カルティエ大森林

第2話 森林

 眩いトンネルを抜けると、そこは森でした。

 予想はしてたけど、やっぱり森スタート。


 非人類系種族には、様々なデメリットがある。

 この状況もまさにそれで、非人類系を選択すると、スタートがその種族に応じた場所になってしまうのだ。

 人間ヒューマン森妖精エルフ山小人ドワーフなどであれば、最初の街『ライトワン』からスタートし、NPCによるチュートリアルが受けられるが、非人類系にはそれがない。

 当然こんな姿で街に入れるはずも無いので、武器も買えなければ、チームも組めない。

 このデメリットのために、非人類系は人気がない。ロマンは実利に勝てなかったようだ。

 

 マップの配布が無いのも恐らく非人類系種族のデメリットだろう。虫が地図持ってたらおかしいもんな。


 というか、百足人センチピートマンという種族からして、もしかすると亜人デミ・ヒューマンではあるのかもしれない。マンってついてるからな。

 亜人の中でも棲み分けはあり、森妖精エルフ山小人ドワーフは街に入れるが、小悪鬼ゴブリン豚悪鬼オークは入れない。百足人センチピートマンが仮に亜人だったとしても、後者に分類されることは間違いないので、正直あまり関係はないだろう。


 というところで、まずはステータスの確認からだな。


「ステータス」



氏名:ミナト

種族:百足人センチピートマン

職業:百刀流ハンドレッツ

レベル:1

HP:40/40

MP:100/100

筋力:100

防御:50

魔力:100

魔防:50

素早:500

器用:350

幸運:120

スキル:回避lv1、隠密lv1

種族スキル:炎脆弱lv5、超マルチタスク、精密動作lv1

称号:ユニーク個体


 セカライにおいて、初期ステータスは全項目で100が基準となっており、人間の初期ステータスは全て100で統一されている。

 そこから種族による補正が入り、山小人ドワーフならば器用が、巨人ジャイアントなら防御が上昇補正を受ける。

 といった具合であるため、俺のこのステータスは……


「うーん、HPと防御、魔防が大幅下降補正と」


 いわゆる紙耐久というやつだな。

 その代わりに素早さがとんでもない。それに相当な器用と申し訳程度の幸運補正。

 下降補正より上昇補正の方が大きいのは非人類系種族のメリットだろう。

 ステータスは、レベルアップのタイミングに限らず、プレイスタイルや種族補正によって随時上昇していくらしい。下がることはもちろんない。


 次はスキルの確認だな。いざ戦闘となったときに使えない、なんてことにならないように。



 回避lv1

 相手からの攻撃を低確率で回避することができる。


 隠密lv1

 足音と気配を消して行動することができる。


 炎脆弱lv5

 炎属性への脆弱性がかなり高い。


 超マルチタスク

 通常、同時に出来ない作業を並列して行うことが出来る。


 精密動作lv1

 精密かつ繊細な作業を正確に行うことができる。



 こんな感じか。

 回避、隠密は無難に有用なスキルっぽいな。

 超マルチタスクはどう転ぶかわからないが、もしかしたら壊れスキル、という可能性もありそう。

 精密動作も結構有用っぽい感じだな。戦闘でどうかはわからないけど。


 人間だった場合、初期スキルの中から好きなものをひとつ選んで獲得出来るらしい。

 好きに選べるとはいえひとつだけ。

 それに比べれば、炎脆弱lv5があるとはいえ4つも取得しているのは大きなアドバンテージだろう。


 とはいえ耐性は相当低い。戦闘における当面の目標は『なるべく攻撃を受けない』だろう。


 次に初期アイテムの確認といこう。

 人間であれば、初期アイテムとして布製の服と職業に応じた最低位の武器が配布されるらしいが……

 俺は『アイテムボックス』と書かれたウィンドウを押す。


 

 二刀流の双剣〈右〉

 二刀流の双剣〈左〉



 まあ、これも想像通り。いや、武器だけでもくれたことに感謝すべきかもしれない。

 流石にこんな百足に合う服はないってことだろう。

 魔法の糸で作られた服は伸び縮みすると聞いたので、着るとすればそれしかなさそう。

 鎧か何かで全身を覆うことが出来れば、もしかしたら人間の街にも入れるかもしれない。


 そのためにはレベル上げだな。手頃な魔物がいればどんどん狩りたいところ。

 ……さすがに初心者向けの森だよね?


——カサカサッ


 草が揺れる音。なにかいる。

 弱いやつで頼むよ。プレイヤーもやだよ。


「ネズミ……?」


 出てきたのはネズミだった。ただ、デカい。30センチくらいに見える。


 そんなネズミの頭上には白い字で下位劣小鼠レッサー・スモール・マウスと書かれている。

 黒字がプレイヤー、白字がNPCなはずなので、このネズミは野生のよわよわネズミだろう。

 お誂え向きだな。これに負けたら目も当てられない。


「やろうや。ネズ公」


 手に双剣を構える。


「チー! チュー!」


 ネズミもようやく俺を発見したようで、何の工夫もなく突進してくる。

 

 スキルのお披露目といこう。


〈回避〉


 心の中で唱えるだけで、スキルは発動される。


 猪のように猛進してくるネズミは、少しだけ横にずれるだけで簡単に回避することができた。

 低確率で発動、ということだったので少し心配していたが、低ランクの敵だと成功率が上がるのかもしれない。


 攻撃用のスキルや魔法は有していないので、ここはプレイヤースキルの見せ所。


 避けられてからも直進を続けていた鈍臭いネズミは、ようやく自分にブレーキをかけ、俺の方に向き直った。

 かと思えば再び突進を開始する。


「能のないヤツ」


 俺も二足歩行から四足歩行——改めて百足歩行でネズミに突進する。


 俺はネズミとぶつかる直前、右に少しだけずれる。

 ネズミがそれに対応出来るはずもなく、俺は左手に持つ双剣をすれ違いざまにネズミの脇腹に沿わせて斬りつける。


 次に振り返ったとき、ネズミはポリゴンとなって消えた。






 

 

 

 

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