第6話 大岩

「それじゃ、よろしくな、ユーライ」


「おぉ、よろしくお願いいたします。百足人センチピートマン様」


「あー、俺のことはミナトって呼んでくれ」


「ミナト様、ですね。村の者にも伝えます」


 俺が今一番気になっていること。それは他でもない、ユーライのことだ。


「ユーライ、ステータス見せてもらうことってできる?」


 普通、ステータスを見せるというのは一種の自殺行為であるとされるが、この場合なら……


「もちろんでございます。——ステータス」


氏名:ユーライ

種族:上位老百足グレーター・エルダー・センチピート

職業:祭司ドルイド魔術師ウィザード魔法師マジックキャスター妖術師ソーサラー指導者リーダー

長老エルダー真なる祭司ハイ・ドルイド

レベル:69(MAX)

HP:1840/1840

MP:7500/7500

筋力:816↘︎

防御:566↘︎

魔力:8821

魔防:1203

素早:590↘︎

器用:775

幸運:400

スキル:隠密lv10、回避lv9、鷹の目lv4、鑑定lv10、看破lv10、眷属召喚・蟲サモン・インセクトlv7、肉体再生lv6

種族スキル:炎脆弱lv1

固有スキル:無性生殖

称号:長老、地獄の目撃者



「えぇ……」


 ドン引きである。200年以上生きているからには、ある程度は強いと思っていたが……ここまでとは。


「つ、強いですね……ユーライさん」


 思わず敬語を使ってしまった。強者へのリスペクトが溢れた。


「いえいえ、ミナト様ほどではございません」


 ふざけたことを言いやがる。

 嫌味でも世辞でもない。多分こいつ、本音で言ってる。

 百足人センチピートマンは強い、と200年前にイメージが固定されてしまったのだろうか。


 ここはどうすべきだろう。


 うむ。その通りである。とか言っても、いつかはバレそうだし……


「ユーライ、俺は……そう! 俺はまだこの世界に生まれ落ちたばかりなので、レベルが低いのだ。まだ一桁代なのだからな」


 ここは正直に言ってしまおう。〈鑑定〉使われたらバレるだろうし。


「なんと! それは素晴らしい。大いなる可能性を秘めた百足人センチピートマン様というわけですな?」


 うーん、なんだか余計にヒートアップしてる。


「まあ言いようによってはそうだ」


「おぉ……この老耄おいぼれをまだ神は見捨てていなかった……」


 こいつが人間であれば、多分泣きながら言っているところだろう。声が震えている。


「ステータスにあった矢印は、もしかしてそれが関係してるのか?」


 それ、とは老耄云々の話だ。


「その通りにございます。お恥ずかしながら、筋力、防御、素早さの3項目で全盛期を下回る能力となってしまっております」


 基本的にステータスが下がるということはなかったはずだが、NPCは別か。

 それにレベルも気になる。69というのは相当高いのだが、その後にはMAXの文字。プレイヤーの上限レベルは100だったので、そこも違うようだ。


「大岩にはどれくらいのムカデがいるんだ?」


 相当でかい岩だが、ムカデたちも相当でかい。

 単なる好奇心だが、聞いてみる。


「72匹であったはずです」


「な、ななじゅうに……」


 多すぎるだろ、あまりにも。岩をひっくり返したら、思った5倍の虫が湧き出てきたような気分。


 ただ、俄然興味は湧いた。


「俺も入らせてもらえないか?大岩の中」


「よ、よろしいのですか? ミナト様には狭いやもしれませんが……」


「構わない。見せてくれ」


「で、ではどうぞ。こちらが一応出入り口ということになっております」


 確かに隙間がある。立ったままでは当然入れないので、ムカデフォルムになって入る。


 キツさとか苦しさはそんなに感じなかった。意外とスルッと入れた。


「おぉ、なんというか……すごいな」


 大岩の下は地面が窪んでいた。大岩自体もアーチ状に湾曲しており、意外と高さがあった。

 30センチくらいだろうか。

 

 そんなスペースに、ムカデがうじゃうじゃいる。

 所狭し、というレベルではない。


 ムカデがムカデの上を平気で歩き回り、多くのムカデが重なり合っている。


 自分の体で耐性をつけておいてよかった。セカライをするまでの俺ならば、気持ち悪すぎて卒倒していたことだろう。


 俺に続いて大岩の下に入ってきたユーライがムカデたちの方を向く。


「皆の者! 百足人センチピートマンであられるミナト様がいらっしゃったぞ! 頭を下げよ!」


 ずっと思ってたが、このムカデたちちょっと知的すぎるな。ネズミはあんなに馬鹿だったのに。頭を下げる、なんて文化があるとは。

 とはいえ、ムカデはそもそも頭が超低い気がするんだけど。


 どうするのかと思えば、ムカデたちは人間で言う腰のあたりを少し上げた。

 こうすることで相対的に頭が低い、ってこと?

 わかんないもんだね。ムカデって。


「ミナト様が大岩を見て回りたいとのこと。私が案内するので、各々準備を進めよ」


 ユーライがそういうと、音も立たずにサササッと散っていくムカデたち。


「それでは、ひと通り案内いたします。と言っても、それほどのものではありませんが」


「頼む」


 ユーライはひとつ頷くと、歩き始める。


 その足は意外なほど早く止まった。


「ここは寝床です。一応草や葉を敷き詰めております。湿気が高いので非常に寝心地は良いです」


 ほう。ムカデは湿気が高いところを好むと聞いたことがある。

 ただ、こんなスペースで72匹も寝られるのだろうか。やっぱさっきみたいに上に乗って寝たりするのだろうか。


 俺は敷き詰められた草のひとつを手に取ってみる。その刹那——


〈この場所をリスポーン地点に設定しますか? Yes/No〉


 ウィンドウが表示される。


 最高の展開じゃないか。

 通常、リスポーン地点は家や宿などで設定できるが、まさかここもいけるとは。運営は俺を見捨てていなかった。


 迷わずYesを選択。これで死んでもここに戻って来れる。


「次に参りましょう」


 そんなことなどつや知らないユーライは、再び歩き始める。


「ここは狩りをしてくれる狩人たちの待機場です。72のうち30少々が狩人として餌を狩ってくれているのですが、その中から5匹は狩りに出ず、ここで待機してもらっております。緊急事態に備えて、ということですな」


 なるほど。話は理解したのだが……


「5匹、どころじゃなくないか? 見たところ10匹くらいいるみたいだけど」


 聞くと、ユーライはどこか渋い雰囲気を醸し出す。


「それなのですが……ここ数日、頭を悩ませる事態が起こっていまして……」


「話してくれ」


 何かはわからんが、ムカデに滅んでもらっては困る。俺のリスポーン地点なのだからな。


 ユーライは続けた。


「実は、空を覆う者たちがやってくるのです」


 



  

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