魔銀争奪戦争
第20話 遺恨
The Second Lifeには『ユニークモンスター』と呼ばれる者たちがいる。
9体とも13体とも語り継がれている最強種。
討伐されたら二度と蘇ることのない個体である。
そのユニークモンスターを討伐することをこのゲームをプレイすることの大きな目標とするプレイヤーも少なくない。トップギルドである羅刹天やスカイアイ、KKなども少なからずユニークモンスターに対する思いを抱いていた。
しかしまだリリースされたばかりということもあり、ユニークモンスターは1体とて討伐されていない。
それどころか、存在が確認されているのが僅かに1体。否、この場合1人という方が適切かもしれない。
唯一存在が確認されているユニークモンスターは、レヴァント帝国皇帝オルサートのみ。
ただオルサートは人間なので、どうにもプレイヤーには手を出しづらい。だから多くのプレイヤーは他のユニークモンスターを一目見ようと、今日も探索と攻略を続けている。
*
6番目の街『シクス』、シクス城内会議室。
今日もここには羅刹天のメンバー23人が一堂に会していた。
前回ここに集まった時よりもずっと重い雰囲気が漂っていた。
沈黙を破ったのは、やはりレオンだった。
「……昨日のことを、説明しようと思う」
昨日のこととは言うまでもなく、ミナトとレナによって倒されたことだ。
ただそれは4人以外は知らない。だからレオンはわざわざ23人全員を集めた。
「ボスがそんなに強かったのか? 逃げることすら出来ないなんて、らしくもねえ」
巨人——ゴウが軽い口調でそう言う。
「あぁ。本来ならピンチのときはそうしただろう。今までのように」
レオンが膝の上に置いた手が震えているのは、幸か不幸か、誰も気づかなかった。
「……あれは、プレイヤーだったわ」
しかし、ミリナの身体が震えているのは、流石に誰も見逃さなかった。
「どういうことだ?」
1人が問いかける。当然だ。4人以外には話が見えない。
「俺たちはエリアボスを追い詰めた。確かに恐るべき強さだったが、それでも勝ったんだ。本当にギリギリの戦いだったが、あとはトドメを指すだけだった」
「それじゃあなぜ——」
「平たく言うなら、横やり……いや、漁夫の利とでも言うべきか」
レオンは自嘲気味にフッ、と笑ってから続ける。
「俺はトドメの一撃を空振ったんだ。闖入者が仕掛けた幻術に騙されてな」
レオンはゆっくりと、その一部始終を話し始めた。
*
「……ムカデの魔物、か」
レオンの説明が一通り終わると、誰かがポツリとそう溢した。
ミリナはまだ震えていた。この話をしているとどうにも思い出してしまう。レオンを倒し、そしてすぐさま自分の元に明確な殺意を持って駆け寄るあのムカデの姿を。
「プレイヤーの名前は、たしか『ミナト』だったわ」
それでもなんとか声を振り絞る。
「ミナト……聞いたことがないな。聞き覚えのある者はいるか?」
レオンは実はミナトの名前を確認出来ていなかった。ミリナの方に走っていく背中は辛うじて捉えたが、PNまでは確認できなかった。
レオンの問いかけに、誰も声を上げなかった。
「私とイグバルは多分別の人に倒されたよ。ね、イグバル」
しばらく続いた沈黙の後、カエラがそれを破った。
「……えぇ。我々はその『ミナト』というプレイヤーに目を取られているうちに、別のプレイヤーにやられました」
レオンもミリナもこれは初耳だった。
「死に際に一目見ただけですが、『レナ』というPNでした。そして恐らく、バッタの魔物でした」
「おいおい、ムカデの次はバッタかよ」
ゴウが軽口を叩く。
「魔法による奇襲でしたが、恐るべき技量でした。推定で21〜24レベルほどだと思われます」
それに騙されて、イグバルはレナを少し高く見積もった。
「24……」
誰かがショックを受けたような声を出す。
24レベルというのはこの羅刹天においても一目置かれるくらいに高い。
虫の魔物がそれほどの力を持つというのは、まさしく絶望に値することであった。
「ミナトとレナ、だ。見つけたらすぐに報告するように。
22人はレオンの言葉に力強く頷き、そして思う。
醜悪で凶悪な虫の魔物は、我ら羅刹天が滅ぼさねばならない、と。
*
〈職業の追加を行いますか?〉
俺がログインして最初に聞いたのは、脳内に響くAIの声だった。
「そういえばレベル20になったんだったな」
俺はいつものように職業欄を眺める。
「
聞き馴染みのない言葉を発見し、思わず声に出る。
「……それに
だが……
俺は
取得条件→職業:
敵の急所を感知することができる職業。
この職業を取得すると、自動的にEXスキル:急所鑑定を取得。
〈
俺はYesを押した。
「おはよ! ミナト」
同時に、レナがログインしてきた。
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