第2話 4度目の春。

 気づいたら俺は自分の部屋のベットにいた。


 「くそ、またか」


 苛立ち紛れに呟く。

 ターゲットが途中で死ぬと、その日の最初からやり直し。なのに相手は目を離すと勝手に死にそうになる不幸体質女。誰だこれが楽勝だって言ったやつ。あ、俺か。


 「はーーーーーーーー」

 「朝からため息つくと幸せが逃げてしまうぞ、少年」

 「…そう思うなら刑を軽くしてくれませんかね、カミサマ」


 このふざけた刑を課した張本人、自称「カミサマ」が、楽しそうにくつくつと笑う。こいつは本当に神出鬼没でいつも突然現れる。そして無駄に距離が近い。

 俺は舌打ちしたい衝動をなんとか堪えて、ジトリとした視線を向けた。


 「これでも充分考慮してるつもりだが?朝の駅のホームなんてフラグもいいところだろうが」


 そう言いながら勝手に炊飯器から米をよそい、味噌汁、目玉焼き、納豆を2人分テーブルにテキパキと並べる。

 イラっとしながらも、俺は何も言い返すことなく、黙々と制服に袖を通す。念の為言うが、ぐうの音も出ないから言い返さないんじゃなくて、言い返すと面倒臭いから言い返さないんだからな。…て、なんか言い訳くさくてダサい気がするから、やっぱり聞かなかった事にしてくれ。


 「お前今俺の事面倒臭いと思っただろう」

 「………」

 「おい」


 あーーーーーーー面倒臭え!!!!!

 苛立ちをなんとか飲みこみ、なるべく反応しないように着替えを終える。


 「おい、朝ごはんは?」

 「いらねえ」

 「朝ごはんはしっかり食べないと、昼まで保たないぞ、…て、おい!聞いてんのかハル!」


 お前は俺の母ちゃんか!

 内心イライラしながらも、カミサマの声を背に玄関の扉を乱暴に閉め、足早にターゲットの元に向かう。また勝手に死なれたらたまったもんじゃない。


 「おはよう、ハル」

 「はよ」

 「お前なんで傘持ってんの?今日雨予報じゃないぞ」

 「気にすんな」


 いまだに寝ぼけ眼の彼女の寝癖を直してやりつつ、周囲に意識を向ける。

 今のところ通常通り。

 鳩のフンは傘で防いだし、突っ込んできたバイクには抱えてかわし、道路に飛び込んだ猫は、彼女が助けに行く前に俺が飛び込んで助けに行った。


 「相変わらず反射神経がいいな」

 「…どーも」


 そりゃあ、これから起こることがわかってるんだから、防げて当然だろ。

 ほーっと感心している彼女に呆れた目線を向け、俺は他にも何かないかとキョロキョロと目線を周囲に向ける。

 そして、あの駅のホームに到着。


 「今日の体育ってバレーだろー?」

 「おー」

 「私バレー苦手なんだよね」

 「顔面でキャッチするからだろ」

 「そうなんだよー。あれホント痛いんだよねえ」

 

 そう言って、電車がまだかどうか前のめりになった彼女の姿を、俺は前回の経験がフラッシュバックした。


 「ーーーーーーーアカネ!!!!!」

 「ーーーーーーーーーーーっ」


 彼女の腕をグイッと引っ張ると、目の前には電車の影。

 ドッドッド、と心臓が暴れる。額には冷や汗。あっぶねえ…またやらかすとこだった。

 ちらりと彼女を見ると、死にかけた当の本人は、びっくりしたように目をパチクリとさせていた。


 「びっくりし過ぎて目が冴えた」

 「お前はもう少し危機感をもて」

 「いてっ」


 俺は呆れまじりにため息をつきつつ、彼女の額にデコピンをかました。



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