第11話 最奥

踊る戦士ソード・ダンサー

 取得条件→職業ジョブ:二刀流及び軽戦士ライト・ウォリアー及び舞踏家ダンサー取得済みor職業:百刀流ハンドレッツ取得済み。

 踊るような可憐な身のこなしで相手を翻弄し斃す職業。


 

 かなり厳しい条件だが、俺は別。やはり面白そうだ。

 踊る戦士ソード・ダンサーを押す。


踊る戦士ソード・ダンサーに決定してよろしいですか? Yes/No〉


 迷いなくYesを押す。

 これで職業ジョブの選択は完了だ。進化は洞窟を出てから、だな。


「ステータス」



氏名:ミナト

種族:百足人センチピートマン

職業:百刀流ハンドレッツ踊る戦士ソード・ダンサー

レベル:10

HP:170/170

MP:200/200

筋力:581

防御:130

魔力:200

魔防:130

素早:1005

器用:511

幸運:320

スキル:回避lv1、隠密lv1、斬撃lv2

種族スキル:炎脆弱lv5、超マルチタスク、精密動作lv1

称号:ユニーク個体



 かなり強くなっている。特にスピードはとんでもない。洞窟の中じゃそれほどスピードは出せないけど、プレイヤーの中でもトップクラスなんじゃないか?


 思案に浸りかけたところで、俺をじっと見つめるロイの視線に気がつく。


「あぁ、悪いなロイ。そろそろ行こうか」


「わ、わかりました」


 俺は少し強めに足を踏み出した。

 ゴキブリはポリゴンになった。





 20分ほど歩いたが、何もない。

 本当に、何もない。それこそ不気味なほどに。


 地面のゴキブリは遂に、どれだけ足を強く踏み込んでも死なないようになっていた。

 種族は上位蜚蠊グレーター・コックローチと変わらないが、恐らくレベルが高いのだろう。

 剣を用いなければ倒せない。


 何千というレベルではない数のゴキブリを一匹ずつ剣で倒すのは非現実的。つまりこのゴキブリたちに戦闘の意思があれば俺たちは間違いなく負ける。

 それでも奥へ奥へと進む。

 しかしそれももう終わりそうだった。


「行き止まりか?」


 行き止まり、としか表現しようのない壁だ。拍子抜けだな。結局何もなかったって訳か。


「そうみたいですね」


 俺の問いにそう返すロイ。どこかホッとした様子だ。


「帰るか」


 そう言って踵を返そうとした——そのときだった。


 背後で音がする。ガサガサという大きな音。

 慌てて振り返ると、ゴキブリたちが一斉に動き始めたのが目に留まる。まるで意思か、或いは規律を携えたかのような動きようだ。


 それが終わると、行き止まりに見えた壁に、小さな穴ができた。さっきまでゴキブリの大群によって塞がれていたものだ。


 ムカデフォルムになればどうにかくぐれるだろうという穴だ。


 ゴキブリたちは俺を歓迎し、同時に挑発しているように思える。


 ゴクリ、とないはずの唾を飲み込みそうになる。


「行くか、ロイ」


「はい」


 意外なことに、ロイは拒絶の意思を示さなかった。

 そのことに俺が驚いていると、ロイは言う。


「行くしかありません。逃げようものなら、全員で襲ってきます。有象無象の蜚蠊コックローチたちに意思はありませんが、恐らくこいつらを束ねてるやつがいます。そいつを倒さない限りは、ここから出られないと思います」


 俺は何も返さず、ムカデフォルムになって穴を潜る。ロイも続く。


 潜り抜けると、そこは広い空洞のようになっていた。

 高校の教室の3倍ってとこか?


 ゴキブリたちが壁や天井、地面を覆っているのはさっきまでと同じ。


 ただ、何かがいるというわけではない。


「てっきりこの洞窟のボスがいると思ったんだが……ハズレか?」


 再び背後でゴキブリたちが動き出す。今度は穴を塞ぐように。


「逃がしてはくれないらしい」


 それが終わると、今度はこの空洞の中心の地面が盛り上がるのが見えた。


 ゴキブリの土から、何かが芽生えるように。


 出てきたのは、大きなゴキブリだった。


 俺よりも遥かに大きい。推定2.5メートル。

 立っているというわけではないが、存在感が桁違いだ。


「ようこそいらっしゃいました。百足族の——いや、百足人センチピートマン様」


 その頭上には、蜚蠊の王コックローチ・ロードの文字。


「これは歓迎どうも。それで、ゴキブリの王様は俺達をどうするつもり?」


「それはもちろん、わたくしの晩御飯になっていただきます。今夜はご馳走ですね」


 洞窟にいながらなぜ日時がわかるんだ、という問いかけは喉を通らなかった。


「戦う、って選択肢しかないんだな? 俺達には」


 一縷の望みをかけてそう問うが、期待薄だろう。


「戦う、ですか? それは正確ではありませんね。これはね、虐殺。私が手を下すまでもありません。私は献上されたあなたを食べるだけ。久しぶりです。同族以外を食べるのは」


 そうじゃないかとは思っていたが、やはりか。想像したくもない光景だな。


「行きなさい。私の可愛い子どもたち。足くらいは、食べても良いですよ」


 これから先の地獄を想像して、何故か笑みが溢れた。

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