第10話 進化?

 しばらく歩くと、確かにロイの言う『別れ道』を見つけた。のだが……


「ミナト様、多分あそこの蝙蝠バットはこの程度の光では逃げません。恐らく、上位毒蝙蝠グレーター・ポイズン・バット


「そうか」


 俺は短くそう返す。想定内のことだったからだ。


「ミナト様。少し提案というか、考えがあるのですが」


「なんだ? 言ってみてくれ」


「僕が最近取得したスキルに〈魔法付与エンチャント〉というのがあります。武器や鎧に魔法属性を付与出来るスキルです」


 なるほど。確かに使えそうだ。


「まだまともに使ったことのないスキルですが……」


「もちろん、頼む」


 どれくらいの効果があるかはわからないが、無いよりは良いだろう。


 『強くなってもらわないと困る』などと言ってロイを引っ張り出しておきながら、戦闘はほとんど——というか全て俺が行なっている。

 ちなみにチーム内での経験値配分は均等ではなく、各々の貢献度を鑑みて決定される。いわゆるパワーレベリングが出来ない仕様になっているのだ。


「いくぞ、ロイ」


「はい」


 左右の別れ道を塞ぐようにぶら下がるコウモリは、これまでより一回り大きい。


 ロイが放つ光を発見したコウモリたちは、逃げるのではなくこちらに向かってくる。

 それに合わせて俺も疾走する。


「〈武器魔法付与・光ウェポン・エンチャント・ライト〉」


 ロイが唱えると、両の手に持った剣が光り輝く。


〈斬撃〉


 俺もスキルを発動する。


 コウモリの羽が切り落とされる。が、一撃で葬ることはできなかった。

 それでも、羽を切り落とされたコウモリは力を失い、ゴキブリだらけの地面に落ちる。


 逃げることなく俺に向かってきたコウモリは凡そ30というところ。かなり少ない。

 かなり骨は折れそうだが、無理な数ではない。羽を切り落とせば戦闘能力を失うようなので、実質一撃と言って良い。


〈レベルが9に上がりました〉


 8匹目を倒したところで、心地の良いアナウンスが脳内を走った。





 それほど時間は掛からなかった。慣れてしまえば作業のようなものだった。


「ところで、トドメはロイが刺したのか?」


 俺がやったのはあくまで羽を切り落として無力化しただけ。その証拠に、コウモリがポリゴンになった姿を俺は見てない。

 

「いや……」


 ロイの視線を辿ると、そこにはゴキブリの地面から羽の先端だけがのぞいていた。


「うげぇ。ゴキブリどもに食べられた……ってことか」


 ロイがやったのなら都合が良かった。無力化したのは俺なので、大体の経験値は俺に入ってるだろうが、トドメを刺すという行為は少なからず経験値の足しになるはずだ。


 だがまあそれは仕方ない。切り替えだな、切り替え。


「よし、行こうか、右へ」


 この先にはコウモリはいない。天井のコウモリは、ゴキブリに変わる。

 ここでようやく、ロイは〈小さな光スモール・ライト〉を解いた。


 というところで、俺は足元に違和感を覚える。厳密に言えば、さっきコウモリたちと戦っているときから感じていたが。


 試しに一歩踏み出してみる。


「やはりな」


 足元を注視する俺を、ロイは不思議そうに見つめる。


「な、何かあったんですか?」


「あぁ。普通に歩くだけじゃ、ゴキブリが死なないようになってる」


 ここまでは歩くだけでレベルアップだったが、ここからはそうもいかないらしい。


「もしかすると、蜚蠊コックローチも上位種になっているのかもしれません」


 ロイの言葉を受け、俺は目線の焦点をゴキブリたちに合わせる。


 浮かび上がったのは、無数の上位蜚蠊グレーター・コックローチの文字。

 一匹いっぴきをよく見ると、確かにこれまでより少し大きいような気がしなくもない。


「ならこれでどうだ……よいしょ」


 俺は足に力を入れて地面に叩きつける。

 ゴキブリはポリゴンになって消える。


〈レベルが10に上がりました。進化および職業ジョブの追加が可能です〉


「進化だと?」


 思わず口から溢れる。


 レベルが10上がる毎に、新たな職業が追加出来る。これはどの種族も同じ。MAXレベルが100なので全部で11個の職業が取得可能だ。これはどの種族も不変で、当然ムカデにもある。


 ただし進化は別だ。例えば人間ヒューマンが進化することはほとんどない。特殊な条件を満たした上でレベルを10上げる必要がある。

 進化とはいわば存在そのものが高みへ昇ることだ。魔物系種族のメリットだな。これは間違いなく。


〈進化を実行しますか? Yes/No〉


 Yesを選択したいところだが……

 

 ここは洞窟だ。進化するとなると、恐らく身体は大きくなる。ここまでの傾向からそれは目に見えている。

 ただでさえ窮屈な洞窟だ。進化した結果、身体が大きくなって立ったときに顔が天井のゴキブリに埋もれるなんてことになったら、目も当てられない。

 この洞窟でずっとムカデフォルムなんて嫌だぞ。俺は。


「後で進化することは出来るのか?」


 出来ないのなら今するしかないが……


〈可能です〉


「ならば今は保留ということで頼む」


〈かしこまりました。では職業も後ほどにいたしますか?〉


「いや、それは今決めよう」


 そう言うと、目の前に取得可能な職業が羅列されたウィンドウが表示される。

 

「相変わらずとんでもない量だな」


「すごいです! ミナト様。レベルが10になったんですね!」


 ここまで黙っていたロイだが、俺の言動で色々と察したようだ。


「まあな」


 そう短く返したところで、ひとつ面白そうな職業を見つけた。

 

「……踊る戦士ソード・ダンサー、か」

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