第7話 ムカデの鍛治師

「空を覆う者?」


「えぇ。今まではこのようなことはなかったはずなのですが……1万や2万ではありません。いや、10万、20万ですら収まりません。恐らく、何百万、あるいは何千万という数の、飛蝗ローカストが、空を覆うのです」


 飛蝗ローカスト……つまりバッタか。ということはこれはいわゆる蝗害ってわけか。


「ムカデが襲われたってことか。それとも流されたのか?バッタの大群によって」


「い、いえ、直接的な被害は出ていません。あくまでもこの辺りを飛び回り、空を覆い、去って行くだけです。しかし、いつ何が起こるかわかりません。ですので、狩りができる者を10匹、置いているのです」


「なるほどなるほど」


 とはいっても、ユーライより圧倒的に弱い俺が出る幕は無さそうである。


「とはいえ、ミナト様が気にされる必要はございません。案内を続けましょう」 


「あぁ、頼む」


 再びユーライに引き連れられてしばらく歩く。


「ここは産卵場となっていますが……近年は使われておりません。というのも、80年ほど前、仲間を増やしすぎた時期がございまして、大変な食糧難に陥ったことがあります。その教訓から、仲間は多くとも100に収めることとしております」


「へぇ」


 ムカデも意外と苦労してるんだな。


「とまあ、これで大岩の紹介は終わりです」


 ありがとう、と言おうとしたとき、ある場所が目に留まる。


「ユーライ、あれはなんなんだ?」


 俺が指した先には、なぜか大量の石が転がっていた。


「あぁ、あれは……紹介するほどのものではないかと思いますが……案内致しましょうか?」


「もちろん、頼む」


 向かった先には、やはり石が転がっていた。一体何に使うのだろうか。


「おーい! ロイの奴はどこに行った!」


 ユーライが少し不機嫌そうに叫ぶ。


「は、はひぃ」


 多くのムカデの影から出てきたのは、少し小さめに思えるムカデであった。


「ここは一応鍛冶場となっています。このロイの希望で作った物ですが……一向に成果がなく、そろそろ取り壊そうかと……」


「そ、そんなぁ」


 気弱そうなムカデ——ロイは、相変わらず弱々しい声を上げた。


「狩りもせんし斥候にも出ん。お前が何か村の役に立ったか? 胸に手を当てて、考えてみると良い」


 なかなか手厳しいな、ユーライ。


 ただ、面白そうだ。


「鍛治師なのか? ロイは」


「そ、そうです。ぶ、武器を作れば、もっと狩りが楽になるんじゃないかって、それで、鍛治を……」


「それは凄いじゃないか。それで、どんな武器を?」


 俺が聞くと、ユーライが話に入ってくる。


「木の武器です。短剣を作ったようですが、あれなら使わずとも素手で事足ります。そもそも、我々は全ての足を使って走るので、常に武器を持つというのは向いていません」


 まあ道理といえば道理だな。

 ちなみに俺はムカデフォルムで走るとき、4つの大きい足(人間で言う四肢)は使わない。長さが違うので、大きい足を使うと小さい足が地面に着かず、人間が四足歩行の真似事をしたときと同じようなことになる。だから武器は常に持っておける。


 ……これはチャンスかもしれない。


「ユーライ、ロイを貰ってもいいか?」


「ロ、ロイをですか!? このような穀潰しであればいくらでも差し上げますが……」


 ロイはアワアワと焦っている。


「そうか。ではロイの回答次第だな。——どうだ?俺と一緒に来ないか?」


「ぼ、僕で良ければどこでもついていきます! 百足人センチピートマン様!」


 なんだか元気いっぱいだな。


「うむ……では」


〈個体名、ロイをパーティメンバーに招待しますか? Yes/No〉


 俺はYesを押す。


「あわわ、何か来ました!」


「俺のパーティに入ってくれるか?」


「も、もも、もちろんです」


〈パーティメンバーにロイが加わりました〉


 これで正式に俺とロイはチームってわけだ。


「しかしなぜロイを……?」


 ユーライが問うてくる。


「なに、俺が鍛治師を欲していたというだけさ。俺は将来的に、人間の街に入りたいと思っている」


「なんと!」


「えぇっ!?」


 ユーライとロイがお手本のように驚く。


魔銀ミスリルという鉱石を知っているか?」


「えぇ。200年前、かの大悪魔と人間との戦いは、魔銀ミスリルの取れる鉱山を巡ってのものでしたから。200年前、百足センチピートを含む多くの蟲が塒にしていた草原のすぐ近くで取れたはずです」


 なかなか興味深い話だ。いざ魔銀ミスリルを取るとなったときは、ユーライに案内させても良いかもしれない。


「ぼ、僕も知ってますよ。すごくすごく硬い鉱石で、あの、それで、鎧なんかにすると、伸び縮みするんです」


「そこだよ。ロイ。魔銀で作った鎧であれば、俺でも着ることができる。そんでもってフルアーマーにでもすれば、私は人間か、あるいは山小人ドワーフに見えると思わないか?」


「た、確かに、可能性はあるかもしれません」


 まあそれ以外にも色々と障壁はあるのだがな。


「ところでロイ、ステータスを見せてもらうことはできるか? もちろん、俺も見せる」


 チームを組むとなったからには、見ておかなくてはならない。有事の際に役立つだろう。


「もちろんです。——ステータス」


氏名:ロイ

種族:百足センチピート

職業:鍛治師フォージャー武器鍛治師ウェポン・フォージャー

レベル:17

HP:75/75

MP:170/170

筋力:215

防御:80

魔力:190

魔防:92

素早:488

器用:930

幸運:88

スキル:隠密lv3、魔法付与エンチャントlv1、精密動作lv6

種族スキル:炎脆弱lv5



 予想はしていたが、やっぱり俺よりレベルが高い。

 ただ、ステータスはレベルほど変わらない。

 突出している器用以外は俺でも対抗出来そう——というか、結構な項目で俺が勝っている。スキル構成から考えて、単なる戦闘であれば、多分勝てる。


 やはり百足人センチピートマンという種族が特別強いのだろう。


「ありがとう。ロイ。俺のステータスも見ると良い」


氏名:ミナト

種族:百足人センチピートマン

職業:百刀流ハンドレッツ

レベル:4

HP:80/80

MP:140/140

筋力:222

防御:75

魔力:140

魔防:75

素早:665

器用:390

幸運:180

スキル:回避lv1、隠密lv1、斬撃lv1

種族スキル:炎脆弱lv5、超マルチタスク、精密動作lv1

称号:ユニーク個体


「す、すごいですね。レベル4なのにこんなにステータスが高いだなんて……さすが百足人センチピートマン様です」


「ロイ、今後俺のことはミナトと呼ぶように」


「か、かしこまりました。ミナト様」

 

 ほんの少しだけロイの表情が和らいだ、気がした。

 

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