母への電話
母の携帯に電話を掛けると、
「もしもし、お母さん」
「はいはい」
「今度の日曜、そっち帰ろうと思うんだけど」
「いいけど、──どうかしたの?」
少し不思議そうな声色だった。母に電話を掛けることはそれほど珍しいわけでも無いが、これくらいの用事ならLINEでも送ればいい。普段ならたぶんそうしてるだろうから、向こうが不思議がるのも仕方ない。
ああ緊張してるなとは自覚していた。なんとなく顔が熱い気がして、携帯を持っていない方の手でぱたぱたと仰いでみたりする。
母に電話をしたのは、今度の休みに
「日曜って、お父さんはいるかな?」とりあえず必要条件の確認から。
「特に何も言ってなかったからいると思うよ」
父が家にいなければ話は始まらないので、まずそこを。
「修は?」
「修はわからないけど。どうしたのよ」
いよいよ母はなにかおかしいぞと思い始めているようだった。いや、多分最初から変だと思われていたかも。
「日曜に、お付き合いしてる人を連れて行こうと思っています」
よくわからないけど、敬語になった。
「おめでとう、でいいのよね? お父さんにも報告しとかないとね」
電話の向こうで一瞬息を呑むような間を感じたが、すぐにいつも通りの柔らかい母の声が聞こえて、わたしもほっと息をつくのだった。
了
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