母への電話

 母の携帯に電話を掛けると、ツーコールで出た。この時間なら大丈夫かなと思って掛けたものの、思った以上に直ぐに出たので少し焦った。話題が話題だけに、もう少し無機質な呼び出し音を聞きながら心を鎮めたかったというのに。

「もしもし、お母さん」

「はいはい」

「今度の日曜、そっち帰ろうと思うんだけど」

「いいけど、──どうかしたの?」

 少し不思議そうな声色だった。母に電話を掛けることはそれほど珍しいわけでも無いが、これくらいの用事ならLINEでも送ればいい。普段ならたぶんそうしてるだろうから、向こうが不思議がるのも仕方ない。

 ああ緊張してるなとは自覚していた。なんとなく顔が熱い気がして、携帯を持っていない方の手でぱたぱたと仰いでみたりする。

 母に電話をしたのは、今度の休みにさとしくんを連れて行きたいのを伝えるためだった。付き合ってる人がいるとかもわざわざ言ってなかったし、いざ伝えるとなるとどう言ったものか。

「日曜って、お父さんはいるかな?」とりあえず必要条件の確認から。

「特に何も言ってなかったからいると思うよ」

 父が家にいなければ話は始まらないので、まずそこを。おさむもいたほうが良いのかな? わたしは3つ下の弟の顔を思い浮かべる。

「修は?」

「修はわからないけど。どうしたのよ」

 いよいよ母はなにかおかしいぞと思い始めているようだった。いや、多分最初から変だと思われていたかも。

「日曜に、お付き合いしてる人を連れて行こうと思っています」

 よくわからないけど、敬語になった。

「おめでとう、でいいのよね? お父さんにも報告しとかないとね」

 電話の向こうで一瞬息を呑むような間を感じたが、すぐにいつも通りの柔らかい母の声が聞こえて、わたしもほっと息をつくのだった。


 了

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