第9話 ゴキブリレベリング

 ユーライと別れた俺とロイは、一面ゴキブリだらけの洞窟を進んでいた。

 足元に意識を向けると、確かにブチブチと何かを潰す感覚がある。

 不快ではあるが、これでレベルが上がるのだから仕方ない。


「ところでロイ、コウモリも出ると聞いたが、今のところ天井までゴキブリでいっぱいで、コウモリは出そうにないんだが……そこんとこどうなんだ?」


「い、入口付近は蜚蠊コックローチしかいません。少し進むと天井に蝙蝠バットが増えます」


「なるほどなるほど。それで、その2種族以外の魔物は一切出ないのか? この洞窟」


「実のところ、それはわからないみたいなんです。この洞窟はよく狩りに使われているんですが、用があるのは入口近辺だけですので……わざわざ中まで入ろうという方はいません」


「ではこの洞窟の最奥まで踏破した者はいない……ということか?」


「そ、そうなります」


「ユーライほどの実力があればいけそうなんだがなぁ」


「その通りだ思いますけど、でも、わざわざ奥に入り込む必要がないですし……それに、族長は魔法を使いますから、狭いこの洞窟は条件が良くないんです」


 道理だな。


〈レベルが6に上がりました〉


 またレベルアップだ。

 精神的には楽ではないが、肉体的にはこの上なく楽なレベリングだな。歩いてるだけなのだから。


「おっ、あれ、コウモリじゃないか?」


「ですね。下位蝙蝠レッサー・バットだと思います」


 天井に張り付いているといっても、手を伸ばせば普通に届く。

 ここはシンプルに剣で斬るのがいいだろう。


〈斬撃〉


 スキルを発動させ、1匹を斬り捨てる。


 それに反応した別のコウモリたちが、俺の方に向かってくる。


「多いな!」


 一気にバサッと羽ばたき、俺に一撃を喰らわせにくる。


「き、気をつけてください! 稀に上位種である毒蝙蝠ポイズン・バットもいますから!」


 そう言うと、ロイは俺の後ろに隠れる。


 ロイは普通のムカデのように伏せた状態なので、コウモリたちの目には止まらないようで、コウモリたちは俺だけを狙って飛んでくる。

 

 それを、現実世界では考えられないような動体視力で見切り、斬り捨てる。

 素早さ、のパラメーターは、ここにも影響を及ぼしているのかもしれない。


〈レベルが7に上がりました〉


 レベルが上がったのは嬉しいが……


「埒があかない」


 あまりにも多すぎる。ゴキブリもそうだが、やはりコウモリも段違いに多い。個としては最弱クラスでも、群としてみればこれは侮れない。数が多いというのはそれだけで脅威だ。


「ロイ! 一旦引くぞ!」


「は、はい!」


 俺たちは全力で入口の方へ戻る。


 コウモリたちが俺たちの速さについて来られるはずもなく、程なくしてコウモリの羽音は聞こえなくなった。


〈レベルが8に上がりました〉


 当たり前だが、コウモリを殺す方が多くの経験値が入るため、効率はかなり良さそうだ。

 ただ、剣を振い続ける必要があるので、実質的な時間制限はある。疲れちゃうからな。


「ふぅ。にしても困ったな。なんとかあの奥に行きたいんだがな。何か良い方法はないか?」


「で、でしたら、僕の魔法で〈小さな光スモール・ライト〉というのがありまして、それを使えば、蝙蝠バットは寄って来ないと思います」


「ロイは魔法を使えたのか」


「はい。といっても、最低位のものなんですけど」


「いや、それにしても素晴らしい。ただ、本当に光だけで寄って来ないようになるのか?」


「ここの蝙蝠バットは基本的にこの洞窟から出ませんし、そもそも夜行性ですから、光には弱いんです。とはいっても、それほどの光ではないので、上位種やレベルの高い蝙蝠バットだと効かない可能性はあります。そのときは……」


「おう。俺が対処する」


「お、お願いします」


「それじゃ、行くか」


「は、はい。それでは、いきます。

——〈小さな光スモール・ライト〉」


 ロイが唱えると、ロイの指先に小さな光が咲いた。

 その光は、俺の想像よりも強くあたりを照らしてくれた。


「ところでロイ。この魔法、最初からつけてちゃダメだったのか?」


 明らかにさっきまでより明るくなって見やすい。


「で、ですが、この魔法を発動している間は常にMPを消費するので、MPの回復量が消費量に追いつかないんです」


「では仕方がないな。コウモリの地帯を抜けるまでとしよう」


「そ、そうしていただけると助かります」


「この辺りだな。さっきコウモリと交戦してたのは」


 どうやら魔法の効果は絶大だったようで、1匹としてこちらに向かってくるコウモリがいない。

 

「こ、この先は道が分岐します」


 ここまでは一本道だったからな。ようやく洞窟っぽくなってきたってところか。


「ほう。どっちに行くべきだと思う? ロイは」


「ぼ、僕は出来れば左に行きたいです。左には、蜚蠊コックローチの上位種が居るのが確認されていますので。それならば安全に狩りが出来ると思います」


「なるほど。では右は?」


「わかりません。蝙蝠バットの上位種がいるとユーライさんは言ってましたけど……実際のところはなんとも言えません。最奥まで到達された方がいないので」


 話を聞く限り、確かに左に行ってゴキブリ相手にレベリングをする方が良さそうだ。


 ただ——


「右に行くとしよう。ロイ」


 右の方が、面白そうだ。

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