に対する脆弱性が非常に高い。


完全無詠唱化

全ての魔法を完全に無詠唱で使うことが出来る。


攻撃魔法習得不可

一切の攻撃魔法が習得できない。



「尖りすぎてるわ……これは」


「あぁ。これは多分超超激レアモンスターだな」


「ところでミナト」


「ん? なんだ?」


「種族の説明に『地獄のような洞窟を最初に切り拓いたものに贈られる』ってあるんだけど、まさか洞窟のことじゃないわよね?」


 レナが言う『あの洞窟』は、多分ゴキブリの洞窟のことだ。


「ご明察。この子はあのゴキブリの洞窟をクリアしてゲットしたのです」


 レナの目が悍ましいものを見る目で俺を見てくる。


「確かに地獄だわ……考えただけで鳥肌が立ってくる」


「いやあ……たしかにあれは地獄だったなあ」


 しみじみ。


「で、この子、名前はどうするの?」


 話を逸らすようにそんなことを言うレナ。

 ただ、確かにそれは決めておかなくてはならないことだ。いつまでも氏名の欄が未設定では可哀想だ。


「うーん……」


 なかなか良い案が出ない。


「レナ、何かいい名前ないか?」


「それはミナトが決めなきゃだめよ。あなたの従魔なんだから」


「……それもそうか」


 悩むこと数分。


「……ぽぽ」


「え?」


 突然俺から漏れたその言葉にレナが戸惑う。


「君は今日からポポです」


 散々悩んだ挙句、俺はなんの捻りもない命名をした。


 ポポは身体を揺らして笑顔を作ると、パサパサと飛んで俺の頭に乗った。






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