第22話 新たな旅へ

魔銀ミスリル白金プラチナ以上の硬度を持ちながら、装着者に合うように変形する鉱石、だったわよね」


「そうだ。それで鎧を作って、ヘルムからガンレットまで着れば、俺らが魔物だってことはわからないんじゃないかってことだ。身長だってそんなに違和感はない。俺は進化したことで170センチ程度になったし、レナだって150センチある。ロイは……俺の腹に潜ませよう」


 我ながら良い作戦だな。


「でもヘルムで顔を隠したところで、身分証のない人は門番に止められるわ。顔を見せろ、ってね」


「……へ?」


 俺の作戦、破綻。

 なんでこったい。それは知らなかった。これは結構なショック。


「そんなときに便利なのが、私の幻術よね」


 バッタの顔に悪戯な笑みを浮かべたレナの声は、俺にとって天使の福音に聞こえた。


「それだぁ!」


 えっへん、とでも言いたげなレナの表情。


「たまには役に立つでしょ。幻術も」


 たまにはどころかレナの魔法に頼りっきりな気がするんだが、それは言わないでおく。


「レナの幻術で幻の顔を見せるってところか。見破られはしないか?」


 この作戦の欠点は幻術はどこまでいっても幻術であるということ。触られたら終わりだし、見破られる可能性だってある。


「まあ可能性は充分あるわ。そうなったらもう仕方ないと思うしかない。けど、所詮門番をやってるような人だろうから、大丈夫だと思うんだけどね」


 ナチュラル門番見下しが入ったが、それには同意だ。NPCの中で、間違っても上澄みではないはずだ。


「最悪、逃げれば良いだけだしな。変なしがらみがない分、自由で良いな、魔物は」


「でも問題がもうひとつあるわ。というか、こっちが最大の問題よ」


「というと?」


魔銀ミスリルが手に入らないでしょ。プレイヤーの中で持ってる人は、多分いないわ。あのレオンですら、鎧は白金プラチナよ」


「……確かにそうなんだが、ひとつ心当たりがあってな——ユーライ、聞かせてくれるか」


 ユーライも話を振られることを予測していたようで、特に驚くこともなく頷いてくれた。


 俺が言う心当たりとは、以前ユーライが話してくれた200年前の戦争の話だ。確かその戦場が、魔銀ミスリルが取れる山の付近だったということだったはずだ。


「以前——と言っても200年も前の話ですが、我々が住んでいた草原の近くに、魔銀の取れる連峰がありましてね。そこで人と大悪魔とで戦争が起こったのです」


 俺の記憶違いでなくて安心した。

 レナはというと、顎に手を当てながら『聞いたことないわね……』などと呟いている。


「結局、人の最大戦力たる勇者と、魔物の王たる大悪魔は相打ちに終わり、人間たちはその連峰から手を引きました。恐らく今はそのときに残された魔物がいるはずです。ですから、魔銀が取り尽くされているということはないと思います」


「ということだ。そこを目指したいと思うんだが……」


「案内致しましょうか? ここからは少し離れていますが」


「そういう訳にはいかない。ユーライは族長だろ? 長い間ここから離れるのは良くないんじゃないか?」


「……それはそうでしょうけど、じゃあどうするのよ」


「簡単な地図を書いてくれないか? 言っても山だし、それさえあれば辿り着けると思うんだ」


「なるほど。ではそのように致しましょう」


 そう言うと、ユーライは大岩の中に入っていった。


 1分とせずに出てきたユーライが持っていたのは、草で出来たと思われる紙だった。

 真っ白とは程遠いが、充分に紙として機能するだろう。


 そこに自分の脚を用いてつらつらと書きつづる。


「インクは何で出来ているの?」


 レナがふとそんなことを聞く。それが俺には、どうも不穏な質問に思えて仕方がなかった。


「これは、蜚蠊コックローチを潰したものです」


 手を止めずにユーライが答える。レナの顔は、目に見えて引き攣っていた。


「……できました。こんなところでしょうか」


 ユーライが書いてくれたのは、本当に簡単な地図だった。


「前に行った時と変わりなければ、人間の街を2つ超えた大河川の先にあるはずです。魔銀が取れる山の麓には、魔物の国とその周囲に散らばる集落があるはずですから、迷うことはないと思います」


「なるほどなるほど」


「このまま西に行けば、森を出てすぐに1つ目の街があります。その街に着いたら今度は真っ直ぐ北に向かってください。そうすれば2つ目の街に辿り着きます。そこからも北上を続けてください。しばらく行けば、大河川が見えるはずです。そこを越えれば、魔銀の取れる連峰があります」


 ユーライが話してくれたことは、地図に書かれたことと一致していた。

 

「ありがとう、ユーライ。……早速向かおうと思うんだが、準備は大丈夫か、ロイ」


「大丈夫です! このハンマーがあれば、それ以外はいりません」


 ロイが手に持つハンマーは、石と木でできた質素なものだった。恐らくロイが木の武器を作るのに使っていたのだろう。


「よし、それじゃあ魔銀の山に向かって、出発だ! ユーライ、いろいろとありがとう。またここに来るよ」


 俺がそう言うと、ユーライは頭を下げた。


「いつでも、お待ちしております。……ご武運を」


 俺たち3人は、新たな大地を求めて、その一歩目を踏み出した。



 

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