歌詞カード

 引っ越しの荷物を整理していると、押入れに仕舞い込まれていた箱から懐かしい漫画が出てきた。子供の頃によく読んだ漫画だった。パラパラとめくると、少し古い紙の匂いが鼻の奥をツンとくすぐった。

 懐かしいな、どんな話だったっけ、と何冊目かを手に取ると本の間になにかが挟まっていた。

 

 それは黄ばんだ歌詞カードだった。

 

 名刺よりも一回りほど大きいサイズに折りたたまれた紙。そういえばCDブックレットよりも更に前は、カセットテープの大きさに歌詞カードが折りたたまれていたのだ。広げると、確かレコードのジャケットくらいの大きさになる。

 

 ゆっくりと開くと、劣化して薄くなった紙に、見覚えのある曲が並んでいた。それは、昔大好きだったアイドルグループのものだった。

 これはたしか姉のものだ。あの頃、二人でカセットデッキに向かって寝そべって、これを見ながら何度も歌った。この曲も同じ人が作曲してるんだとか、この人の作詞が好きだとか。隅から隅まで、それこそ穴が空くほど読み込んだ日々が懐かしくあたまをよぎる。


 姉とは、彼女が遠方に嫁いでからは随分と疎遠になってしまった。物理的な距離が離れてしまうと、なかなか会う機会も作れない。最近は特別に理由が無いとお互いに連絡もしない。一緒に歌ったあの頃は、こんな風に離れて暮らす未来が訪れることなんてまるで想像していなかった。


 写真に撮って送ってみようか。

 

 歌詞カードをなぞると、破れを補修したセロハンテープがペリペリと剥がれ落ちた。


 了

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