綿あめ

 夏の雲をぼんやりと見上げていると、ふわふわした塊が綿あめのように見えてくる。そう言えば、満男叔父さんみつお兄ちゃんに綿あめを買ってもらったことがあったっけ。

 少し効きすぎた冷房の中、斎場の大きなガラス窓から空を見上げながら、私はぼんやりと思い出していた。

 ──好きなものを一つずつ買ってあげるよ

 そんな風に言われて神社の夏祭りを回ったことがあった。確か、弟と一緒に連れて行ってもらったんだったか。もう十年以上は前のことだ。

「私、綿あめ食べたい」

「こっちの大きい袋のやつでなくていいのか?」

「うん、こっちがいい」

 カラフルなキャラクターの袋に入ったものではなく、私は手持ちサイズのその場で作ってくれる方を選んだ。はっきりと覚えてないけれど、作るところを見たかったのだと思う。

 屋台のおじさんが竹の棒をひらりと振ると、雲のような綿あめがどんどん膨らんでいくのだ。渡された綿あめの雲は手元で見ると結構大きかった。そのてっぺんにパクリとかぶりつく。

「うわぁ」

 ふわふわの綿あめが、甘さを残してシュワッと溶けていく。

「うまいか?」

「うん」

 そうかそうかと優しく笑って、満男叔父さんはポンポンと私の頭を撫でた。

 甘くて、美味しかったな――。

 もう昨日から何度も泣いているのに、まだ涙は枯れないらしい。私は紙パックジュースの残りをズッっと音を立てて飲み切ると、折りたたみストローを引き抜いた。

 少しぼやけた視界に映るふわふわの雲に向けてストローを回してみる。

 くるくる、くるくると。綿あめを巻き取るように。


 了

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